第10話
第10節:根源への道
1. サムシング・グレートに触れる
志倉陽(しぐら・ひかり)は、村上和雄教授の著書『生命の暗号』を再び手に取っていた。その中に何度も繰り返される言葉がある。
「生命は、サムシング・グレート――偉大なる何かによって作られた。」
科学者として、この言葉を受け入れることは難しい。それでも、どこか心を掴まれるものがあった。
「サムシング・グレート……命を動かしとるのは、俺らが解明できへん力なんやろか?」
村上教授が言うように、遺伝子は祈りや感謝によってその働きを変えることがある。これを科学的に証明しようとする試みは、志倉自身の研究テーマとも重なる。しかし、祈りや感謝の背後にある「力」を説明しようとすると、どうしても答えが見つからない。
「結局、命の根源には、このサムシング・グレートがあるってことなんかもしれんな。」
志倉は呟きながら、デスクに広げたデータを眺めた。命の残響――それもまた、サムシング・グレートの痕跡である可能性が頭をよぎる。
2. 松下幸之助の「根源」
ふと、松下幸之助の言葉が脳裏に浮かぶ。
「経営の根源は、素直に神仏を敬うところにある。」
松下幸之助は、人生のあらゆる成功の背後に「根源の力」を感じていた。彼は自らを「運が良かっただけ」と謙遜しつつ、その運を支えたのが天の意思、つまり「根源の社」であると言い続けた。
「松下幸之助さんが言うた根源って、村上教授のサムシング・グレートと同じことなんやろか……」
志倉はそう考えながら、松下幸之助の本をめくった。そこに書かれていたのは、人生の中で何度も困難を乗り越えた松下が、常に「素直であれ」と自分に言い聞かせていたという話だった。
「素直に生きることが、根源と繋がる道やったんかもしれんな。」
志倉はその言葉に、何か共通するものを感じた。
3. 年配者の言葉の力
志倉の頭には、父や母、そして親友の三木の言葉が次々と浮かんできた。
「陽、焦らんでええねん。大事なんは、今ここで自分ができることをちゃんとやることや。」
「お前は一人で頑張ろうとしすぎや。周りの声をちゃんと聞けよ。」
どれも、科学の理論やデータには結びつかない言葉ばかりだ。それでも、どこか説得力があるのはなぜだろうか。
「年配者の言葉って、なんでこんなに重たく響くんやろ……」
ふと、祖父が言っていた言葉が頭をよぎる。
「陽、人間がどんだけ偉そうにしてもな、結局、自然や宇宙の大きさには敵わんねん。それを受け入れて生きるんが、ほんまの賢さや。」
その時はただの昔話のように思っていたが、今になってその意味が身に染みる。科学がいくら進歩しても、人間が宇宙や命の根源に完全に追いつくことはない。
「これが開き直りってやつなんやろか……いや、むしろこれが本質なんかもしれんな。」
志倉はそう考えながら、デスクに肘をついて思案にふけった。
4. 研究の意味を問う
「俺の研究って、ここに届くんやろか……」
命の残響を解明するというテーマは、自分にとっては壮大な挑戦だが、その結果がサムシング・グレートや根源にたどり着けるのかはわからない。それでも、自分にしかできない仕事だという思いがどこかにある。
「科学で証明できんことを追いかけるんが、俺の役目なんかもしれんな。」
志倉はノートにこう書き記した。
「サムシング・グレート、根源の力――どちらも、命を支える本質に違いない。それを解明するのが科学であるべきや。」
科学は完全な答えを出すことはできないかもしれない。しかし、それに挑み続けることが、人間としての使命なのではないかと感じる。
5. 一番大切なもの
その夜、志倉は両親の遺影に向かって手を合わせた。
「母さん、父さん……俺、今はまだ何も見つけられてへん。でも、命の本質に少しでも近づけるように頑張るわ。」
祈りを捧げながら、ふと胸の中に暖かいものが広がった。それは、これまで気づけなかった感謝の気持ちが、自分を支えているという実感だった。
「素直な心を持ち続ければ、いつか真実に近づけるんやろな……」
志倉は、ノートに一言だけ書き加えた。
「根源とは感謝であり、素直さであり、命そのものや。」
そして、自分の研究がその根源に届くことを信じ、明日もまたデータに向き合うことを決意した。
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