第8話 17:45-18:30

「お先に失礼しまーす」


 そう言って足早に席の間を通り抜けていくと「おつかれさまー」の合唱が背後から響いた。

 いつもは皆の背中を見送るばかりの私だが、今日ばかりはそういうわけにもいくまい。

 なにしろ、このあと大切な予定があるのだから。


 家に帰る時とは別の路線の駅に向かうと、帰宅ラッシュだからか多くの人たちが改札口へと吸い込まれていく。

 私も覚悟を決めてその中に飛び込んだ。

 ホームの人口密度もなかなかのものだが、無事に予定通りの電車に乗り、ほっと一息。

 周囲の迷惑にならないよう配慮しながらも、私はスマホを取り出した。


 ***


■『それは天使が変えた花』花恋亡さん

 https://kakuyomu.jp/works/16818093089743781141

 推し文章表現

「何処にでもある過関心の、何処にでもあるありふれた無関心。」

→このワードセンス……!

 淡々と紡がれるからこそ、胸に迫る一文です。

 それにしても言葉選びが絶妙で素晴らしいと思いました。


 ただただ、つらく、重い。

 その中には切々とした彼女への想いが流れていて。

 人は理不尽を理屈で固めることで、どこまでも残酷になれてしまう生き物なのかも知れないと思いました。

 同じ境遇に置かれてしまっている誰かがいたとすれば、そんな彼ら彼女らに我々ができるのはどういうことか。

 色々なことを考えさせられる作品でした。

 花恋亡さん、素敵な作品をありがとうございました。



■『猫の楽園』川中島ケイさん

 https://kakuyomu.jp/works/16818093090844460110

 推し文章表現

「だけど多分、お客さんを笑顔にしてあげる最後の仕事はやっぱり、人間であるリョータが笑顔でお店に居てくれることでしかできないと思うんだニャ。」

→人間に残された役割とは何なのか。

 それを『彼ら』がこう伝えてくれたからこそ、より心に響くのです。


 こ、これぞ楽園……!

 厳しい現実を描きつつも、ラストは明るい未来へと続いているところがとても好きです!

 あのネコちゃんたち、一生懸命働いてくれるのですごく応援したくなっちゃいますよね。

 AIの進化は止まらない、それでもこうやって両者が共存・共生できる未来へとつながってくれれば――そんな希望の物語にも思えました。

 ネコちゃん最高。


 川中島さん、素敵な作品をありがとうございました。


 そして、たまちゃんを推して頂き、ありがとうございます!

 ファンサとして、リクエストテーマ『AI』で1,000字掌編書かせて頂きました。

→『転校生のAIDAさんは超高性能AIです』

 https://kakuyomu.jp/works/16818093093882183676



■『淡い気持ちを抱く私と消え去った君』猫部&KKG所属な茶都 うなべさん

 https://kakuyomu.jp/works/16818093090841311275

 推し文章表現

「彼に嫌って欲しくて、忘れて欲しくて、私はここまでやってきたのに。」

→恋とは、人の気持ちをこんなにもかき乱すものなのか。

 この一文から彼女の抱えてきた想いの強さがうかがえます。


 恋ってなかなか上手くいかないもの。

 恋が終わる時は、それこそ世界が終わる時。

 そんな風に思っていた時期が私にもあったかも――。

 お互いの気持ちをぶつけ合うからこそ、綺麗に終わらない恋愛もあるのでしょう。

 主人公がいつか新しい恋に出逢えますように。

 うなべさん、素敵な作品をありがとうございました。



■『繋ぐと星座になるような』篠崎 時博さん

 https://kakuyomu.jp/works/16818093090845334885

 推し文章表現

「同じ星でも違う星座の仲間だったりするのか」

→そもそもこのことを知らず、えっそうなの? と思わせられた一文です。

 そこから続く文章がこの作品の軸を見事に描いていて、感動しました。


 現代社会では『多様性』とされ、企業でも雇用率の定めがありますね。

 表現が難しいテーマに真正面から取り組まれていて、さすがです。

 黒田さんはとても優しい方で、だからといって報われるとは限らなくて――でもそれぞれの『星』をつなぐ役割を担っていて。

 色々な人との出逢いは、人間を成長させてくれますよね。

 シリウスのくだり、特に好きです。

 篠崎さん、素敵な作品をありがとうございました。



■『矮』心沢 みうらさん

 https://kakuyomu.jp/works/16818093090718462773

 推し文章表現

「安堵から来るのであろう嗚咽は、暖かく、悲痛で、切実で、柔らかい。」

→ここの表現……読んでいるこちらも込み上げてくるものがありました……。

 それまでの『彼ら』のことを知っているからこそ。

 読み手の感情をこれだけ動かせるのがすごいです。


 なんという世界観、一体どんな場所なんだろうとドキドキしながら読ませて頂きました。

 キーワードが『アイ』というのがまた素敵で。

 後半の出来事は『彼ら』にとっては災難でしたが、こういう状況下で明らかになる深い関係性に胸を打たれました。

 あと、食事がおいしそう……。

 心沢さん、素敵な作品をありがとうございました。


 ***


 思わず物語世界に没頭してしまっていたが、そろそろ目的の駅に着く頃合いだ。


 車内はあいかわらず混んでいて、快適とは言い難い。

 それでも『繋ぐと星座になるような』を読んだお蔭か、今この瞬間同じ空間にいることも、なんだか一種の縁のように思えた。


 ここにいる一人ひとりにそれぞれの人生がある。

 もしかしたら、『淡い気持ちを抱く私と消え去った君』の主人公みたいに、恋に苦しむひともいるかも知れない。

 それでもどうか、『それは天使が変えた花』のトウカのように、辛い境遇に置かれているひとがいませんように。

 『矮』を読んだお蔭か、私の心は『アイ』に溢れていた。


 ――さて、これから今日一番のイベントだ。

 無事に終えることができたら『猫の楽園』におじゃますることにしよう。


 私は一人気合いを入れ、『星』たちと共に電車を降りた。

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