010 知らない街角

 先日、役所での届け出用事があり、半休を取っていってきました。

 用事自体はさほどかからず終えることができたのですが、受付場所が普段行かない地区の建物だったので、ちょっとした小旅行気分になったという話です。




 普段の人の行動範囲は、自分で思うより狭いものだと感じています。

 家と仕事場の往復。休日は買い出し。たまにぶらりと歩いたとしても、気が付けばよく行く店、以前行ったことのある店を周回してしまっている。

 たまには見慣れない道をあえて選んでみたり、雑誌やネットにあった新しいカフェを開拓してみたりもするのですが、時間と気持ちに余裕が無いとそれすらも遠のいてしまいます。

 効率重視。短時間で事を終えられるようにというものばかりですね。

 特に今は寒い季節ですから。早く家に帰りたい。


 先日行った場所は、10年か、それ以上前に通ったことのある場所でした。ですがさすがに昔過ぎて見覚えが無い。

 あれ、こんな時計塔なんてあったっけ? と思うほどに知らない景色が広がっている。自宅からも徒歩1時間以内に行ける所でしたから、ものすごい遠いというわけでもないのに。

 用事が無ければ足を向けるなんてことは無かったかと思います。


 大きな駅の裏側で、いわゆるメインの通りからは少し外れた区画。

 高層ビルが立ち並ぶものの、商業区ではないので行きかう人もまばら。平日の午後三時前後という、半端な時間のせいもあったのでしょう。私と同じように用のある人しか歩いていない閑散とした空気がありました。

 開いている店はコンビニぐらい。

 車の往来すら数えるほどで、観光客の姿は皆無。

 違和感はそのせいもあったかもしれません。最近のインバウンドで、町中は地元民より観光客の方が多い、という印象でしたから。


 普段なら根雪で道は真っ白の季節なのに、今年も暖冬で路肩に小山がある程度。

 雲も無い快晴の空の下。日没1時間半前では既に西の地平線近くまで太陽は降りていて、足元には柔らかい影も無い。けれどまだ十分に明るい冬の午後。

 空気は冷たく澄んでいる。

 10年前と大きく変わっていない街並みは、人の意識の外でゆっくりと時間を重ねていました。その証拠に道や建物の壁色はくすみ、細かな罅やさびがにじんでいる。


 まだゴーストタウンにはなっていない。

 けれどゆっくりと、終わりに向かって歩いている町角。

 そこには様々な人々の歴史が雪の下の落ち葉のように何層も重なって、分解されていくのだろうな……と感じる景色。




 旅行先で歴史的建造物を眺めた時、かつてここも多くの人行き来して様々な日常があったのだろうと思うことがあります。

 町が造られるということは、必要があってのことですから。

 それでも時代と共に役目は移り変わっていく……。


 ふと……そんな感覚に陥り創作意欲を書きたてられた午後でした。

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