選択の向こう側 上

(長兄)隆斗(次兄)圭斗(弟)綾斗(妹)奏斗

ユートの元の世界の兄弟の話。


******


  

 行方不明になっていた弟から手紙が届いた。

 

 長兄からその連絡が届いた時、俺はアラスカでオーロラを撮っていた。その日肉眼でもはっきり見える綺麗なオーロラと同時に、満月でもないのにやけに明るい月が印象に残った。

 

 

 ******

 

 

 俺は五人きょうだいの上から二番目だ。勇斗は丁度真ん中、五つ年の離れた弟だった。

 クソ真面目な長兄と、甘えたがりの弟妹を相手によくやっていたと思う。大雑把だが憎めない両親も、俺や長兄に面倒を頼むと言いながら、いざという時は勇斗が動くだろうと思っていた気がする。

 

 勇斗は変わった奴だった。

 普段は大人しく、ことさら目立つ方でもないが、いざという時に場をコントロールしているのは勇斗では? と思わせる事が何度かあった。

 学校行事などもお構い無しに世界中を飛び回る両親に代わり、弟妹達の授業参観に出ていた兄は『あいつには人を使う素質がある』と言っていた。

 

「人を使う素質? 俺達ゃ使われてるってのか」

「違う、そういうわけじゃない。必要な時に必要なものを揃えるのが上手いって話だ」

 

 澄ました長兄の訳知り顔は腹が立ったが、使われているのではなく必要とされているのだと思うと、それは悪くない事のような気がした。

 何より、勇斗は何故か一番面倒を見てくれる長兄ではなく、俺によく懐いていた。長兄に躾けられて自分の事を僕、と言っていた勇斗が俺を真似して一人称を変えた時は、何かに勝ったような気がして嬉しかった。

 

 学校をサボって遊び歩く俺に時折着いてきた勇斗へ、なぜ俺なのかと聞いたことがある。

 

「真似すんなら兄貴みたいな奴にしろよ」

「えー? でも、おれ兄ちゃんと遊びたい」

「お前は大抵後ろで見てるだけだろ。それで楽しいのか?」

「楽しいよっ!」

 

 理由はよく分からなかった。それでも、俺がゲームをしたり日当たりの良く人の来ない場所で昼寝したりするのを後ろから着いて回る勇斗は、にこにこと笑っていて満足そうにしていた。

 授業を真面目に受けない俺はすっかり学校で不良扱いされていたが、同じ程では無くとも時折サボっている勇斗はそれなりに真面目な優等生扱いされているのが不思議だった。

 

 高校生に上る前、勇斗がぽつりと「一人暮らしってどんな感じ?」と聞いてきた。

 俺はチビの世話を長兄にばかりさせるわけにもいかなかったので、高校までは実家にいたが、卒業と同時に家を出た。フリーターをしながらあちこち行って、時折実家に帰る。そんな暮らしをしていた。

 

「一人暮らしがしたいのか?」

「ちょっとね。それで何がしたいって訳でもないんだけど……」

 

 歯切れ悪く言う勇斗を連れて、久し振りにツーリングへ出掛けた。散々乗り回したオンボロは、全然スピードが出ないくせに音だけはでかかった。もっと飛ばしてると思ったと笑う勇斗に、お前を乗せてるから安全運転なんだと言いながら、少しだけアクセルを強く踏み込んだ。

 休憩に入ったサービスエリアでソフトクリームを舐めながら、勇斗は俺が最近何をしているのか聞きたがった。

 

「運搬屋やったり、弁当屋のバイトもあったな。イベントの裏方もやったし」

「どっからそういうの探してくるの?」

「普通に面接行ったり、知り合いの伝手とか、色々」

 

 話を聞く勇斗の顔には、羨ましさが滲んでいる気がした。

 

「何だ、なんか悩んでんのか?」

「んー、なんか圭兄楽しそうだなって思って」

「世間一般じゃ、フリーターなんざ羨ましがられる立場じゃねえけどな」

 

 俺が今まで出会ったお節介な人間達を思い出し肩をすくめると、勇斗は違うんだと頭を振る。

 

「圭兄はやりたい事とか好きなものがはっきりしてるから。色んなことやってても軸がぶれないし、やりたくてやってるんだなって思う」


 自分が何をしたいか分からないと零すのは、高校進学を控えて進路に迷っているからだろう。確かに、勇斗は案外色々器用にこなすが、自分から何かをしたがる事は少なかった。

 今の年齢でそんなに悩む必要なんて無い。そう言うのは簡単だが、ガキにとっての三年は大きい。

 

「……なるほどな。良いんじゃねえの、一人暮らし」

「え、」

「気になるんだろ。まあ、いきなり一人暮らしは兄貴が認めねえだろうから、まずは寮のある所にでも進学すれば良いんじゃねえか?」

 

 楽しいぜ、一人暮らし。そう言って笑えば、勇斗も釣られるように笑った。しばらくして、実家から少し離れた寮制の学校へ進学したと勇斗から連絡が来た。

 俺達はあちこち飛び回る両親の影響か、各々好き勝手にするのは構わないが、何かを決めた時は報告することが暗黙の了解だった。そのため、俺が特に何も決まっていないのに家を出ると言った時も、あの口うるさい長兄ですら反対せずただ黙って見送るだけだった。

 

 本当は夏休みの時期にでも連れ出してやりたかったが、俺もその頃スタジオのバイトで触らせてもらったカメラが楽しくなり、本格的な勉強を始めて忙しくなっていた。

 実家に顔を出した時に聞いた限りでは、勇斗も部活やらバイトやらで忙しくしていたようだ。とにかく色々やってみる事にしたらしい勇斗を、俺達家族は黙って見守った。

 

 

 チビ達が家に長兄しか帰らない日常に慣れた頃、高二の冬休みに勇斗は突然姿を消した。

 

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