#02君があまりにも優しく笑うから 世界の半分をもらって君の名を付けた(異世界ファンタジー)

「世界の半分をお前にやる。それでどうだ?」


 魔王を追い詰めると、彼はそんなことを口にした。

 勿論戯言だ。そんな甘言にたぶらかされるほど甘い道のりではなかった。

 ――ただ、と柄を握る手に力がこもる。

 

「死者の世界、はあるのか」


「ある」

 突き付けた剣先で魔王は微かに笑みを漏らした。やはり、余力を残しているのだ。

 ただツツいてくるカラスを払うのも面倒だから餌を遠くに放り投げようか、そういった気分だろう。そんな力差を、追い詰めたはずの笑みで悟った。


「……エミーリヤは、いるのか」


「いる」

 震えた剣先は自分にも魔王にも明らかだった。

 彼女の死を無駄にしない。その死に物狂いでたどり着いた。

 どこかでは君を追いかけてもいい気持ちがあったから、怖くなかった。勇者ではない、半分亡者だったのだろう。


『リ・ルクセン・リマイヤ=ラウル』


 青い炎が俺と魔王を包んで、その詠唱をとうとう口にしたのだと知る。


「――それなら、連れていってくれ」


 今度微笑んだのは俺だった。魔王は隙をつくったのは自分だと気がついて、初めて真の動揺を見せた。

 青い亡霊のうた

 ……死霊術に傾倒した俺が、辿り着いた秘術。ひとつめ、肯定。ふたつめ、肯定。質問に続けて肯定で応えると、その次の質問も、強制肯定される。

 辿り着いて訊いてみたかったんだ。

 本当に、あるのなら。本当に、いるのなら。

 中級魔法、詠唱中断をあらかじめした。その間他の魔法が使えなくなるのはデメリットだが、発動条件は“有効”になる。――だから正確にはその詠唱の、最後まで、を。


 ひとつめ、ふたつめ、みっつめ

 魂は、肯定したがっている。


「よかろう」


 フフフ、ハハハ、と俺たちは笑う。

 魔王の魂の内のひとつ、を奪って天晴れといったところだろう。俺の命と引き換えに。


「世界の半分――死者の国はもらう」

「世界の半分――生者は我が支配下に」


 行かせない。もう君を行かせないために、世界を分かつ。

 永遠の国を、君の名で呼ぶ。




#02 君があまりにも優しく笑うから

世界の半分をもらって君の名を付けた

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