#03君があまりにも優しく笑うから 剥がしてとっておくことにした(ホラーミステリー)
「……また、“カオナシ”か」
連続猟奇殺人事件。その被害者をいつしかそう呼ぶようになっていた。
全て、顔の皮が引き剥がされて見つかっているからだ。
あまりに惨たらしい。目を閉じることもできない最後の表情は、犯人に奪われた。
そう、犯“人”だ。『カオナシ様』などという地域信仰と結びつけて恐れるのは馬鹿馬鹿しい。せいぜい犯人にその村とのゆかりを疑うくらいだ。『カオナシ様』は祠に祀られ、今も安置されている。調べた由縁は酷いものだった。
少女がいた。人柱にされることが生まれたときから決まっていて、座敷牢で育てられた。飼われたといったほうが的確か。言葉も話さなかった。ク・サ・イ、イ・ミ・ゴ、を言葉だと思う者もいなかった。ただ七つの前に、それは始まった。双子の一人は男の子、もう一人は女の子。それが贄の条件だった。自分の屋敷に閉ざされた間があることを知って、それがなにかも知らずに、木の檻の隙間から、食べ物を差し入れた。ダ・レ、ド・ウ・シ・テ、と人のように真似していくのが男の子にはおもしろかった。暗くてよく見えない。月明かりの下なら皆んな寝静まった夜だって。「外に出してあげるよ」
朝、顔の皮を剥がされた遺体が見つかって、屋敷から消えた“後継ぎ”の男の子のものだとされた。
その遺体が増えていった。村人は祟りと恐れて祀ることにした。七つ前に生贄を死なせた、それを隠し神様を欺こうとしたせいだ、と責められその家も潰れて村を追い出された。
祠には、等身大の女の子の
――笑え、笑え。笑わにゃカオナシ様に剥がされる。笑った顔に、付け替えられる。
ホ・シ・イ
笑った顔を奪いたかったんじゃなくて、笑った顔に、したかったのか?
笑みの面をつけていけば、供養されるだろうか。
これが見立て殺人ならば、なにをすれば被害は止まる?
どうにも引っかかることがある。被害者には共通点があった。“不幸”だったより論拠のある。
全員が、“加害者”だった。
長年やっていると、嫌気が差すことはある。裁けない悪辣に裁けない誅罰が下るなら、悪霊に“様”を付けて信仰する輩も出るだろう。信仰ほどではなくとも、ネットで噂され過去が晒され、また“そんなつもりなく”書き込む者も。人の口に戸は立てられない。名無し顔無しならなおさらに。
馬鹿馬鹿しい。悪霊に、事実を確認する術があるか。これは人の手によるものだ。
悪霊などといって閉じ込めるから、供養されない。
ホ・シ・イ
笑われる意味すら知っていたか。
――わらえ、わらえ、わらわにゃ……
いつしか躾に、わらべ謡に変えられて真意は閉ざされたのかもしれない。
カオナシ様は、なぜ顔を剥がすのか――
笑え、笑えよ、最後まで
この面の謎は、まだ解けない。
#03 君があまりにも優しく笑うから
剥がしてとっておくことにした
ボクは双子を続けることにした
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