第10話
敵軍による突然のユーリア襲撃をきっかけに、ユーリア軍を始め、我が国は戦士たちの強化訓練を開始した。
「本日より!特別強化訓練を開始する!!実戦と同じ心持ちで、死ぬ気で訓練に励め!!」
『は!!』
----第十話 宣戦布告----
本日より、戦士のみではなく、隊長も訓練へと参加することとなった。新米兵士や中堅兵士と違い、何度も争いを経験している隊長に、初めはみな敵わなかった。
だが、幾度の訓練を重ねるうちに、中堅兵士や評価されていた新人たちは、徐々に隊長と互角ほどになっていった。
(飛行魔法で体重を軽く…!水魔法を放った後、すぐに切りかえて電撃を…!)
「兵士フルミネ!その程度の切り替え速度では私に追いつけないぞ!!まずは一撃の威力ではなく手数を狙え!特に電撃魔法はかなり手数が有効な魔術だ!!」
「はい!やってみます!」
隊長からのアドバイスを受けながら、私も隊長の訓練を受けていた。
「俺らは手も足も出ないのに、フルミネのやつ、助言に返事までしてやがる…」
「敵わねぇな…俺らもあぁならないといけないのか…」
他の兵士たちが皆、私と隊長の訓練を眺めている。だが、そんな視線など気にならないほど、私は必死であった。
(ああは言われたけど、手数があっても当たらなきゃ意味ない…だからまずは水魔法を足元に…!)
「…っ!やるな、フルミネよ…」
(体勢を崩したら、一度退避…!隙を見て電撃を…!)
「ぐぁっ…!」
隊長は痺れながら膝から崩れ落ち、わずか僅差で私が一本を勝ち取った。
すると、隊長はゆっくりと立ち上がり、私に提案を始めた。
「兵士フルミネよ、国の本部の人間と訓練をする気は無いか?」
「国の…?」
実力を認められたのだろう、私は確かにうれしかったし、少し興味があった。
だが、ここユーリアには母がおり、せっかく再会した母と離れたくはなかった。
「…すみません、その申し出は受けられません。」
「…そうか、分かった。訓練を積む気が無いわけではないようだな。」
「…はい。」
隊長は私の想いを汲み取ってくれたのか、理解していた。その日は隊長との会話を最後に、無事、特殊訓練初日は問題なく終えられた。
私が寮へと戻ろうとした時、街から少し離れたあたりから爆発音がした。
「…またか。」
私はその音に、もう驚きも恐怖も覚えていなかった。前日にあった争い、それが引き金となり、ユーリアを含む6つの街で、ありとあらゆる場所から轟音が鳴り響いていた。私含むユーリア軍も、訓練の合間に防衛戦を繰り返していた。
「招集、かけられないといいな…」
私は自己の心配のみをしてしまっていた。自らが巻き込まれなければ、私とキュルネ、そして母が無事であれば、私は他者などどうでもよかった。
「キュー!!」
寮へと戻り、呆けていると、窓の外から突然キュルネが飛び出してきた。
「キュルネ!?」
キュルネの体をよく見ると、小さな木材の棘、そして少しの煤が付いていた。
おそらく、爆発魔法がキュルネの小屋に当たり、キュルネも巻き込まれてしまったのだろう。
「ごめんね…私がしっかり面倒を見ていなかったから…」
「もう…平穏は無理だよ、フルミネ…」
涙を流すキュルネを見た私は、怒りを抑えきれなかった。身体中から溢れそうになる魔力を必死に抑え、キュルネに向かい、窓から飛び出す。
「行くよ、キュルネ。」
「…わかった、やろう」
契約を交わしていた私たちは、連動した魔力を通じて感情が共有されてしまったのだろう。
一度も怒りなど見せなかったキュルネが、その日初めて、私と同じ憤りを感じていた。
「…キュルネ、あそこに向かって。」
「…わかった」
私たちは争いの中心部へと向かう。
それぞれの魔法がぶつかり合い、一般市民が入れば、1秒も持たず四肢が崩れ落ちてしまうような場所。
辿り着いた瞬間、私は大きく息を吸い込み、詠唱を始める。
『空裂き、海裂き、光裂き、天地を崩す雷よ。今、此処に収束し、全ての生命を引き裂かん。【災禍】』
知識を深め、イメージを広げ、フルミネが練り続けていた最大出力の魔法。それは、大地すらも引き裂いてしまいそうな、災いそのものかのような魔法。
電撃が雲中を蔓延り、ありとあらゆる空間を引き裂いた。それは瞬く間に地面へと達し、おおよそマグニチュード5の衝撃を走らせる。収束した雷撃は衝撃に合わせ発散し、炎へと変わり、大爆発を巻き起こした。
敵軍のみならずユーリア軍まで吹き飛ばされ、キュルネさえも、その衝撃にどうにか耐えきっているほどだった。
「フルミネ…ここからどうするの…?」
「ごめんねキュルネ。これは私の勝手。軍を巻き込むつもりもないし、キュルネに付いてきてとも言わない。これは私がした宣戦布告。」
『始めるよ。魔法大戦を』
次章 魔法大戦
----第十話 終----
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