掌で踊る

 たまの能力に翳りが見え始めた頃、みちには、ひどく曖昧な記憶があった。


 内裏だいりから龍のような真っ黒い渦が空高く舞い上がっていく記憶だ。


 たまはちょうど、周囲の者を少しずつ操り、信西を死に導くための細かな因果を積み上げていた。操られていたことさえ気づかないように、すごく丁寧に蓄積していき、宇治田原で信西を死に追いやった。

 後白河上皇に重用されていたたまだったが、二条天皇の親政の勢力が高まり、後白河上皇の院政が衰退していったその原因が信西を失ったことにあると気がついた上皇は、己が信西の存在に脅威を抱き煙たがって死を願っていたことすら忘れて、ひどくたまを責め立てるようになった。

 たまは、後白河上皇や信西、美福門院、そして二条天皇、源義朝等、多くの人間の細かな因果の枝の組み替えを何処かで見誤ってしまったのか?と、深く自分を問うた。

 その頃、たまは、二条天皇の女御矩子のりこの存在を知った。

 矩子の入内は多くの謎に包まれていた。

 美福門院の遠縁の養女として秘密裏に朝廷にあがり女房を務めていたが、いつしか女御として入内している。だが、実際は、占いによる言葉をさずけ、二条天皇を動かしていると影で囁かれていた。矩子が女御になってからというもの、二条天皇の親政は次第に勢いづいた。

 そんな矩子をたまはこっそりと見にいった。そして、清涼殿の北側の殿舎でばったりと矩子と、たまは出会った。

 たまは一眼で理解した。

 矩子は眷属だと。また、矩子も何かを感じているのか、たまから逃れようとした。

 「お前だ。お前が人の因果を見て、私が歪めた因果の枝を元に戻したのだな」と、咄嗟にたまが言った。

 「ならば、貴方が人の因果を歪めていたのか?なんと馬鹿なことを。人の因果などそう簡単に歪められるものではないというのに。だけど貴方はすごく賢いのね」と、矩子は、ゆっくりと、優雅に話す。

 たまは、人を俯瞰した矩子の物言いに幾分か不快感を覚えた。

 「ほぅ…。なんと、横柄な。女御とて、たいそうなことはなかろうに、そんなふうに上からものを申して、私を侮るのだな」と、珠が言った。

 「いえ、そのような…。だけど、貴方は、上皇様を操ればいいものを、そうはしなかった。貴方の賢さが窺える」と、矩子が言う。

 「だから人を見下すではない。と言うか、お前は、まるで全てを見透かしているとでもいうのか?」と、珠が言った。

 「おおよそのことは…。貴方がしたことを辿っていけば分かる。貴方が何をしようとしたか…。だけど、これほど綿密に巧妙に多くの人の因果を少しずつ歪めながら、目的を達成しようとした貴方に恐怖さえ覚えたわ。私には到底できることではない」

 「上皇様を操ることは困難だ。ああいった強い者は、そう簡単には操れない。しかし、お前の言う通り、操れば周囲の全てが変わる。こんなにも大勢の人が絡んでいるのだから。変化は先の未来を大きく変えてしまう。それは私にも容易に理解できる。だが…。お前はいったい何をした。突然上皇様が信西を殺したと罵り、私は激しく打たれた!」と、憎しみを込めて珠が怒鳴る。

 「私は何もしない。たくさんの人が絡み合い因果を紡いでいる。それを歪めることがとんなに恐ろしいことか。だから私は見ているだけだ。しかし…。助言はしている。貴方より確率が低くくてもやっていることはそう変わらないわね」と、最後、呟くように矩子が言った。

 その言葉にたまは黙ってしまった。そして、次第に怒りを蓄積していった。

 「そうだ。お前のやっていることは私と変わらない。なのに何故、お前が成功して、私は失敗したのだ!」

 珠の怒りが大きくなるほどに周囲の気圧が変化しているかのように、わずかに物が震え始めた。

 「それは、単純な話しだ。上皇様が貴方に怒りを覚えるのは貴方の失敗ではなく、上皇様が恐ろしく我儘だからだ。失敗と言うのなら、あんなに綿密に巧妙に進めておきながら、何故、そんな上皇様の性格を見抜けなかったの?」と、高まる気圧の中、矩子が言う。その言葉に気圧に加わり、風圧も高まる。

