第十話

 洞窟を進み聖堂まで戻ると、司祭様が待っていた。


「お疲れ様でした、アルヴァ様。これにて契約の儀式は終了でございます。さ、お身体も冷えていると思いますのでお早めにお着替えを済ませてください」

 

 と言ってあの部屋に入らされた。テーブルには畳まれた服と共にマグカップが置いてある。湯気が立っているのが遠目から見てもわかる。体の芯からあったまってくれというメッセージなのだろう、そう思って飲んだ。舌が火傷しかけた。

 

 着替えが済み、部屋を出ると兄さんが待っていた。


「おつかれ、アル」

「あ、兄さん」

「よく頑張ったな、寒かっただろ」

 

 兄さんの手が俺の頬をギュッとしてきた。冷え切った体に人肌が染みる。

 

「うん、寒かった」

「じゃあ風邪ひかないように早く帰ろう。暖をとりながら温かいスープでも作ってもらおうか」

「うん!」

 

 すると兄さんは俺の頭に手を置いて髪の毛をわしゃわしゃとかき乱してきた。どうやら大型犬に見えてるのかな?



 


 この後、俺たちは司祭様らに感謝の言葉を述べて聖堂を出ていく。馬車に辿り着くまでの帰路で、兄さんから改めてエスピルの教えを説教してもらった。大雑把にまとめると、エスピルこそが真の創造神であり唯一神で、魔法の契約をした張本人かつ、人という種族を創った本人。今、魔法が使えるのも、日々生きていられるのも全てエスピルによるものであるから敬えよ、とのことらしい。

 因みに魔族についても言及していて、人の成り損ないだから迫害しても罪に問われないらしい。あまりにおかしな話だったので、本当かどうか、帰ったらもう一度見返してみたい。


 とまあ、かなり物騒にまとめちゃったけど、だいたいこんな感じ。かなり上から目線な内容なので、あの姿、話し方からは一つも想像できない。でも、信じる信じないは別として一つの宗教のあり方としていいんじゃないのと個人的には思う……かな。所々大丈夫なのか心配な部分あるけど……。少なくとも、自分は信じないけど、それは誰にも言わず、心の中にしまっておこう。



 

 

 ◆



 無事、屋敷に戻ることができた。ついた頃には真っ暗な夜になっていた。見上げると、星々の輝く姿が空というキャンバス一面に広がってる。大きいものから小さいものまで緻密に敷き詰められて、天の川のように見える星の川が、幼い頃、まだ俺が転生する前、那月と学校の課題のために一緒に見たあの光景を思い出す。



 こうしてみると、日本にいた頃は課題以外で空を見ることなんてなかったなと、ふと思ってしまった。星座も昔は覚えてたはずなのに今では一つも思い出せない。理科のテストの点数を取るためだけに覚えてしまったためだろうか。こんなにも神秘的で美しいのに、なぜ気づかなかったんだろう。もし、この世界でも星座があるのなら、教えてもらいたい。


 今頃、那月はどうしているのだろう。元気、してるかな。

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