第3話

第3節:命の残響と人間の起源


志倉陽(しぐら・ひかり)は研究室のデスクに座り、資料を眺めながらふと考え込んでいた。データの波形が示す「命の残響」に夢中になる一方で、それを突き詰めていくと、どうしてもたどり着いてしまう問いがあった。


「人間はどこから来たんや?」


この問いは、科学者としての彼にとっても、ひとりの人間としての彼にとっても逃れられないテーマだった。


1. 世界人口の果てしなさ


「今の世界人口は80億近いって言うけど、その一人一人には必ず親がいて、その上にもまた親がいて……果てしないやろ?」


志倉は自分に問いかけるように呟いた。親、祖父母、曾祖父母……もし人類を遡っていけば、どこかで「最初の人間」に行き着くはずだ。それが聖書の中の「アダムとイブ」なのか、あるいは日本の神話に登場する「天照大御神」なのかはわからない。しかし、どちらも共通して「命の源」について語っている。


2. 命の繋がりを考える


「人間って、遡ったらどれくらいの代数になるんやろな……?」


志倉はそう思いながら、ペンを取り出してノートに計算を始めた。1人には2人の親、4人の祖父母、8人の曾祖父母……2倍、4倍と増えていく。


「これ、たった20代遡るだけで100万人近くになるんか……? ほんまかいな。」


計算結果を眺めながら呟く。もし50代、100代と遡ったとしたらどうなるのか。それだけの数の「命」が連なっているということが、自分の存在を形作っていると考えると、途方もない気分になった。


「せやけど、その最初の一組が、どこから生まれたんやろ……?」


その問いは、志倉の胸に重くのしかかった。


3. アダムとイブ、そして天照大御神


聖書では「アダムとイブ」が人類の祖とされ、日本神話では「天照大御神」が神々の中で中心的な存在として語られている。それぞれ文化や背景は違えど、「最初の命」について何らかの形で触れているのは興味深い。


「聖書や神話が言うとおりやとしたら、人間はどこかで神から直接生まれたっちゅうことになるんか?」


志倉はふと苦笑いを浮かべた。


「いや、科学的に言うたらそれはあり得へんやろ。でも……」


自分の研究テーマである「命の残響」を思い返すと、そう簡単に「あり得へん」と切り捨てられない気もした。細胞が放つ波動には、今の科学では説明できないような神秘的な性質があったからだ。


「もしかしたら、人間の中には神話や宗教で言う『神』の痕跡が残っとるんかもしれんな……」


4. 命の始まりを探る科学


志倉はデスクの上に広げた資料を見ながら考えた。科学はこれまで、生命の始まりを説明しようとしてきた。化学反応からアミノ酸が生まれ、やがて細胞が形成される――教科書ではそう書かれている。


「せやけど、アミノ酸ができたとして、それがどうやって『命』になったんかは、誰にもわかってへんのや。」


どれだけ科学が進歩しても、命の本質にはまだ到達していない。今の科学では、細胞や遺伝子という物質的な部分を解析することはできても、それを「生きている状態」にする鍵が何なのかはわからないのだ。


「やっぱり、命の始まりには科学では説明できへん何かがあるんちゃうか……?」


志倉はそう呟きながら、松下幸之助の言葉を思い出した。


「素直な心で物事を見なはれ。そうすれば、見えへんもんが見えてくる。」


科学者としてのプライドがその言葉を否定しようとする一方で、志倉の中には「それが真実なんかもしれへん」という直感があった。


5. 命の謎を追う決意


その夜、志倉は研究ノートに書き記した。


「命はどこから来たんか? もしそれが科学と宗教、哲学の交差点にあるんやとしたら、そこに辿り着くのが俺の使命や。」


命の残響を研究することで、命の本質に少しでも迫ることができる――そう信じながら、志倉は夜更けの研究室で再びデータに向き合った。


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