 「それに、私は一切、人の因果に触れてはいない。あれに触れると、必ず何処かにひずみが生まれ、それは誰も触れることなどできないと、私は思っている…」

 風がいっそう強くなる。いったい何が起こるのだろう。と、矩子は辺りを見回した。


 たまは、矩子の言っていることは正論だと思っていた。しかし正論であるからこそ、怒りが込み上げてくる。自分より歳が若い女子おなごが自分を見下しているのだ。しかも、たまのまったく知らない女子おなごから…。

 たまは、そんな身勝手な理由で怒りを増長させ、更に上皇の理不尽な怒りを重ね、どんどん膨張させていった。

 その膨張した怒りで空間に罅が入り、遂にはうつろが開かれてしまった。その罅は空まで続いた。そしてゆっくりと闇が見え始めた。


 みちが見た闇の渦がそれだった。


 みちは、その時のことを随分後になって、姉の珠から聞いた。

 虚ろが開いた時、予期せぬことが起こったのだ。たまが従えていた虚ろの虫たちが、何故か暴走し、矩子のりこを虚ろに引き摺り込んだ。それから矩子は、虚ろから戻ることはなかった。空っぽの肉体がその後、どうなったのかたまは知らない。


 みちは、珠がその時のことをずっと後悔しているのではないかと感じた。


 たまは次第に気弱になっていった。そんなある日、ぽつりと珠が言った。

 「時々私は考える。私の受け継いだこの力は、本当はもっと単純なものだったのではないかと、思うことがある。最初の人は、ただ単純に虚ろが見えるだけだった。受け継がれていくうちに虚ろに入った者が虫たちと縁を持ち、ただそれがずっと続いているだけなのかもしれない」

 「なんだ、それ…。そんなわけないだろう。なんで、そう思ったんだ?」と、みちが尋ねた。

 「そうだったらいいなと、思う。虚ろを歩いて、虫たちを眺めて、ただ笑っているだけの方が楽しかった…。虫たちを従わせ人を操るなど、無知な人間のやりそうなことだ…と…思う…」と、珠は、そう言うと、項垂れた。

 「姉上は何を弱気なことを言っているんですか?姉上の肩には黒根家と黒司家がある。そんな馬鹿馬鹿しい話しは聞かなかったことにします。わたし以外には、決してそんな話しをなさらないようにお願いします」と、みちが吐き捨てるように言った。

 それから珠は何日も口を利かなかった。


 みちは、その時のことを時折思い出した。珠が力を失って、黒根家は崩壊の兆しを見せ始めた。やがて崩壊するだろう。と、みちは思った。

 その為に祖父が残した『異文の書』を読み解き、虚ろへの接触を試みたが、そんな力を与えられていない者は、ただ入口付近を彷徨うだけだった。たまが見ている虚ろにいる生き物には会えず、真っ暗闇を彷徨うだけだ。

 ただ唯一蜘蛛に出会った。おそらく、異文の書のなかの文字のひとつが、何かの偶然で反応して、出て来たのだろう。

 みちは虚ろの文字を使って、やっとの思いで蜘蛛を捕えることに成功した。もしかしたら自分にもたまと同じ力があるのかもしれない。と、有頂天になった。だが、やがて、それが傲慢な思いだと思い知らされる。蜘蛛はたまの虫たちのようにはいかなかった。何一つみちに従わない。蜘蛛に何度も闘いを挑み、何度も蜘蛛を倒してようやく蜘蛛の糸で相手を拘束するくらいのことを従わせたが、それ以上は駄目だった。

 ただの人には侍従関係の契約などできなかった。みちは何度も蜘蛛と闘い、もうくたくただった。だから蜘蛛は、しゅんに管理させた。しゅんは、侍従関係などにこだわることなく、合理的に蜘蛛を管理した。


 本当にしゅんは優秀な息子だ。

 みちは、そう思う一方で、特別な能力など見向きもせずに自由に振る舞うしゅうを出来損ないの息子だ。と、怒りを覚えていたのだが、たまの弱気な言葉を思い出すたびに次第にしゅうの見方が変わっていった。


