第18話 火曜日

 火曜日。朝から真里亜は元気だ。


「おっはよう! 健人、翔太」


「おう、真里亜」

「お、おはよう」


 俺は意識してしまいうまく挨拶できなかった。それを見て真里亜が近づいてくる。


「ん? 健人、どうかした?」


「い、いや……なんでもない」


「そう。何か悩みがあったらお姉さんに相談だよ?」


「だから、誰がお姉さんだよ、まったく……」


「ニヒヒ。あ、こないだの件、今日にでもメッセージ送るからね」


「わ、わかった」


「うーん、この健人の動揺具合が新鮮でいいなあ」


「え?」


 真里亜が小さい声で何か言ったが俺にはよく聞こえなかった。


「あ、こっちの話。じゃあね」


 真里亜は去って行った。


「この間の件って何だよ」


 翔太が聞いてくる。


「たいしたことじゃないよ」


「俺にも言えない話か?」


「そのうち話す」


「まったく……お前、真里亜の幸せを第一に考えてるよな?」


「それは大丈夫だ」


「ならいいけどな」


 なんだかんだで翔太は真里亜を大事に思っている。俺もそれは間違いない。


◇◇◇


 昼休み。俺が翔太と話しているところでメッセージが来た。


真里亜『土曜日でどうかな。場所はまかせる』


 まかせるって……どうするんだよ……

 すると、すぐに次のメッセージが来た。


真里亜『デートらしい場所でよろしく』


 はあ? 彼女でも無いのによく言うよ。


「ん? どうかしたか?」


 翔太が聞いてくる。


「あ、なんでもないから」


 慌ててスマホを隠す。


「なんだよ……」


「必ず後で話すから今は見逃してくれ」


「わかったよ。ただ、これだけは聞かせろ。真里亜か?」


「う、うん……」


「なるほどな。だいたい想像は付くけど……きちんと筋は通せよ」


「わかってる」


 翔太には何も言わなくてもバレているような気がする。


◇◇◇


 放課後、いつものように翔太はバスケ部に行く。真里亜は剛史が迎えに来て一緒に帰った。凪川は今日は用事があるそうだ。仕方ない、一人で帰るか。


 校舎を出ると後ろから声を掛けられた。


「新田君!」


 振り向くとそこに居たのは宮原舞だった。


「ああ、宮原さん」


「久しぶりね」


「そ、そうだね」


 宮原さんから声を掛けられるなんて珍しい。初めてかも知れないな。俺たちは並んで帰りだした。


「今日は伊織は一緒じゃないんだ」


「うん。何か用事があるらしくて」


「そっか……新田君、この間はごめんね」


「え? ああ……」


 俺が告白して振られたことか。何か遠い昔の出来事のような気がする。でも、まだ一週間程度しか経っていなかった。


「あれから話してなかったから。でも、言ったけど、今までのように話しかけてくれていいのよ」


「う、うん……」


「やっぱり気まずい?」


「まあ、それは……」


「そっか。じゃあ、今日みたいに私が話しかけてもいいかな?」


「え? それはいいけど」


「よかった」


 宮原舞は今まで通りにしたいんだな。でも、俺は振られたことで何か宮原舞への気持ちがすっかり無くなった感じがする。区切りを付けられたんだ。凪川の言ったとおりだな。


 それから路面電車に乗り込み、俺たちは適当な会話をしていると、宮原舞が降りるときが近づく。すると、宮原舞は言った。


「なんか、今日の新田君、話しやすかった」


「え? そうかな」


「うん。前は露骨に私への興味が感じられたし。視線とか」


「そ、そうか。それはごめん」


「もういいよ。でも、今日はそういうのが無かったから安心して話せたかな」


「はは……」


「こういう新田君ならもっと話したいかも」


「え?」


「じゃあ、またね」


 宮原舞は笑顔を見せて降りていった。


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