第二章 戦地へ

第6話


----第六話 ユーリア----


ユーリアへと入った途端、燃える野原の匂いと、荒れ狂う空の音が耳に入る。


「…エルドとは全然違う。温かくもないし落ち着きもしない。ほんとに人が暮らしてるのかな…」


しばらく飛んでいると、右目の瞳孔に崖が入り込む。

その瞬間、上から岩の崩れる音がした。


「フルミネ!掴まって!」


私はキュルネに必死にしがみつき、どうにか巻き込まれずに済んだ。


「ありがとう、キュルネ…キュルネは怪我してない?」

「うん、大丈夫」

「そう、よかった。」


それからまたしばらく飛んだ頃、1つの大きな集落が目の前に現れる。


「ここが、ユーリアの街…?エルドとは…全然違う。」


エルドのような、厚い外壁に囲まれただけの平穏な雰囲気とは違い、鋭い罠が配置された柵や、岩を飛ばすための兵器。そして門には、武装をした兵士が立っている。


「…勝手に入るのは許されなさそうだね。」


私は素直に門へと降り、兵士に許可を取りに行く。


「すみません、エルドから来ました、フルミネと言います。街に入る許可を頂けないでしょうか。」

「…少女がこの街になんの用だ?」

「あー…その、なんていうか…引越しで、そう。引越しを…この街に…」

「…念の為、隊長に確認を取る。そこで待機していろ。」


そんな簡単に通るわけが無いか。と肩を落としつつ、隊長とやらを待っていた。

10分ほど経ったころだろうか、門の先から屈強な男が現れた。


「この少女か?」

「は!この少女が集落に入る許可が欲しいとの申し出です!」

「…待て、君はどこから来たと言った?」

「え?あ、エルドです。あっちの…」


私はエルドの方角に指をさす。

すると、隊長は合点がいったような顔をし、話し出す。


「君は、フルミネだな?」

「はい、そうです。どうして、名前を…?」

「国の本部の者から聞いている。逸材が現れたため、直に後輩になるかもしれないとな。まぁ、断られたと、肩を落としていたよ。」


隊長と呼ばれる男は笑い声を上げ、それに動揺した私も、共にぎこちない笑い声をあげる。

ある程度笑い終えた頃、隊長は息を整え、話し始める。


「色々あった事も、風の便りで少しばかりは把握している。その顔、あの知らせには誤解があるようだな?」


私は隊長が事情を理解していることを知り、少し明るい表情になる。


「は、はい!ただ、街にはもう居づらくて…」

「そうか、分かった。集落への出入りを許可しよう。」


隊長はすぐさま二つ返事で許可をくれた。


「ありがとうございます…!」


兵士が門の前を掃け、道を作ってくれる。そして私は、着いてこいと合図を出す隊長の後ろを歩き始める。

少しばかり歩いたところで、隊長が口を開く。


「少しばかり、質問や雑談をしても構わないかね?」

「は、はい。大丈夫です。」


隊長は、私の隣を歩くキュルネに目をやる。


「君についている竜だが…ペットか何かなのか?」

「あ、この子…キュルネとは、幼少の頃からの友達で、キュルネがさまよっていた時、私が助けたんです。」


隊長は、ふむ…と声を漏らし、少しだけ首を縦に動かす。ちょっとばかりの間を置き、隊長はもう一度、口を開く。


「そうか、幼少の頃から…もうひとつ、質問をしても構わないかな?」

「はい、構いません。」

「フルミネよ、年はいくつかな?」

「今は、15です。あと二ヶ月ほどで16になります。」


隊長は少し目を見開き、先程より上擦った声色で話し出す。


「ほう、15と…それでいて国の本部から絶賛されているのか…」

「絶賛…されているんですね…」

「そうか、自身では知らないのか。本部から君を称える声が何度も入ってくる。私自身も、どんな魔術師なのか期待していた。それがまさか、弱冠15の少女とは…」


情報を整理しているのか、隊長は俯き、少し間を置いてから、顔を上げ、もう一度話し始めた。


「何度も質問をしてしまって、すまない。君の情報はよく分かった。よし、ここが目的地だ。」

「ここは…」


顔を上げると、そこには大きな扉を構え、上部には紋章を掲げた建物があった。


「ユーリア軍の本部だ。勇気が無ければ、ただ住宅を貸すだけでも問題ないが…良ければ、どうだ?君の実力があれば、最前線で活躍できるだろう。」


正直、この時の私にも、勇気などなかった。

ただあったのは、認められた実力、そして年齢相応の、膨大な好奇心。


「…やります。」


隊長は驚いたような顔をするも、すぐにもう一度口を開いた。


「本当に構わんのだな?当たり前だが、いつ死んでもおかしくない。普通の生活を送れば、君はこの先50年以上生きられるはずだ。その命を賭してまで、最前線に立ちたいか?」


そう言われ、私は死を再認識し、怯んでしまった。だが、幼稚な私には、決めてしまった覚悟を変えれなかった。


「やります。死んだって構いません。」

「そうか…」


私の覚悟を飲み込み、隊長は声を上げる。


「兵士フルミネよ!覚悟は受け取った!我が国のために、命を賭せ!」


隊長の声量に、またもや怯んでしまうも、隊長に共鳴するように返事をした。


「はい!!」


私はこの日、晴れて…とは言い難いかもしれないが、魔術師として、兵士になった。

まだ少しだけ、手と足が震える私を見兼ねて、隊長が肩を叩き、声をかけてくれた。


「恐怖が拭いきれなければ、いつでも辞めてしまって構わない。少年少女を戦地に捨てる趣味は、我々、軍隊にはないからな。」


隊長の言葉に、私は少し慰められ、ちょっとばかり力を抜く。

その後、私は用意してくれた宿へと向かう。

慣れない環境に、なかなか寝付けなかったが、幸い、空腹や退屈に困ることはなかった。

深夜一時頃、私はその日を終えた。

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一方、国の本部は、騒がしくなっていた。


「国王!大変なしらせが!」


一人の兵士がそそくさと王室の扉を開き、玉座の前に膝をつく。


「なんの騒ぎだ?」


息をつき、兵士が絶望したような表情をし、顔を上げる。


「本国の街の中の、2つとの連絡が…途絶えました…」


----第六話 終----

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