 もしかして、本当に強い者とはしゅうみたいな者ではないのか?本人が意識しなくとも…自由でいられることが何よりも強い証ではないか…と、ふと、みちは思うようになった。


 しゅうは黒根家の特別な能力に何一つ囚われていない。しゅん鬼仙きせんの異文の探究について何も興味を示さず、呪いのようにまとわりついた血筋から解放されたように振る舞うしゅうの姿から、天才ともてはやされたしゅんへの嫉妬も引け目も何も感じない。

 しゅうの存在だけ黒司家のなかで異質だった。みちがどんなに疎んでもしゅうの態度は変わらなかった。


 そんな時、みちは、何の説明もせずに、矩子と面差しが似ている物乞いの子を見張るように依頼した。

 それについてはしゅうに何も要求しなかった。見張る期間も報告も何一つ要求せずに好きにさせた。

 そして、しゅうの知らない配下にこっそりと見張らせたのだ。

 すると、しゅうは、驚くことに、自分の立場も忘れて、家族すらまるで捨てたかのように、見知らぬ家に住むようになった。

 「何処まであいつは自由なのだ?」と、みちも呆れるほど、しゅうは自由だった。


 みちは、秘密裏にその家を見に行った。

 そこはお寺のような屋敷だった。しかし、本堂と思しき所には本尊もなければ仏像もない。

 空き寺なのか?勝手に住み着いているのだろうか?と考えたが、それにしてはきれいに整備されていた。不思議な建物だった。

 本堂と思しきところで男と少年と少女がふざけていた。

 男は寿院と呼ばれていることを配下から聞かされていた。少し変わった男だと感じた。暫くこっそりと寿院を見ていた。寿院は自由そうに見えた。本気でふざけているのだろうか。まるで役者を見ているような大袈裟な立ち振る舞いだ。それ以上寿院を読めなかった。ただ馬鹿っぽい男だと、みちは顔を顰めた。

 あの男がいるからしゅうはここに住む気になったのだろうか?だとしたらしゅうは歪んでいる。

 その後、みちは、少年を見た。名は聞いていなかった。寿院と少年の関係は謎だ。少年は寿院に対してたいそうぞんざいだった。だが、寿院は決して少年を叱ったり、逆らったりしなかった。大切にしているのだろうか?

 僅かに少年から不思議な気を感じた。気のせいだろうか?

 しかし、最後に少女を見た瞬間、これまで観察したことをすっかり忘れてしまった。それほど衝撃を受けたのだ。

 みちは、息を呑んだ。

 そうにそっくりな少女だ。筝と同じ背格好。少女が纏う空気がたまと同じだ。それは、少女が普通ではないと、みちに知らしめているようだった。たまと関係があるのか?

 みちの心臓の音が高鳴った。

 それにしゅうが気づいているのかは分からない。筝は、珠への当てつけなのか、わざとのように男の身なりをしている。そんな筝しか見たことのないしゅうが気づかなくても不思議ではないが、単純にそうは思えなかった。

 しゅうは、勘が鋭いところがある。だが、決してそれを表には出さない。だから周囲の者から愚鈍な息子だと思われている。しかし、そうでないことはみちなら分かる。かつて、出来損ないだと罵っていても、しゅうには何か理屈の分からない、本質を貫くような強い性質に似た何かがある。親とて説明のつかないものだ。

 実際、数多くの家の中から、縁もゆかりもない家であるにも関わらず、こうして…、この家を探り当てているのだ。

 みちが息を呑むような、不思議な家を。


 みちはすぐに、珠は双胎の赤子を産んだのではないかと疑った。

 だが掟が実行された。

 実弟である自分さえも知らされず秘密裏に始末された。しかし、何かの手違いで双胎の次女は生きていた。

 もしそれが事実なら…。

 みちは凄まじい怒りを覚えた。実弟さえも蔑ろにした当主のやり方に。それに黒根家の掟を黒司家に押し付け、しゅんを死なせた恨みもある。


 筝はたまの力は受け継いでいない。だが、あの少女がたまの特別な能力を受け継いでいたら、当主は、自らの手で野望を潰してしまったことになる。しかし…掟を実行したと見せかけて、本当は秘密裏に生かしていたとしたら…。

 実弟さえも秘密にして、掟を実行した理由がそこにあるのではないのか?


