Cys:26 迫る対峙と決意する二人
「澪、そろそろ時間だぞ」
「はーい! お父さん、ちょっと待ってて」
あれから数日後、遂に耕助さんとお父さんが対面する日が来たの。
この前から学校終わりに耕助さんと掃除をして、机とか応接用のソファやテーブルはもちろん、簡易スタジオの設備も整えた。
見栄えを良くする為に、ちょっと大きな観葉植物も置いてある。
お金は全部耕助さんが貯金から出してくれたから、結構な出費だったみたい。
私は高校生だからお金の面では全然役に立てなかったのに、お店に行った時、耕助さんに一つおねだりしちゃった。
『わあっ♪ 耕助さん耕助さん、これ見てください♪』
『ん? おおっ、コテバニのぬいぐるみじゃねぇか!』
『そーですよ♪ 耕助さんが好きなアニメの、マスコットキャラクターですよね』
『確かに。しかしデケェぬいぐるみだな。それに俺は
『えーっ、ピンクで青い目のウサギさん可愛いじゃないですか♪』
『だからだよ。可愛いのはちょっと俺には……』
『このウサちゃん欲しいです。事務所のソファーに置きましょうよっ』
『はあっ? 澪、お前正気か? ソファーにこんなヤツいたら、来たヤツがビビるだろうが。胴長で体ピンクの宇宙人みたいだしよ』
『そんな事ないです! 可愛くて、わあっ♪ ってなりますよ。それに、芸能事務所なんだからいいじゃないですか』
『チッ、ったく……で、幾らだ?』
『……5800円です。ダメですか……?』
『……いいよ』
『わあっ♪ ありがとうございます! 耕助さん!』
『うおいっ、こんなとこで抱きつくなよ。誰が見てるか分からんのだし』
『あっ、あああっ! す、すいません耕助さん。嬉しくてつい……』
『フウッ……まあとりあえず、俺らの仲間の第一号としちゃ悪くねぇ……か?』
そんな事があり、事務所の茶色いソファにはコテバニのぬいぐるみがテーン、と置いてあるの。
すっごく可愛いんだよ。
お父さんの気持ちも、きっと和んでくれるハズ。
それを思い出しながら鏡の前で髪を整えていたけれど、気持ちは少し複雑だった。
耕助さんとはいつも楽しく会ってるし、仲間として一緒にいる。
でも今日はお父さんと一緒に会いにいくから、何か逆な気がしちゃうの。
何より私は、耕助さんと一緒に夢を追う一人の人間であると同時に、お父さんの娘だ。
───もしお父さんが耕助さんを認めなかったら、私、どっちを優先しなきゃいいけないんだろう……
不安な想いが胸を掠めたけど、私は鏡の中の自分を真っ直ぐ見つめた。
───ううん、違うよね。優先しなきゃいけないのは私自身の想いだ!
そこがブレたら、自分の人生じゃなくなっちゃう。
自分の想いで決めるからこそ、耕助さんと一緒に夢を追っていける。
私はピシッと襟を正し、鏡の中の自分にコクンと頷き軽く微笑んだ。
───行くよ。お父さんに、私と耕助さんの夢を心で感じてもらう為に……!
◆◇◆
「フウッ、もうすぐか……」
俺はオフィスでタバコをふかしながら、澪の親父さんとの対談に思いを馳せている。
ちなみに、吸っているのはオフィスに作った簡易喫煙所だ。
換気扇の下に、BOX型のもんを取り付けたのさ。
時代とかじゃなく、澪の為にそうした。
オフィスはレッスンの場も兼ねてるから、副流煙を浴びせちゃマズい。
俺みてぇなド腐れと違って、澪は宝だからな。
また、ちょうど換気扇の下に小窓がついていて外の景色を見れるから、いい気分転換にもなる。
とは言っても、その景色の大半を占めるのは
───ったく、もしあっち側なら、澪の親父さんも一発でオッケーだろうな……
澪が手伝ってくれたお陰で内装はそれなりにはなったが、ビル自体は当然ボロいまま。
きっと澪の親父さんも引くだろうが、そこは澪に任せるしかねぇ。
アイツもそこは自分が頑張るって言ってたし、後は俺がしっかり澪の親父さんと向き合うだけだ。
そんな事を思っていると、俺のスマホが振動した。
スマホを片手に持ち視線を落とすと、そこには澪からのメッセージが。
『耕助さん、もうすぐ着きます』
俺は『了解。事務所にいる』と簡単に返事をして、吸い終わったタバコを円柱形の灰皿へ捨て喫煙所から出た。
───いよいよか……!
身の引き締まる緊張感が心に走る。
思えばここまで色々あったが、今日の対談をクリアしてこそ、ようやくスターとラインに立てるんだ。
今日の対談をする為の準備は急ごしらえだったし、スタッフだって雇えちゃいない。
広告する為の宣伝材料だってまだ全然。
本来は、それらを準備出来てからが望ましいに決まってる。
───けど仕方ねぇよな。先に出会っちまったんだからよ……澪っていう奇跡に!
俺は口をゆすいで臭い消しを振りかけてから、ソファーにドカッと腰を下ろし、手を前に組んだ。
足りねぇ事だらけだが、ここまでやれる事は全部やった。
何より本物の想いと、ここから澪をプロデュースしていく筋書は作ってある。
後は真正面から話をしていくだけだ。
そう思いながら待つ時間は、いつもよりとても長く感じちまう。
俺しかいないオフィスには、街を人が往来する足音と、車の行き来する音が静かに響いてくる。
しかし、その音を掻き消すかのようにインターホンが鳴った。
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