第11話 怪人の手記

痛快だった。そして正義を執行できたことに私は満足だった。あの言葉も伝え、史郎を解放した。


だが、私の中の遠藤平吉はまだ満足していなかった。あの事件では、家路が主に出てしまった。強いインパクトを残してしまった。本来の目的は違うのだ。未解決事件にし、次々に現れる犯罪者達を常に警察に警戒させることが本来の目的なのだ。あれでは、一度解決されたらそれで終わってしまう、所詮歴史に埋もれる事件だ。違う。常に更新され続ける脅威として遠藤平吉はあり続けなければならないのだ。

10年の時を経て、内田と二宮の中の遠藤平吉が成熟した。それをきっかけに、私の中の遠藤平吉が動き出した。10年前にやり残した、脅威を作り出す為に。




後藤は、1冊の手記をそっとデスクに置き、椅子にもたれ掛かり天井を仰いだ。

世間を騒がせ、警察にとって2度も脅威となった遠藤平吉という怪人の手記は、ここで終わっていた。

捜査員は全員出払っている。今だ逃走中の二宮を追っている。

気掛かりが1つあった。

それは、遠藤平吉という怪人を他人に付与させることが可能であるということだ。それが本当ならば、この先、遠藤平吉は止めどなく警察の前に現れ、その度に脅威となる事は明白だ。常に警戒しなければならない。それが遠藤平吉の本当の狙いだとすれば、家路写楽に内在した遠藤平吉の想いは達成されたことになる。つまり、全て遠藤平吉の思惑通りになるということだ。


全て思惑通りですね、家路さん。


ポツリと漏らす独り言は天井に消えていく。

スマホが鳴る。


...いちいちこれから緊張しなきゃ無いのか...


後藤は一呼吸置いてから電話に出る。


...


早速か...


後藤は椅子から立ち上がりコートを羽織った。ドアを開け部屋を出る。


あ、後藤です。山下さん....

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おっさん珍道中9~家路写楽の憂鬱~ 紫音 @purplemu49

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