第16話 チョロゲの過去語りと肉棒*四季折々の脱走ポエムみたいなの①
――誰も彼も ナイナイ 知った事じゃない――
――それもこれも いらない 触れたく無い――
ラップの間に挟む一人語り、掠れた声で歌う
―それがテンメイ 自分勝手 気分屋だって?―
――煩いな バイナラ もう来るな クソが――
ん~ん…囁くだけ。リズムに乗りながら、ね?
先輩から離れた時間、ケンとの時間で変わった事。
空気悪い所で、興味無い歌手の猿真似、そのせいで喉はガラガラ、歌なんて歌った事無いし。
つまらない?いーや、何も無い
ごめんね 応援してくれる ミンナ
どうやら 気持ち応えられそうに ナイナ
いつも妄想想像、唇、指、温もりに体液。
あぁ、これ以上、思い出すな…あの追いかける日々
何度も憧れ、恋焦がれ、消えていった流星
見かける度、都度狂うように、過去に戻る
乾いた皮膚から汗が、出なかった喉の声が
止まりかけた心臓が、凍りきった心が叫ぶ
やっと会えた…やっと会えたんだよ!!
だから…だからこそもう逃さない!!!
違う…先輩は幼馴染に嘘をつかれたんだ。
だから私は正直に、全部…嫌だけど全部……
思い出すは遠く、吹雪く雪原を行く様な日々
先輩を想う四六時中、叶わないと分かっても。
春が終わり夏が来て、枯れ葉落ちる秋になる。
好き 先輩 愛してる じゃ た り な い?
そして高校2年の冬、テンメイの名前は一人歩きして、先輩との時間は削られ、気付けばネコマチリップスラップのメンバーで…モデルになっていて…関東のスラム街と言われるネコマチのアイコンになっていた。
『マコ、これからも一緒にかましてやろうぜ!』
「そうだね。ケン、頑張ってね。応援してるよ」
『マコ⋯俺頑張るからさ、だから……その…』
「うん、大丈夫、分かってるよ」
ケン…貴方は頑張ってるかも知れない。
売れる為に我慢してるかも知れない。
喧嘩で有名なケンがずっと喧嘩もせず、一心不乱にラップに打ち込む。
その姿に周りは心打たれているよ?
ミンナがカッコいいってケンの真似してるよ?
だから、私は出来る事をして支えるよ?
私がね………何回も他のモデルやら、リップスラップのパトロンやら、他のラッパーやら、ネコマチの先輩のやらに声をかけられ、飲み物に薬を混ぜられ、迫られてはキレて、ケンに言うとこちらから脅し、逃げるを繰り返しているのは気づいてなくてもね。
分かってるよ、黙っている私が悪いんだ。
でも……それは本当にどうでも良いんだよ。
ケンが売れればそれで…夢を掴めばそれで。
「そんな顔しないで、ケン…頑張ってね」
私は心を閉ざし、言われた事をやる。
世間は絶望し、ふてりきって死体のような私を、ネコマチの自由の女神・テンメイだと思っている。
――男に媚びず、自分の欲に忠実な、テンメイ――
――自由奔放、天衣無縫、テンメイは自分勝手――
誰も知らない⋯筈だった。私の心には唯一人。
愛する人が、今日も私の心を⋯⋯⋯⋯
『おい!新しいプロモ!事務所がテンメイのスキャンダル写真使うってよ!ほら!コレ!』
私のスキャンダル?何それ?
『マコ⋯⋯これどういう事だ!?』
ケンは何を怒っているの?付き合ってから手を出してきたのはクズどもで⋯⋯アレ?
あぁ私だ⋯嬉しそうに、恋をしている顔だ。
私ってこんな顔できたんだってぐらい、少女の様に夢中で、花が咲くように笑顔で、全てがピンク色になるぐらい蕩けてる。
座っている肉棒先輩の顎を掴んで押していて、仰け反っている先輩の口に唾液垂らして、恍惚とした表情の……一年前の私だ。
幸せなんだね、良かった……一年前の私は確かに幸せだったんだ……
『マコ⋯お前⋯コイツってクラブにいた⋯⋯』
「だから何?髪を見れば分かるでしょ?付き合う前の話なんだけど?」
『でも今⋯お前の顔…』
顔?あぁ、私、ちょっと戻っていたのかも。
『付き合う前だし何も無いよ。でも事務所の人に言っといて、私はどう使われても構わないけど、彼は一般人なんだから、絶対顔バレしないようにって』
肉棒先輩に迷惑かけちゃうかな…ごめんなさい。
一瞬見たケンの顔が真顔だった。
その時は気付かなかったけど…気付いていたら何か変われたのかな?
