第2話
健太と初めて会ったのは、高校の入学式だった。優しくて、ちょっと不器用で、でも一生懸命な彼に、私はすぐに惹かれた。それからずっと、私たちは一緒だった。大学も同じところを選んで、将来は結婚するんだろうな、なんて漠然と思っていた。
でも、いつからだろう。健太との間に、少しずつ距離を感じるようになったのは。彼はいつも優しかったけれど、どこか上の空で、私の話を聞いているようで聞いていない。私はもっと、私だけを見てほしかった。もっと、ドキドキするような、刺激が欲しかった。
そんな時、彼と出会った。彼は健太とは正反対で、強引で、でも私を夢中にさせてくれる、そんな人だった。最初は、ただの気の迷いだった。でも、彼のことを考えているうちに、健太といる時の何倍も心がときめいていることに気づいてしまった。
健太を裏切っていることはわかっていた。罪悪感もあった。でも、抑えられない気持ちがあった。ある日、駅前で彼と歩いているところを、健太の友達に見られてしまったらしい。すぐに健太から連絡が来た。
カフェで向かい合った健太は、いつもの優しい顔ではなく、悲しそうな、それでいて怒りを押し殺したような表情をしていた。彼から写真を見せられた時、私は観念した。
「…そう。見たのね」
私は冷たく言った。今思えば、強がっていただけだった。本当は、健太に嫌われたくなかった。でも、もう後戻りできないこともわかっていた。
「…なんで…?俺たち、ずっと一緒にいたじゃないか。将来のことも話してたのに…」
健太の言葉に、胸が締め付けられるような痛みが走った。でも、私は目を逸らした。
「それは…昔の話よ。あなたはいつも私を構ってくれなかった。もっと刺激的な男性に惹かれたの」
そう言うしかなかった。本当は、もっと違う言葉で、自分の気持ちを説明したかった。でも、うまく言葉にできなかった。
その後、私は彼と付き合うようになった。でも、すぐに後悔した。彼は私を大切にしてくれるどころか、わがままで、自己中心的だった。健太の優しさが、どれほど貴重なものだったのか、身に染みてわかった。
健太に電話をかけたのは、それからしばらく経ってからだった。久しぶりに聞く健太の声は、以前よりもずっと落ち着いていて、どこか冷たかった。
「…健太…話があるんだけど…」
カフェで会うと、健太は以前よりも大人びて見えた。私の目を見ようとしない。
「…あのね…やっぱり…健太が…一番だったって…気づいたの。…やり直せないかな…?」
私は震える声で言った。でも、健太は静かに首を横に振った。
「…もう遅い。俺の隣には、もう君はいない」
その言葉に、私の心は完全に砕け散った。もう、本当に、遅かったんだ。
その後、健太が別の女性と付き合っているのを見かけた。その女性は、知的で、穏やかそうで、健太ととてもお似合いだった。健太は心から幸せそうに笑っていた。それを見るのが、とても辛かった。
私は一人になった。彼もいなくなり、健太もいなくなった。私が選んだ道だった。でも、後悔だけが、私の心に残った。あの時、違う選択をしていれば、今頃どうなっていただろうか。そんなことを考えてしまう自分が、情けなかった。
裏切った代償は、あまりにも大きかった。失って初めて、その大切さに気づく。よく聞く言葉だけど、本当にその通りだった。私は、健太を、そして自分自身を、裏切ってしまったのだ。
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