 黒根家の当主、黒根戯山こくねきざん…。

 何を考えているのか分からない男だ。



 突然、義忠の屋敷の庭に従者が姿を現した。

 義忠の屋敷は、隆鷗が再び意識を失ったことで、あたふたしていた。

 「殿…。殿、黒司家の当主様がお見えです」

 従者の言葉に義忠が止まった。

 「今、何と…?」暫く沈黙していた義忠がぽつりと言った。

 「黒司家の当主様がお見えです」再び従者が言った。

 しゅうが呆然とした。

 「えっ?なんて言った?」と、しゅうが言う。

 「あっ、はい。黒司家の当主様がお見えです」と、更に従者が言った。

 「えっ?黒司家の当主様って、しゅう君の父上だよね。しゅう君を迎えに来たんだね」と、寿院が言った。

 「まさか…?」と、しゅうが言う。


 黒司家の当主が義忠の屋敷に出向くなどあり得ない。義忠はまだ、止まったままだった。


 しゅうは以前、一度だけみちが野菜売りの格好に変装して、寿院の屋敷を訪れたことを知っていた。みちの変装は完璧すぎるほどだった。しかし、しゅうは、ほんの僅かなみちの振る舞いで気付いたのだ。

 みちは、庭から、本堂にいる寿院を呼んでいた。しゅうは、その光景を台所の勝手口からこっそり眺めて、身を潜めていた。

 その時、寿院は、隆鷗と戒とふざけ合っていた。だが、ふざけていると思っていたのはしゅうだけだった。寿院は、かいに縛られ、傀儡のように操られていたのだ。そして、それを隆鷗が解いていたのだが、しゅうは、いまだにそれを解いていたのはかいだと思っている。

 しかし、よくよく考えてみると、寿院が進んで戒に縛られ操られていたのだ。遊びではないと言いきれなかった。


 物乞いの子を見張る期間も報告も求められなかったのに、みちがわざわざ変装して寿院の屋敷にやって来たということは、誰かにしゅうを見張らせていたということだ。

 しゅうは多少なりともがっかりした。その反面、放任に慣れていたしゅうには、みちの行動はいささか驚きだった。


 「しゅう様、ここに通して大丈夫かな。別の部屋の方がいいだろうか?」と、義忠が尋ねた。

 「ここで大丈夫です。でも、意識を失った隆鷗は、衝立の影に隠してもらえますか?説明が面倒くさいです」と、しゅうが言う。

 「了解した」と、義忠は従者と共にすぐに実行した。

 「でしたらわたしも衝立の後ろにいるよ」と、寿院が言った。

 「いえ、寿院様はそのままでいいです。なんなら紹介しますので…」と、しゅうが言った。みちの反応を見たかったからだ。


 みちは、何故か入口から渡り殿を渡らず、庭へ回って来て姿を現した。

 義忠はすぐに廊下に出ると、正座をして挨拶をした。その後ろでしゅうも正座をして、床に額をつけた。

 その後ろで何故か寿院の声が響いた。

 「あれっ?あれぇ…野菜売ってた人…ですよね?あれっ、人違いかな?」

 さすが寿院様、空気を読まない。しゅうは、思わず吹き出しそうになった。

 「えっと…。あな…寿院…殿…。まず黒司家の御当主様に挨拶しましょうか」と、義忠が作り笑いを浮かべる。

 「おぅ、そうでした。そうでした。これは失礼致しました」と、寿院は、しゅうの隣りに正座した。

 「寿院様は、黒根家の者ではないのだから、そんなことしなくていいよ」と、小声でしゅうが呟いた。

 「いや、大丈夫です。楽にして下さい。わたしもここに座りますゆえ、足を崩して下さい」と、みちはよっこらしょと廊下に腰掛けた。義忠はすぐにみちの隣りに移動した。それに続くように寿院としゅうもズズズと膝で移動した。

 「本日は何ゆえ、わざわざわたしのむさ苦しい屋敷にお越しですか?呼んで下さればわたしが出向きましたのに…」と、義忠が慌てて言った。

 「いえいえ、御当主の右腕にそのような…。今日は、愚息に用がございまして、お邪魔致しました」と、みちが言った。

 しゅうは思わずみちを見た。


 結局、一から十まで全て見張っていたということか…?