「ほら、今日は、解散しよう。私達、年末は忙しいんでしょ?」
『お前…コイツとはどうなってんだよ?』
「いや、だから今は関係無いって、気にしないで」
『なぁマコ、本当の事を教えてくれ……』
その後もずっとどうなっているんだとか、何があったとか執拗に疑うケン。
諦めて、離れて、仕方ないと我慢して、ケンの彼女としてやっていく心構えのつもりで生活していた。
後から考えればケンの怒りや嫉妬は当たり前の事だと思う。
私だって先輩と幼馴染にそういう感情を持っていたのだから。
それでも…………この時は我慢出来なかった。
「うるさいな!そんなに疑うなら先輩と付き合えば良かっ
パンッ
顔に走る痛み、けど大した痛みではない。
とても加減していた様で、顔の位置すら変わらない。
それでも、大きな手のひらで顔を叩かれる。
『あ…………わりぃ……そんなつもりじゃ……』
「んーん、別に良いよ、これで気が済むなら」
あぁ…父さんや母さんに叩かれた時は怯えていた。
でも、大人になって、諦めて、感情を殺す事に慣れた私は、恐怖や軽蔑、憎悪を心の底に沈めた。
考えないようにする。
――こんなもんなんだよ、男はこんなもん――
――私の前にいる男は皆こんなんなんだよ――
――だから私も、もっと沈めなきゃ駄目だ――
――気持ちを、感情を、もっと深く、深く――
この時の私の顔はどんな顔してたんだろう?
真っ黒ーい、何にも無い、人を辞めた顔かな
この感情で生きていく。
そうやって自分で枠を作って思い込む。
久しぶりに学校に行った。
きっと先輩に対しても何も感じない。
でも、謝っておこう。それぐらいしないと本当に人じゃなくなりそうだから。
音楽室に入る。空気を吸う。
誰にも見せないノートに書く、感情を。
何で一年前と全然違うんだろう?
私は何をやってるんだろう?
考えて、書いて、その内に眠ってしまった。
いつも……先輩はここで寝ていたっけ?
あの時の日がずっと夢だったら
走馬灯……もし見る事があればあの日に戻れるのかな……
少しだけ夢を見て、二人で手を繋いだ夢を見て、それを遠くで見ている私がいて………
『おーい!起きろチョロゲ!朝だぞぉ!?』
肉棒と私は同棲してたんっすね。
おはようッス!ちゅ~して欲しいッス。
そうだよ、二人は愛し合ってずっと一緒だから。
遠くで見ている私から、目の前に先輩がいる私に変わる。
愛してる、大好き、触りたい、繋がりたい……
え?
『んが!?うお!?肉棒先輩!?お、お久しぶりッスね!』
夢!?危なかった!!何言ってんだ私!?
