四十七幕 夢にまで見た

 

 塔の中の一階は居住空間のようだった。机や台所、洗い場など最低限の設備が並ぶ。こんな辺ぴな場所でどうやって食事を調達していたのか謎だが、固定された物流用らしき転移門が置かれていたので外に協力者でもいたのだろう。

 

 二階には、大量に置かれた観測器具や時計と、おそらくそれの元になった設計図、観測データなどが長い机に大量に並んでいた。自作しては改善を繰り返していたらしいそれは、大昔の物のはずなのに今ある最新の機器とも遜色ない。

 首を傾げてさっさと登ってしまうユートに、名残惜しさを感じながらもついて行く。自分のペースでは最上階へ上がる頃には夜になってしまうだろうから仕方がなかった。

 

 三階には壁一面の本棚と研究資料。それに大量の白紙にペンやインク、作図器具があるのを見るに、ここは書斎のような場所だったんだろう。

 

 最後の階段を登る。てすりを掴む手が震えていた。ここまで見たものだけでも夢のようだった。それでも、この上にある物への期待には勝らない。

 

「着いたー! ここがてっぺんかぁ」

「これが、星の賢者の使っていた魔導具……!」

 

 真っ先に視界に入るのは、中央にある巨大な魔導具だった。球形に筒を取り付けたような形をしたそれは、天窓をまっすぐに指差しているようだ。周囲に散らばるメモや時計は、まるでついさっきまで誰かがここで観測をしていた光景を思わせる。

 

 魔導具が気になるが使い方が分からず、周囲を回っているとユートが無造作に近付いた。下手に触って壊れやしないかと冷や汗をかくが、そんなこちらをお構い無しに魔導具の真下に立つと、何かを覗き込むような仕草をする。

 

「うーん、やっぱり天体望遠鏡だと思うんだけど……」

 

 何事かをぶつぶつ呟きながら、筒の向きを調整するように動かす。不意に「あっ」と声を上げるので、まさか壊したのかと震えればユートがこちらを見て満面の笑みを浮かべた。

 

「見えたよ、ジャズ! こっち来て!」

 

 言われるがままに近寄り、先程までユートがしていたように小さな筒を覗き込む。

 初めは何か分からなかった。何度も空と視線を往復させ、それでも信じられない事に気持ちの昂りが抑えられない。

 

「この世界の月って明るいよねぇ」

「月……だよな、今空にあるあれが……なんでこんなに近くにあるんだ!?」

 

 呑気な感想をもらすユートが信じられない。この魔導具の中身は一体どうなっているんだろう。おそらく拡大鏡の一種、星がこの大きさで見えるならかなりの大きさのレンズが必要になるはずだ。胴体をぐるりと囲む複数の魔法円が何の役割を果たしているのか、ひと目見ただけではさっぱり分からない。

 

「ユート、今のは何をしていたんだ?」

「えっとね、多分こことここを動かして……」

 

 ユートは元の世界に似たような物があるのか、何となく使い方が分かるようだった。操作方法を教えてもらい、自分で動かすとまた感動もひとしおだった。無言でひたすら弄っていると、ユートが後ろで困ったように言った。

 

「あー……、夢中になるのは分かるんだけど、ここに来た目的は忘れてないよね?」

「……悪い」

 

 

 最上階には更にハシゴが掛かっており、屋上へ出ることが出来た。天窓よりは一段下がった所に、塔をぐるりと一周できる足場がある。かすかな聖域の気配を掴むにはここに居たほうが良さそうだ。

 

「しばらくはここに泊まり込みだな」

「今日でこっちに食糧を運んで来ようか。セルドゥル達には何て言う?」

 

 質問の意味がわからず眉をひそめる。向かい合ってユートも首を傾げた。

 

「星見の塔が見つかったって、皆にバレたら騒ぎになるんじゃない?」

「あんな派手な地鳴りが鳴ってたのに、気付いてないと思うか?」

「あー、うぅん……どうだろう」

 

 詳しく聞けば、この塔には存在を秘匿する魔法が複数掛かっており、再び姿を表した今もそれらは健在なのだという。

 

「塔の主が許可を与えないとここには来れないらしいから、探しに来た人が遭難して大変なことになるんじゃないかな」

「……しばらくは内緒にしとくか」

 

 こんな素晴らしい場所を独り占めなんて、セルドゥル達を含めたあらゆる学者に申し訳ないと思うが、今しばらくは存在を秘匿させてもらおう。

 

「……顔がにやけてるよ。本当はジャズも内緒にしたいんでしょ」

「…………何のことだ?」

 

 この美しい魔導具を心ゆくまで使える。何より、雪山に存在する秘密の塔を自分達だけが知っているなんて、興奮しないわけが無かった。

 口角の上がるのを抑えきれない俺に、やがてユートも釣られるように笑い始め、俺達はげらげらと笑いながら食糧を調達しに都市までの道を急いだ。

 

 

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