第九話

 エスピルは俺の頭に手をかざした。ふわっと触れたような気がする。ほんのり頭頂部が温かくなるのを感じると、それが全身に広がっていった。この感覚を俺は覚えている。兄さんに無理やり魔力回路を開けさせられた時に感じた魔素マナの流れだ。

 

「あなたの適性は水と土属性ですね」


 エスピルの手が頭から離れたので顔を見上げた。もっと時間がかかると思ってたけれど案外すぐに終わってしまった。水と土……と言ったか。確か兄さんは土に適性があるって言ってたっけ。で、姉さんは火と水だったな。

 

「お兄様は火属性と土属性に適性がありましたね。でしたら師事されてみてはいかがでしょう。比べる対象が悪いだけで実力はありますよ。私が保証します」

「比べる対象って、姉さんのこと?」

「そうですね……お姉様は私が見てきた中で5本の指に入るぐらいにはあると思いますよ。第二師団団長の名は伊達ではないですね」

「そこまでなんだ…姉さんって」


 物心ついた時からほとんど会っていないノエル姉さん(グレン兄さんもそうだけど……)、肩書きだけしか知らなかったけど、神様から見ても実力あるんだ。それなら兄さんの比較対象が良くないな。今度しっかり魔法を見せてもらわなきゃ。


「わかった。じゃあ兄さんに教えてもらうことにするよ」

「ええ、頑張ってください。さて、契約もこれで終了しましたし、元の場所に戻しましょう。あ、最後にこれだけ……」


 一度咳払いする。エスピルの目つきが変わった。さっきまで(今考えると失礼だが)フレンドリーに接していたせいで、より女神として慈愛の心を持つ優しい目をしているように見えた。

 

「私は貴方をいつも見ています。辛いこともあるでしょうけど、必ず成し遂げると信じています」

 

 その声を最後に、視界が真っ暗になってしまった。



 ふと気がつくと、あの小さな女神エスピル像の前にいた。女神像を照らしていた光はいつの間にかなくなり、隙間から赤い空が見える。夕刻のようだ。儀式は……ちゃんと終えたみたい。これでひとまず安心した。

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