『おう!久しぶり!お互い多忙だな!?』
夢だった…事に落ち込んだ。現実はいつも厳しい。
「いや、別に忙しくは…まぁまぁその話は良いじゃないっスか…」
夢じゃなかったらな…私の事、さらってくれても構わないのに……無茶言ってるな、自分でも分かる。
『いやぁ…クソみたいな噂の為にお前に迷惑かけて、本当にすまんかった。彼氏に釈明も何でもするし、チョロケ゚の彼氏に殴られるのもOK!優しくしてほしいが…無理だろうな、いや、殴られたくないな』
「へ?噂?あぁ、あのプロモの…いや、良いっすよ!肉棒先輩は別に何もしなくて…私も彼氏の事、何か勘違いしてたっす。ごめんなさい、彼氏…ケンにも言っとくッスね」
大切な思い出だから謝らないで欲しい。
だって、私はあの時、確かに幸せだったから。
私、なんでケンと付き合ってるんだろう。
こんなに心が苦しいのに…あぁそうか、義理とか、情とか…何だかもうよくわからないや。
「今回の件で思ったんスけど…先輩は幼馴染の彼女の事…信じきれたっすか?付き合いが長ければ…口にしなくても分かりあえるなんて、本当にあるんスかね?…』
そうだよ、先輩には彼女がいるんだ。
同い年の綺麗な人、近所に住んでいる幼馴染。
きっと先輩は上手くいっている、だから……
「無い無い。何も言わないで伝わるなんてまず無いし、そもそも隠し事だらけだ。まぁ浮気は想定外だったな。隠したままフラれるのは更に想定外だ、俺の場合はな?うお?」
別れた!?何で!?浮気!?何が!?待って!?頭が……
理由を…何が嫌で!?幸せそうに……していたのに……
『え!?別れたんすか!?な、何で!?』
「あぁ、残念ながら結構前にな。お前の好きな小説風に言うとNTR、家庭教師の大学生とヤッてた。俺とはしてないっていうか、俺はしたことないのにな(笑)」
私…我慢してるのに何やってるの!?二人とも駄目だから!だから我慢してたのに!!我慢!?私は何言ってるの!?
『え?ええ!?ど、どうして!?先輩!?そ、それに…それにNTR好きじゃねぇっすよ!』
寝とり!?ねとってよ!肉棒!!ねとれ!!!私を早く寝盗れ!!!!じゃなくて!
「俺か不能人間だからだ(笑)やっぱりアレだな…特殊なエロいの見過ぎで性癖狂ったのがヤバかったな。着衣フェチ、野外、臭い、体液、受け身…沢山あるけど…いや、何でもない」
何言ってるの!?不能って!?私の時はギンギラだったじゃん!全部私としてたヤツじゃん!!
『え?え?いや、話続けるッスよ!』
『え?これ続けるの?ま、まぁとにかくお互い裸でヨーイドンとか、俺がリードして普通に…とかでは無理になった…でも幼馴染だと親の顔もあるし、周りの目もあるし、伝える前に性癖改革など、何とかしようと思って、色々踏み込んだが短期間で改善はなぁ…もしも性癖敢行して断られたら、凄い心が悲鳴を上げそうな気がするし、ミチも駄目そうなんだよなぁ…まぁどうでも良いんだよ、そんな事は…お前はどうすんの?』
それ、全部私で解決するよ!?ちがっ私はケンがいて…でも私でなら全部!むしろ好きなの!!先輩と変態したいの!!変えちゃ駄目!改変やめろ!!!改変が何だって!?だからダメなんだって!!!
んああ!?お前はどうすんのって急に言われても頭が回らない!
「え?どうって?何がッスか?」
『俺としてはもう卒業まで数日だし、殆ど学校来ねぇからさ、ここにももう来れないわ。お前が部長やっても良いし潰しても良いし?』
「はい!?」
『とにかく、お前は俺をめっちゃ下げて株上げろ、どうせ嘘なんだし。俺は小説の間男の様に、まるで死んだように消えるから』
「そ、そうっすか…分かりました……って何勝手に決めてんっすか!本当に間男になってどうするんっすか!?馬鹿ッスか!?」
どうすれば良いの!?何を言えば良いの!?
「そうそう、そんな感じがチョロケ゚らしい(笑)それでこそ俺のセフレ(仮)、俺、進路も決まってるしこんな馬鹿な事にこれ以上、巻き込まれたくないしな!高校に残るチョロゲは大変だと思うからごめんな!』
先輩が…スッと優しく私の口元を撫でた。
昨日、ケンに殴られた所……触った瞬間に気が狂いそうになった。襲い掛かりたく…なって……
『じゃ、またな。元気でな〜。来世こそ本当のセフレになろう(笑)」
そして今度は今…一瞬だけ…先輩が憂いを帯びた目をした……私には分かる…だってずっと見てきたから……そんな顔は…目は…しなかったから……
「え?セフレ!?あ、ひきょうもの!それ逃げっすよっ!待てっス!」
止めないと!でも私に止める権利は無いのに……
床から鎖で縛られてるような…今にも飛びつきたいのに動けない!!ネコマチ…ケン…テンメイ…あらゆるものが私を縛り付ける……
「あ!チョロゲ!卒業式の日には部室に来いよ?お前にプレゼントをやる。先輩からの心意気だ(笑)じゃあな、お幸せに!♥」
待って!待つっス!何で!?私!!あぁあ!!わたしぃっ!!嫌だっ!!
