第2話 美少女勇者ファルテ=グランドーラ
現在。
俺は大慌てで、着替えをしていた。
時刻は17時。そして勇者がガナルフェル平原に現れる時間は……16時。
つまり、完全なる大遅刻である。
「ローブよし、ポーションよし、杖よし。あとは……そうだ、魔石の指輪っ。でも俺、あの指輪どこ置いたっけ……っ!?」
「はい、持ってきたよ。これで合ってるよね?」
「助かったキスリア! じゃ俺、行ってくるから!!」
もし、この遅刻がバレたら……魔王様に、めちゃくちゃ叱られるだろう。
それは考えうる限り、最悪の結末だ。この遅刻がバレる前に、俺は一刻も早くガナルフェル平原へと向かわなくてはならないのである。
「はあ……まさか、こんなことになっちゃうだなんて。君があんなにたくさん、何度も僕にかけるからだよ?」
「うっ……いやそれは、キスリアがあんまりにもエロいから……」
「……もう。しょうがないなぁ、ランジくんは」
するとキスリアは俺に歩み寄り、俺の頬に口づけをしてきた。
そして彼女は、優しい微笑みを浮かべて、
「帰ったら続き、シてあげるから。だから頑張ってね、ランジくん」
「お、おう。頑張るよ、うん……」
そんなことを言われたら、今すぐ押し倒したくなる、が……さすがに、ここは我慢しよう。
俺は邪念を振り払ってから、愛用している黒い魔術杖を構える。
そして、呪文を詠唱した。
「――《ウルティマ・テレポート》ッ!」
瞬間。俺の視界が、真っ白な光に包まれる。
そして、その直後。
俺は一瞬のうちに、目的地のガナルフェル平原に到着していた。
「あ――や、やっと来たっ!! ちょっとランジ、なに当たり前みたいに遅刻してんのよっ!!」
転移の魔術を終えた直後、いきなりそんな罵声を俺は浴びせられる。
俺の目の前には――金髪碧眼の美少女が、剣を構えて立っていた。
彼女の名前は、ファルテ=グランドーラ。
――勇者の称号を冠する、女神の寵愛を受けた美少女である。
「わたし、一時間も待ったんだけど!? こないだ送った果たし状に、わたし、16時にガナルフェル平原に来いってちゃんと書いたわよねっ!?」
「いや俺、魔王軍の手先だし。約束とか破ったほうが悪役っぽいだろ?」
「なっ、なによ、その言い訳っ。くっ、言い返せないわ……」
ぜえぜえ、と荒く呼吸を整えるファルテ。
顔は真っ赤に染まっており、せっかくの美少女が台無しになっていた。
「ていうかさ、ファルテ。俺、何度も言ってるよな? もういい加減、果たし状なんかやめてくれって」
「いいでしょ、べつに。こうでもしないと、あんたに会えないんだし……ってまあ、べつにあんたに会いたいわけじゃないけど? あくまで、あんたをブッ倒すためだけど?」
そう。
今日の俺の任務は、ファルテとの戦闘。
勇者であるファルテは、どういうわけか、しょっちゅう魔王軍に果たし状を送りつけてくるのだ。しかも、俺を名指しで。
魔王軍にとって、勇者の存在は唯一にして最大の脅威だった。さすがの魔王様も勇者の動向は気にしているらしく、そんな彼女からの果たし状は無視しないように、と俺に厳しく言ってくるのだ。
だから俺は仕方なく、こうしてファルテの呼び出しに応じているというわけである。
「それに――ふふん、聞きなさいランジ。今日のわたしは、いつもと違うの。わかるかしら?」
「えっと……石けん変えた?」
「違うわよっ! いや変えたけどっ! なんでわかるのよ!? 恥ずかしいんだけどっ!?」
と、大声で叫んでくるファルテ。……とても、人類の命運を背負った少女の言動とは思えなかった。
「こほんっ……ほら、これを見なさい?」
「ん? あぁ、なんだ。剣を変えたのか」
「これはね、ただの剣じゃないの――そう、聖剣よ。わたしは、ついに伝説の聖剣アルディア・カリバーを手に入れたのよ」
「おっ、マジか。じゃあ天空城まで行ったのか。スゲェなぁ」
「ふん、余裕でいられるのも今のうちよ? この聖剣で、あんたをケチョンケチョンにしてやるんだから」
そしてファルテは、聖剣アルディア・カリバーの切っ先を俺に向けてくる。
対して俺は、無詠唱で
……なるほど、たしかに本物の聖剣であるらしい。オリハルコン製の白刃には、とてつもない魔力が秘められていた。
「覚悟なさい、魔王軍最強の戦士ランジ=スレイジオ。この勇者ファルテ=グランドーラが、あんたを断罪してあげる」
「……俺、ただの下っ端なんだけど?」
「ええい、問答無用! 喰らいなさい、《ホーリー・スラッシュ》ッ!!」
ファルテの聖剣が長大な光の刃を纏い、それを俺に向けて振り落としてくる。
これは……直撃したら、さすがにマズいな。
はあ、と俺はため息をつき、お気に入りの防御魔術を詠唱する。
「静止せよ、《クロノス・ウォール》」
瞬間。
俺の詠唱ににより、触れたもの全ての時間を停止させる力を持った壁が形成された。
その直後、俺の《クロノス・ウォール》はファルテの光の刃をぴたりと停止させてみせる。
「くっ、やるわね。でも次は――」
「《ブラッディ・バインド》」
「――きゃっ!? なっ、何これっ、鎖? ず、ズルいわよランジっ……!!」
「いやいや。魔術にズルもクソもあるかよ」
俺の
これでファルテは、もはや手足を動かすことすらできないだろう。
決着はついたも同然だ。俺の目の前でファルテは、くねくねと身体を捩らせることしかできていない。
(……さて。どうしてやろうかな)
拘束されたファルテのことを眺めながら、俺は思案を巡らせる。
魔王軍の下っ端である俺が、救世の英雄である勇者を捕らえることに成功したのだ。
このままタダで帰すというのは、なんというか……うん。さすがに、もったいない。
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