Cys:27 ときめきと波乱の扉開き

───耕助さん……!


 私は、インターホンを押したお父さんの隣で、ドキドキしながらドアを見つめてる。

 ドアにはこの前作った会社名のプレートが貼ってあって、名前は『シャイニング・リバース』

 輝きと再生をかけた名前で、私と耕助さんが一緒に考えたの。

 素敵な名前でしょ?

 ただ、ドア自体は昔風でオシャレじゃないから、逆にミスマッチ感もあるんだけど……

 私がそんな事を思いながらドキドキしてると、お父さんがインターホン越しに静かに告げる。


「澪の父親……望月です」


 そう告げた数秒間の後に、ドアが内側からガチャっと開いた。


「お待ちしておりました。高槻です……!」


 片手でドアを開けた耕助さんは、いつもとちょっと雰囲気が違う。

 いつも髪はクセ毛で波打ってるのに、今日は綺麗なパーマみたいに整えられてるし、何より服装もピシッとしてるの。

 いつもは……と、言ってもまだ出会ってから数日だけど、よれた感じじゃなくて、スーツとネクタイがビシッと決まってる。


───こ、耕助さんっ! カッコイイ……♪


 元々の顔立ちは端正な方だし、おヒゲもキチッと整えてあるから凄く渋い。


 私はそんな耕助さんを前に、さっきとは別の意味でドキドキしてる。

 きっと顔も赤くなってるけど、大丈夫だよね。

 けど、こんな私とは対照的に、耕助さんもお父さんも真剣な表情だ。

 まるで、一瞬で品定めをするような顔で向き合ってる。


───だ、大丈夫かなぁ……?!


 そんな中、耕助さんはお父さんと向かい合ったまま、ニッと力強い笑みを浮かべて、片手をスッと差し出した。


「よろしくお願いします……!」


 その仕草につられ、お父さんも手を前にスッと差し出してゆく。

 でも、お父さんは一瞬視線を斜めに落として、差し出しかけた手を引いた。


「高槻さん……そうなるかどうかは、今日の話次第だ……」


 この光景を目の当たりにして、私の気持ちが一気にザワつく。


「お父さんっ! なんでそんなイジワルするの!?」


 私は思わず横から身を乗り出した。

 けど、お父さんは全く動じす厳しい顔のまま、耕助さんをジッと見据えてる。

 まるで、私は蚊帳の外にいるみたい。

 耕助さんもお父さんをジッと見据えてるし。

 けれど、耕助さんはお父さん見据えながらも私に声をかけてくれた。


「気にすんな澪。もし逆の立場なら、俺は親父さんほど冷静ではいられねぇさ」

「耕助さん……」


 普段はやさぐれたり子供みたいな事もするけど、こういう時の耕助さんはやっぱり大人だ。

 握手を断られても嫌な顔をしないどころか、お父さんの気持ちを汲んで立ててあげてる。

 この対応に、お父さんも少し表情が和らいだ。


「話す価値は、ありそうだな……」

「そりゃどうも。感謝します。とりあえずこちらへどうぞ」


 サッと腕を伸ばした先には、この前一緒に買いに行った茶色いソファがある。

 しかも、そこにはちゃんと置いてあったの。

 私の大好きな『コテバニ』が。


「わあっ♪ ありがとう耕助さん!」

「まっ……仲間第一号だからな」

「うーっ、コテバニ〜♪」


 コテバニをギュウッと抱きしめてると、お父さんは立ったまま私を見下ろして、軽く溜息をついた。


「まったく……こんな物を置いとくなんて、呆れるよ、本当に」


 お父さんは、言葉通り本当に呆れてる。

 せっかく少し心を開きかけたのに台無しだ。

 悲しいけど、コテバニの可愛さがお父さんには通じないみたい。


「高槻くん、ふざけているのか……?」


 ソファにも座らず、お父さんは耕助さんをジロッと見据えた。

 でも、耕助さんは動じていない。


「まさか。お気に触ったんなら申し訳ないですけど、この事務所は澪の為にあるんで」

「なんだと?」


 顔を軽くしかめて謎めいた表情を浮かべたお父さんに、耕助さんはニッとほほ笑んだ。


「澪が笑顔になるのは、呆れる事ですか?」

「?! 高槻くん、キミは……」


 お父さんはハッと目を見開いて、僅かに震えながら耕助さんを見つめている。

 もちろん、それは怒りじゃなくて別の物だと思う。

 端で見ている私にも、お父さんの警戒心が雪解けていくのを感じるから。

 こんな短時間でここまで出来るなんて、耕助さんは本当に凄い。

 ちなみに私は、コテバニを両手でギュッと抱きしめたまま、この光景をチラッと見上げてる。


───顔が赤くなってるの、耕助さんにバレないようにしなきゃ……


 だって、あんなセリフをサラッと言うんだもん。

 考えた訳じゃなくて自然に言った感じだし。

 もうっ、耕助さんはズルい。

 私がそんな事を思っている中、お父さんは耕助さんみたいに不敵な笑みを浮かべた。


「私は澪の父親だ。世界で一番澪の幸せを考えている」

「えぇ、充分感じてますよ。だから、アナタとならいい話が出来そうです」


 お父さんと耕助さんは、私の見ている前で長年の親友同士みたいに見つめ合ってる。

 きっと、耕助さんもお父さんも、気持ちが本物だからに違いない。

 デキる人同士は、交わす言葉も少ないって聞いた事あるし。

 二人はそう言って言葉を交わすと、向き合う形でソファに座り、話を始めた。


「高槻くん、キミが澪の事を大切に想ってくれているのは、よく分かった。ある程度の経緯も澪から聞いてる」


 お父さんはそこまで言って一旦言葉を止め、話を続けてゆく。


「たが、ここからどうするつもりだ? AIドル一色の世の中で、勝算はあるのか?」


 私はお父さんの隣で話を聞きながら、胸がギュッとするのを感じた。

 悲しいけど、お父さんの言う事はもっともだから。

 今はAIドルが世の中を席巻していて、人間アイドルなんて入る隙が無い。

 しかも、私みたいに地味な女の子が参戦したら、どうなるかなんて目に見えてるもん。

 これは歌に限った事じゃなくて、マンガや小説だってそう。

 流行りというものがあって、そこから外れたものは中々ヒットしない。

 それが時代の波というものだから。


───私が好きな歌も、ずっと時代遅れだってバカにされてきたし……


 もちろん、あの浜辺での誓いは嘘じゃないし、玲華さんにだって宣戦布告をした。

 ただ、お父さんが耕助さんに問いかけた事は、あまりにも真実を突いてる。

 気持ちだけじゃ勝てない事ぐらい、私だって分かってるから。

 耕助さんだって、こんなのは分かっているハズ。

 けれど、耕助さんはお父さんを見据えたまま、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「もちろん考えてますよ。今はAIドル全盛期。だからまず……」

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