『え!?あ!先輩!待つっス!待って!待ってよぉっ!行かないでよ!!置いていかないでよぉッ!!馬鹿あああ!!肉棒馬鹿ああああああ!!!』
あっ ダメぇ だ め
「ハァハァ………ハァハァ……スゥ~……ふぅ~」
深呼吸して、深く沈みこむ。
今までやってきた事。やれたから。諦める事。
涙が、それを皮切りに全部出そうになった。
出たら壊れる、壊れたら…余計迷惑かけちゃう。
だから…………………
それから私は深く深く、感情を沈める、心を殺す。
息を止めるみたいに、冷たく、何も見ず、聞こえず、スマホに保存している先輩コレクションも見なかった。
見たら壊れる気がしたから。
落ち着くまで、せめてこの心が…まるで感情の水風船が破裂寸前でパンパンで、その中の水をゆっくり抜いていく様な……
『なぁ……マコ……「あぁ、何でも良い」
『お前何が「あぁ、別に何も」
『年末のライ「ん、別に平気」
誰か、何か喋ってるけど聞こえない。
そして年末のイベントとやら、やる気無し。
本当に、全くやる気無かった。
音が良く聞こえない、リズムにも殆どノッてない。
モデル気取り、高飛車、調子に乗ってる、何とでも言えば良い。
辞めたいんだよ
ケンの事を気を使っている余裕も無かった。
思い出さない様に、最後に話した日の事を思い出さない様に、現実から目を背けろと自分に言い聞かせる。ただ、沈める。
諦めるんだ、あの人、そう、名前も、忘れないと
そして気付けば卒業式。背中だけでも見たいな。
背中を見て、卒業を見て、諦めよう。
そう思ったのに……見てしまった。
「肉棒……先輩……なんで!?顔…」
心配…不安…私に何か出来ないか…痛々しい……
心配させるなんて…ズルいよ…
ヘラヘラしている……知ってるよ……先輩が意味無くヘラヘラしてる時は……辛い時なんだ……
分かっちゃうんだよ……私…分かってるんだよ?
沈めてた記憶がまた……
――卒業式の日には部室に来いよ?――
あぁ…全部辞めよう、逃げよう。
高校も辞めて、先輩逃げるって言ってた。
だから近くに住んで、アルバイト……うん、今でもアルバイト出来てるし、16歳以上だからお昼に沢山働いて、安くてどんな汚い所でも、先輩と会えればそれで良い。セフレでも良い、友達でも良い……
私は卒業式が終わると同時に音楽室に行った。
きっと先輩が……待ってると思った。
勝手に妄想した。私の悪い所だ、都合良く、何でも都合良く………
【最高に楽しかったぜ!元気でな!チョロゲは世界で一番、チョ→気持ちいいっ! 肉棒より♥】
あ………………あぁ………………………
先輩の……宝物……ヘッドホン………
聞いてもいないのに…メーカー…BORN Lollipopって言うメーカー………
死ぬ時にこれやるよって言ってた……
【俺の一番大事な想い出をやるよ!バイバイ!】
ヘッドホンを掴んで…胸に当てて……
「あ…あぁ…ヴァぁ…」
破裂 した こんなに 好きだったんだ
「あ゙あ゙ッあ゙あ゙!!うああえッあえああああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」
遅かった 間違えた 勇気が無かったから
「ぶぁああああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッッッ!!」
なにがモデルだ 歌手だ テンメイだ
「びえあぁぁぁあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!ばまああああ゙あ゙あ゙あ゙!!うえええええええええ!!!」
言い訳ばっかりで もう二度と手に入らない
幸福を失った なんて私は馬鹿なんだろう
「オエエエエエエエエエエッッッ!!!」
涙は溢れ 泣きすぎて 吐き出して 漏らす
私は彼に狂っている 今もキョウ鳴している
壊れる た にくぼ あい た い
それから色々曖昧で 聞こえてくる音は残酷で
『ケンが久宝って奴がマコと手を出してたからケジメつけたらしいよ?何かぶん殴ったって』
これじゃ 私がやった様なものだ
でもそれなら 何で宝物くれたんだろう
知ってるクセに 先輩は優しくてカッコいい人だ
私の為に殴られたんだ 何でそんなにかっこいいの?
