第3話 目撃する男
「気が付かなかったとしても、無理はないな。小学校時代と比べたら、痩せたし、身長も伸びたからね。まあ、きみほどではないけど」
腹部を摩りながら、山本くんは柔らかな笑みを浮かべました。
ぼくは自分よりも背が高い人間をほとんど見たことがありませんが、山本くんはあと少しでぼくと視線の位置が同等と化すのではないかというほどで、それを思えば、互いに成長が著しいということでしょう。
昼休みということもあり、至るところで生徒たちの楽しげな声が聞こえてくる中で、ぼくは山本くんに学校の内部を案内してもらっていました。
歩を進める中で生徒たちが此方に目を向けては何かを囁き合っている様子を目にすることが多かったのですが、それは派手な外見であるぼくだけが理由ではないように思われます。
何故なら、隣を歩く山本くんは、眉目秀麗という言葉が相応しい容貌だったからです。
部活動に励んでいるということもあるのか清潔感のある短髪で、相手に安心感を与えるかのような穏やかな目つきに対して鼻梁は明確に通り、雑誌から飛び出してきたかのような長い手足の持ち主です。
他の男子生徒と同じ制服を着ているとは思えないほどに、山本くんは別の世界の人間であるかのような存在でした。
ですが、熱を帯びた視線を向けられたとしても山本くんはその相手に反応することなく、ぼくとの昔話に夢中になっている様子です。
ぼくが自分に向けられる畏怖の視線に気分を悪くすることがないことと同じように、彼にとってそのような視線を向けられることは慣れているために、特段の行動に及ぶ必要は無いということなのでしょうか。
そのように考えたところで、ぼくは再会した際に抱いていた疑問を山本くんに投げかけることにしました。
「ぼくはきみの変化に気が付くことはできませんでしたが、どうしてきみは、ぼくがぼくであるということが分かったのですか」
小学校時代の記憶だけならば、その頃と比べて大きく変化したぼくがぼくであるということに気が付くことは、難しいでしょう。
名前が同じだったということが理由だとしても、蟻が象へと変化したようなものですから、同一人物だと見なすことは困難のはずです。
ぼくの問いに対して、山本くんは化学実験室の場所を指差してから、
「去年、きみが通っていた学校まで遠征しに行ったことがあってね。その学校の生徒からきみのことを聞いて、実際にその姿を目にしたことがあったから、気が付いたというわけだよ。まさか、此処で再会するとは思っていなかったけどね」
確かに、ぼくが去年まで通っていた学校は運動部が強いということで有名だったこともあり、頻繁に他校の人間がやってきていましたが、山本くんも来ていたとは、驚きです。
「その学校でのきみの活躍について聞いていたからこそ、俺は他の生徒と違って、きみを恐れる理由が無かったというわけなんだ」
山本くんはぼくに微笑を向けると、
「きみは、小学校時代から変わっていない。体型が理由で虐げられていた俺に手を差し伸べてくれたきみは、今でも存在し続けている。改めて礼を言わせてほしい」
頭を下げる山本くんを見て、ぼくは自分の行動が間違っていないことを再確認することができました。
そのことに安心感を抱いていると、二人の男性の姿が思い浮かびました。
一方を見て、今後も引き続き山本くんのような人間を増やさなければと決意する中で、もう一方の人間に向き合うと、自然と落ち込んでしまいます。
負の感情に飲み込まれないようにするために、意識を外側に向けたところで、校舎の外を歩いている女子生徒たちの姿を目にしました。
声を聞くことは出来ませんが、表情や動きから察するに、ただならぬ様子であることは明らかでした。
山本くんに声をかけ、外を歩いている女子生徒たちについて問うたところ、彼はそれまで浮かべていた笑みを消しました。
「赤い髪の女子生徒の、制服の襟首を掴んで歩いている人間が見えるかい」
彼の言葉を受けて目を向けると、ぼくと同じように金色の髪の毛をした女子生徒が、赤髪の女子生徒の襟首を掴みながら引きずっていました。
「あの金髪の女子生徒が、どうかしたのですか」
「彼女はこの学校の女子生徒の中で、最も恐れられている人間なんだ。良い噂の方が珍しいというか、存在していないのではないかと言っても過言ではないほどにね。俺が聞いた話では、肩をぶつけてきた人間を全裸の状態で逆さまにして吊して、歯が半分以上無くなるまで殴り続けたとか」
遠目であり、外見のみで判断するべきではないのですが、確かにそのような話が真実だとしてもおかしくはないほどの姿でした。
同時に、当然の疑問を抱きました。
「誰もが避けるような人間であるにも関わらず連行されていたことを思うと、赤髪の彼女は何をしたのでしょうか」
「彼女も彼女で、問題児だからね」
山本くんは困惑したような表情を浮かべながら、
「生徒や教師を問わず、学校の中で金銭と引き換えに身体を捧げたり、交際している人間たちの関係を壊すためにちょっかいを出したりしているそうだよ。それを考えると、恋人があの金髪の女子生徒だと知らずに手を出して、それが露見したという可能性が高いだろうね」
「赤髪の彼女は一体、何をされるのでしょう」
ぼくの言葉に、山本くんは首を左右に振りました。
「分からないけど、おそらく俺たちが想像する以上の行為に及ぶかもしれないな」
「それならば、一大事ではないですか」
ぼくは廊下の窓を開けると、そのまま外に飛び出しました。
受け身をとって衝撃を殺したところで、離れた場所から山本くんの驚いた声が聞こえてきました。
「二階から飛び降りるなんて、何を考えている。怪我はないか」
ぼくは大声で問題が無いことを告げると、女子生徒たちの跡を追いました。
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