 しゅうは愕然とした。ならば何から何まで知っているのか?

 しゅうの顔が強張った。


 「へぇぇっ?どうして、黒司家の御当主様がしゅうの居所を知っていたんですかね」と、唐突に寿院は言った。

 秋は思わず寿院を見た。

 「これはこれは。寿院殿でしたか…?そうお呼びしてもよろしいか?」と、みちがにこにこしている。

 「勿論です」と、寿院は応じた。

 「またズバズバお聞きになるが、そんな話しに興味がありませんな。しゅうにでもお聞きになったらいかがですか?大方の察しはついているのでしょうから」と、あっさりと路が言う。

 「なるほど」と、寿院は言った。「まぁ、そうですよね。野菜売りに変装して、他人の家にやって来るくらいだ。しかし完璧な変装だった」と、寿院は笑った。

 「完璧と言うわりには、わたしの顔を見たとたんに見抜きましたね。面白いお方だね、お前様は。まぁ、何日も帰って来ないしゅうをいささか心配しましたが、変装してお前様を訪ねた甲斐があったというものだ。お前様だったら、安心してしゅうを任せられる。よろしければこのまましゅうを住まわせてやってくれないだろうか?わたしは暫くちょっと忙しくしますので、しゅうがお前様のところにいた方がわたしも安心だ」と、みちが言う。

 寿院は、みちの言葉を素直に受け取れない。先程の義忠の明け透けな言葉と同等に受け止めざるを得ないのだ。

 だが、しゅうには何の罪もない。


 しゅうの父親は、黒根家でも西の黒司家と言われた名だたる男だ。その男が野菜売りに変装してまで、我が家へ偵察に来たのだ。そこでいったい何を見たと言う?


 そして、黒根家当主の右腕、義忠は、たまたまなのか、我が家を襲撃しにやって来た。襲撃される理由など思いつかないが、ただひとつ、白水優雨幻しろうずゆうげんの縛りを解いたからか…?それは壬生みぶ陰陽師の助言のお陰だ。他の呪術師への見せしめか?それしか思いつかない。

 まぁ、それはどうだっていいが、肝心なことは義忠がかいを見て、「そう様!何故、そう様がここに…?」と、呟いたことだ。


 そして、忘れてはならないことがひとつ…。

 東の香舎家が家族諸共惨殺されたことだ。


 寿院の頭の中が刹那のなかでざわめいていた。


 『呪い屋』を調べ始めてから全てが始まった。まるで誰かに導かれるように、九堂家の若様から始まり、秦家。そして、手鞠が殺され、しゅうが突然やって来た。それから白水家の乗っ取りに巻き込まれ、藤原鼓笙に出会い、うたを知る。

 そして、かいに出会った。かいに出会った頃からいろいろなことが急展開した。香舎家の襲撃、そして、戒が大蛇の生贄となり、その後香舎家が惨殺された。そして今、黒根家の傍の義忠の屋敷にいる。

 まるで誰かの掌の上で踊らされているような気分だ。

 どうせまた巻き込まれるのだ。

 だったら、誰の掌か分からないが、自ら踊ってやろう。


 「しゅう君のお父上よ、安心して下さい。これまで通り、わたしがしっかりしゅう君を預かりましょう」と、寿院は言った。

 「えっ?いいの?」と、しゅうの表情が綻んでいった。だが、すぐに厳しい表情になった。「僕が寿院様のところにいるのは、他の誰でもない僕が選択したことだ。勝手に見張ったり、まして、従者を送り込んでくるなど、絶対許さないからね!」


 しゅうが怒鳴ると、何故か、みちも義忠もほっとしたように微笑んだ。


 そして、寿院は、苦笑した。

 さて、次にやって来るのは、誰かな?

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