『あのヘッドホン、レアモンで久宝って奴のだろ?マコもスゲェな、欲しいもんは何でも手に入れるんだな』
ただ一つ 私はコイツラも自分も心底嫌いだ
そして……コイツラも自分も汚い。
私を力尽くで何とかしようとし始めた
汚い、どいつもこいつもウンザリだ
裸同然て外を歩かせ 乾ききった身体を弄り
何とかしようとして ドラックに頼り始める
ケンも同罪、私も同罪、だから私は償うんだ
全てを吐き出し空っぽになって数日……
結局、薬を使い手を出した プロデューサー
「何すんのよ!触らないでっ!来ないっんぐ!?」
『もっと売れたいでしょ?分かってるんだよ?』
そんな訳無いだろ、何にも分かっちゃいない。
「フーッ…ブッ!?うむぐぅ!フーッフーッ」
『大丈夫だよ、すぐに人のいない所に行くから』
聞こえてくる一回り年上のおじさんの声。
『たすけて…』とは思わなかった。
連れ出され、腰を抱かれ、無理矢理歩かされる。
私から見えるのは、黒い模様のある目隠しに、黒のマスクの中は舌を挟む様にして付ける猿轡。
口から唾液が止まらない。
「フーッフーッ…フーッフーッ」
コッコッコッコッコッコッ
聞こえるのは自分の吐息とブーツの靴音だけ。
まるで紐の様な下着を付けさせられ、後ろで親指同士を結束バンドで止められて、ミニスカートの様なコートを羽織る様に着ている。
これが先輩とのデートだったらと考えると切なくなる。こんな事されたら狂ってしまうだろうな。
勿論、先輩では無い…先輩の感覚、臭い、気配は何も感じないから。
だから私は一切感じない、少ない不快感のみ。
『事務所に着いたら良い薬あげるからさ。僕がいれば君等は一躍あの街から抜け出せるから』
薬?…あぁ、何にせよろくなもんじゃないだろうな。
でも、もし薬でも何でも、先輩に会えるならどんなに幸せだろう。
それにこの街から抜け出した所で何の意味がある?
どうせお前らの力で抜けた先には、私にとって何も無いのだから。
あぁ、薬があれば、私は居なくなったあの人を感じる事が出来るのだろうか?
もう何でも良い…ここが私の終着点であれ…でも…
『なにやってんだ!テメェッ!!』
『何だお前!?何やってんのか分かってんのか!?』
誰か助けに来たのかな?なんてね。
いや、誰が来たかは分かってるんだけど。
善意で、悪気無く、私の為に助けに来てくれてるのは知ってるのに……………
マッチポンプに感じるのは何故だろう?
この街は、私の生まれた世界は、いつもこの茶番の繰り返し。
物語は現実と違う、だから惹かれる、焦がれる。
だからこそ先輩、肉棒先輩は…あぁ…やっぱり先輩じゃないと私は…
それを颯爽と助けるケン だからなんなの?
あの時を思い出し少し笑う
手首に 髭剃りを真横に 両手を振り上げて
「ィ゙ヤ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッッア゙ア゙ア゙ア゙ゥ゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!」
あの日みたく暑く 優しく温かく濡れている
見たんだ リストカットは 自殺じゃないの
生きる為に 私は手首を切った 痛みは無い
『なんで…俺…お前の事…ずっと』
アナタが悪い訳じゃない 私が間違えただけ
ごめんなさい 私が生きたいって思ったから
ごめんなさい 私が あの人と生きたいと…
「ぢがッよ゙るなァ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッッッ!!!」
思ってしまったから…ごめんなさい。
そして私は、何処へともなく走り出した。
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