第四話

 数時間ぶりに魔王様と対面。表情から、心なしかお疲れな様子が伺える。日頃公務をこなしてらっしゃる魔王様にとっては日常の範疇に過ぎないとお思いでしょうが、本日はイレギュラーであったが故に、意図せずして出てしまわれたのだろう。

 漆黒のマントがゆらめく。重々しい足取りで席に向かわれた。席の前に立ち、私たちを見上げ、腰を下ろされる。

 

 「皆の者、ご苦労。それでは軍事会議を始めよう。だがその前に……」


 「入れ」

 

 魔王様の一声に合わせて、扉が開かれた。そこから二人、緊張した様子で入ってきた。

 

「んん〜?あれ、バエルちゃんと……君は……」

「お、お嬢じゃないですか!?」

「……」

 お嬢様だ。どうしてこちらに……。そして隣にいる方……彼女はお嬢様の専属の……ベイル殿。


 彼女らは魔王様の隣に並ぶと一礼した。


「バエル・ライヒ・シューベルトです」

「お嬢様の専属を務めております、ベイルと申します」


「あ!!ベイルってあのベイル!?固有魔法の使い手!!」

 

 真っ先に反応したのは他でもないヴィーナ殿。彼女から発せられた『固有魔法』の言葉にマルバス殿を除く一同は一斉に彼女に食らいついた。

 

「固有魔法ということは……貴女が……」

「おい、ベイル……と言ったか!うちの『ディナトス騎士団』に入らないか?!どんな魔法だって構わん!即戦力として欲しい!!」

「ダメダメ〜あんたのところじゃ彼女の力を発揮できないわ。だから私たちの『アミナ騎士団』に来て!私なら貴女を最大限に活かすことができる!!そして私の研究を手伝って欲しいな〜」

「テメェ、それが目的か!!」

「あ、バレちゃった〜?」


 彼女について、魔王様とお嬢様のいらっしゃる場であるにも関わらず、ベイル殿について(特にハルバード殿とヴィーナ殿による質問攻めで)盛り上がってしまった。確かに希少な固有魔法の使い手……。こうも盛り上がってしまうのは当然だと言われればそれまでなのだが……。


「あ、あはは……」


 やはり彼女と我々の立場の違いから愛想笑いが極端に増えてしまわれた様子。彼女のためにも一度ここでストップさせなくては……。と考えた時、「静粛に」と、魔王様がおっしゃった。


 あの一言で騒ぎが嘘であるかのように静まる。


「本題に入ろう。そうだな、まずは彼女、ベイルについてだ。ヴィーナの言ったように、彼女は彼女は固有魔法の使い手だ。まずは皆、彼女の力を見て欲しい」

「あれを」


 魔王様が従者に指示すると、大きな箱を持って来させた。

 それは、魔水晶と呼ばれる鉱物を加工して出来た透明な箱だ。魔素マナの濃さによって透明度と硬度が変わる性質を持っている。それは、反比例の関係で成り立っている、珍しい素材だ。箱の中には推定約二〜三メートル、四足歩行の魔獣、体表は黒、頭部に二本の捻じ曲がった角を携え、箱から出ようと何度も突進を繰り返す生物がいる。


「なんだ、レイジングブルじゃねえか。だがあの図体……かなりの大物だな」

「ええ、それに、かなり苛立ってる」

「ベイル」

「はい、問題ありません」

「そうか。では……」

 

 魔王様はレイジングブル入りの箱に手をかざす。魔素マナを注ぐと周囲が発光し、ついに粉々に砕かれてしまった。ブルは解き放たれた刹那、あの魔王様に向かって突進を仕掛けてしまう。

 

「これはこれは、元気があってよろしい」

 

 軽い身のこなしで避ける魔王様。勢い余って壁に激突したブルは、角が食い込んて動けない。

 

「準備は整った。魔法の使用を許可する」

「はい、では、参ります」



蠱毒の王女アインザーム


 


 

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