第18話 努力が報われる世界

 イリスとオスカーは、エリオットが作り上げた剣を手に取り、細部までじっくりと観察していた。その剣は初めて作ったとは思えないほどの完成度で、淡く光る魔力が込められているのが目に見える。


 イリスは感心しながら呟いた。


「まさかとは思ったけど、本当にあんなことで成功するとはね……。」


 オスカーも腕を組みながら頷いた。


「これは認めざるを得ないな。あのやり方本当に意味があったとは……。」


 その言葉を聞いたノアは、満足そうに胸を張りながら言い放つ。


「ほら、言ったとおりだろ?この世の真理は、ただ繰り返すことだ。」


 イリスはため息交じりに笑いながら返す。


「もう、ノアのやることにこれ以上つべこべ言わないわ。これで十分証明されたもの。進んでやりたくはないけど。」


 オスカーも肩をすくめて同意した。


「まったくだ。ここまで結果が出ちゃったら、俺たちに文句を言う理由なんてないよ。進んでやりたくはないが。」


 ノアは最後の一言は余計だなと感じながら、満足げに頷き話を次に進めた。


「分かってくれたならそれでいい。それで――例の物は?」


「例の物……?」


 エリオットが首をかしげて尋ねると、イリスが微笑みながら答えた。


「もちろん、ちゃんと取ってきたわよ。本当に死ぬかと思ったけどね。」


 そう言いながら、彼女はアイテムボックスから輝く鉱石の塊を取り出した。その鉱石はどんな光源も反射するかのように鈍く輝き、一目で上質なものであることが分かる。


 それを見たエリオットは目を見開き、驚きの声を上げた。


「……どうやってこんな質のいい鉱石を手に入れたんですか!今、質の高い鉱石が取れる最深部は封鎖されているはずなのに!」


 イリスはよくぞ聞いてくれたというように答える。


「この1か月間でね、ギルドの依頼を片っ端から受けて、鉱山の魔物を討伐護衛を受けてきたのよ。とにかく苦労したけど、何とかこれを手に入れることができたわ。」


 オスカーが手に持った鉱石をノアに渡す。


「いやもう、正直あんな危険な護衛任務二度とやりたくないけどな。で、これをどうするんだ?」


 ノアはにやりと笑い、エリオットにその鉱石を手渡しながら言った。


「それはもちろん、エリオット君がこれで剣を作るのよ。」


 エリオットは目の前の鉱石を見つめながら、手が震えるのを抑えきれなかった。


「……出来ません。僕が、これで剣を……。素材を無駄にするだけです。こんな質のいい鉱石、緊張してどう打っていいか分からないですよ。」


 その言葉にノアは首を傾げ、信じられないというような表情を浮かべた。


「何を言ってるんだよ。今日まで打ちまくってたじゃないか?いつも通りに打てばいいんだ。」


 エリオットは肩を落とし、ハンマーを握った手に力を込められないまま答えた。


「あれは……無心で何も考えずに打ってただけで、今回は違うじゃないですか!これが失敗したら、どうすればいいか……。」


 だが、ノアはその言葉を即座に否定した。


「いいや、同じだ!いつもと同じように打てばいいだけだ!」


 その言葉に、エリオットはさらに困惑した表情を浮かべた。


「……同じ……?」


 ノアはエリオットの手に強引にハンマーを持たせ、鉱石を握らせる。そして、彼をじっと見つめて断言した。


「いいか、心を無心にして打て。ただ手を動かせ。何も考えなくていい。」


「……心を、無心に……。」


 エリオットの目が次第に虚ろになっていく。ノアの言葉は、半ば洗脳に近い説得力を帯びていた。


 イリスとオスカーはその様子を引きながら見守るしかなかった。


 イリスは眉をひそめながらオスカーに小声で呟く。


「これ、大丈夫なの……?何かもう、エリオットが操られてるみたいだけど……。」


「僕に聞くなよ!明らかに鍛冶していい精神じゃないけど、何か意味があるんだろう、多分……。」


 二人は不安を抱きつつも、工房の片隅で静かに見守った。


 ――エリオットは、虚ろな目のままハンマーを振り上げ、ぶつぶつ呟きながら、金床に置かれた鉱石を叩き始める。


「……無心……無心……。」


 響き渡る金属音。エリオットが無心でハンマーを振り続けていると、突然、金床の上の剣が強烈な光を放ち始めた。工房全体がその光に包まれ、眩しさのあまりイリスとオスカー、さらにはノアも思わず目を覆った。


「な、何だこれ……!」


 オスカーが驚愕の声を上げる中、イリスは顔をしかめながら光の源を凝視しようとしたが、それはあまりに眩しすぎて見ることができない。


 だが、その光の中でもエリオットは動じなかった。ただ無心に、ハンマーを振り下ろし続ける。


「……打て……繰り返す……。」


 彼の言葉は小さな呟きのようだったが、その音が工房に響くたび、剣の光はさらに強まっていった。そして――


 エリオットの手元には、神秘的ながらも落ち着いた輝きを放つ一本の剣が現れた。


 それはどこか神々しさを感じさせる美しい剣だったが、無駄な装飾はなく、むしろ実用的なデザインに仕上がっている。その姿はまるで、エリオットがこれまでの地獄のような努力をすべて形にしたかのようだった。


「……できた?」


 イリスが呟きながら近づこうとしたその瞬間、エリオットが剣を炉の方へ持ち上げた。


「えっ、ちょっと待って!?」


「……打って溶かして繰り返す……。」


 エリオットは無表情のまま言いながら、いつもの習慣で剣を炉に入れようとしていた。


「成功してるぞ!」


 ノアが素早くエリオットの腕を掴み、炉に入れるのを阻止した。


「……成功?」


 エリオットはその言葉にようやく我に返り、自分が作り上げた剣を見つめた。そして、その神秘的な輝きを前に、ようやく驚きの表情を浮かべた。


「……まぐれじゃなかった……のか……?」


 その時、工房中の職人たちが物音を聞きつけて集まってきた。


「おい、何だこの光は?」

「……その剣は、エリオットが打ったのか?」

「信じられない……!」


 ざわざわとざわめきながら、職人たちはエリオットの周りに集まり、彼が手にした剣をじっと見つめた。そして次第に、その驚きが感心と賞賛の声に変わっていく。


「……すげえな。俺でもこんな剣は打てねえ。」

「まさかエリオットが……あのエリオットがここまでやるとは。」

「これはただの剣じゃない。まるで魔剣のようだな……。」


 賞賛の声を耳にしたエリオットは、戸惑いながらもその剣を見下ろした。


「……まさか……作れるとは思わなかった……?」


 親方のガルドも人々の間を掻き分けてやって来た。そしてエリオットの剣をじっと見つめた後、しばらく無言で腕を組み、重々しい声で言った。


「間違いねえ……これは本物だ。まだまだ未熟なところはあるが、納品するのに十分なレベルだ。」


 その言葉に、工房の中に一瞬の静寂が訪れた。だがすぐに、歓声と拍手が響き渡る。

 

 エリオットはその場に立ち尽くしながら、手にした剣を見つめていた。夢にまで見た「自分の剣」が、ここにある。それは紛れもなく、自分が打ち続けた先にたどり着いた成果だった――。


 彼の胸の中には、初めて感じる誇りと達成感が静かに広がっていった。


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