第3節:「未来の支持者たち」

夜の9時を回った頃、私は自宅のデスクでスマホを握りしめていた。

逡巡した末に、深呼吸をしてからSNSを開き、短い投稿をアップロードする。


「私たちは立ち止まらない。莉音のためにも、真実を見つける。」


 投稿後、すぐに「いいね」やコメントのカウントが一気に跳ね上がる。

タイムラインを遡ると、こんな投稿が目に飛び込んできた。


@mirai_fan_love 未来ちゃん…やっぱりあなたがリーダーで良かった! どんな真実が隠れていても、応援してるからね!


@worried_otaku 無理だけはしないで…。でも私も事件の真相が知りたい。 未来ちゃんが動いてくれるなら信じるよ。


@antilfrz_die は? メンバーに犯人いるんじゃねーの? リーダーぶってるけどどうせ隠してんだろ?


@noforgiveness #莉音ちゃんのために真相を追え って言うけど、 結局どいつもこいつも黙ってたんじゃん? いまさら動いても信用できねえ。


 喜びと励ましの言葉があれば、アンチや疑念が渦巻く書き込みもある。

心強さと同時に居心地の悪さを感じながら、私はさらにタイムラインを眺めていた。すると、通知が一つ届く。

DMだ。

相手はアイコンも名前も見慣れない、完全に匿名のアカウント。

恐る恐るメッセージを開いてみると、予想を超える内容が目に飛び込んでくる。


「――初めまして、突然のDMごめんなさい。私、莉音ちゃんのスマホについて大事なことを知っています。警察が押収したと聞きましたが、あのスマホには誰も気づいていない秘密があるはずです。詳しくはここでは言えません。もし本気で真実を追いたいのなら、私の言葉を信じてください。詳細を教えたいけど、あなたを巻き込んでいいのかわからない…。また連絡します。」


 文章だけでは相手の意図を測りかねる。

罠やデマの可能性も捨てきれないし、どこで情報を入手したのかすら不明だ。

けれど、どんな可能性でも救いになり得ると思ってしまう自分がいる。

私は迷いながらも、返信を打ち始めた。


「あなたの言う秘密が本当なら、教えてほしいです。誰も巻き込まない方法を探します。どうか少しでもいいので、莉音のために力を貸してください。」


 指が震えるのを感じながら“送信”をタップする。

虚空の相手に手を伸ばすような行為だが、じっとしていられない焦燥感に突き動かされていた。


 一方で、私の投稿に対するファンの反応は着実に増え続けている。

応援を表明する人も少なくない。


@mirai_supp 未来ちゃんが動いてくれるなら安心! ずっとついてくよ!


@idol_lover245 マジでか…メンバーから真実暴くとか怖いけど、信じたい!


@doubtful_eye いまさら正義ヅラ? どうせ売名だろ…


@lfrz_hate 内部の犯人隠してるくせに、被害者面すんなよ


 支持してくれる人がいるからこそ、私は折れずにいられる。

それでも、誹謗中傷や疑念に満ちた視線を完全に無視できるわけじゃない。

ネットの熱狂があまりに過剰で、私たちの現実を歪めてしまうのではないかという怖ささえ感じる。

そんな中で、匿名のDMだけが、今の私には微かな光のようにも思えた。


 「莉音のスマホに秘密があるなら……何が隠されているんだろう?」


 頭の中で疑問が渦巻く。

事件以来、あのスマホがずっと鍵になると感じていたけれど、警察に渡ったまま私たちメンバーは触れられない。

唯一の望みは、この匿名の人物が本当に真相を知っていること。

それが叶わなければ、私はただ真っ暗なトンネルを手探りで進んでいるに過ぎない――。


 夜は深まるばかり。SNSやファンサイトは変わらず盛り上がり続け、一方的な推測や陰謀論が絶え間なく更新されている。

応援する人もいれば、怪しむ人、苛立ちをぶつける人もいる。

私はそうした声を横目で見つめながら、あの匿名DMが再び通知を鳴らすのを、ひそかに待ち続けていた。

誰にも言えない不安とともに――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る