第二話
父が発ってから六日、七日ぐらい経った頃、王都から父の手紙が届いた。王都での仕事がひと段落ついたので帰ってくるそうだ。あと二日ほどで帰ってくるだろう。一体どのような理由で呼び出したのか分からないが、わざわざ向こうから馬車を寄越すぐらいだ。余程のことがない限り呼ぶなんてことはまずない。父の手を借りなければならない程、どうにもならない事態が王都で起こっているのだろうか。
考えられることとすれば魔族関連……。
詳しいことは知らないけれど、国境付近で争ってるとかないとかの話をどっかで聞いたことがある。やはりあの女神……エスピルが言うように、人族は将来魔族と戦い、蹂躙されてしまうのだろうか。人族と魔族の間には、そこまでの力の差があると言うのだろうか。俺は、魔族と十分戦えるだけの力をつけることができるのだろうか。それまで、あとどれだけの時間があるのだろうか。……先が見えない。
自室の窓を開けて景色を眺める。出るのはため息ばかりだ。
「アルー、いる?」
兄さんだ。自室の扉の向こうから声がする。
「いるけどどうしたの?そこにいるのもなんだから入っていいよ」
とう言うとすぐに扉を開ける。
「今日も遊ぼうぜ!」
「え、やだ」
「えええぇぇぇ……何でさ」
「だって兄さん帰ってきてからやることと言ったらこれじゃん。また庭園に行くんでしょう。二日、三日ぐらいならまだしも、ここまでくると流石に飽きるよ」
「そ、そんなぁぁ」
さっきまでハツラツとしていたのに、青菜に塩がかかったみたいにシナシナになっていった。
「いや、そんなにがっかりしなくても……」
「だってぇ……俺ができるのはこれぐらいしかないし……」
今度はナメクジが塩をかけられて縮んだように丸くなっていく。これは何とかしなきゃな……。
「んん……じゃあさ、普段訓練学校で何をしているのか教えてよ」
「え?訓練学校で?」
「そう、訓練学校で」
「そんなんでいいのかい?」
「うん。いつか聞いてみたいと思ってたし」
「よし、分かった!兄さんに任せなさい!」
お、丸くなってた兄さんが復活した。
「とは言ったものの……大きく分けて訓練、座学ぐらいしかないんだよな……」
兄さんは腕を組んだ。
「訓練はいいとして、座学って何するの?」
「座学か、そうだな。例えば、国の歴史、礼儀作法とか、後は備品の取り扱いをやるかな」
「礼儀作法?」
「ほら、騎士団って国境付近の監視や都市の治安を守るためだけじゃなくて、国王や他国からの要人を護衛する時だってあるんだ。でも、その人に対して無礼な態度を取ったらどうなると思う?」
「自国の印象が悪くなる……とかかな?」
「それだけで済めばいいんだけどね。いざという時に協力関係を結べなくなってしまうかもしれないし、最悪戦争だって起きる。少なくとも今はそんなこと起きないだろうけど。だから、常日頃から礼儀作法を学んでおく必要があるんだ」
「へぇ〜。じゃあ近衛兵みたいな感じなんだ」
「そうそう、近衛兵、騎士団の中でも超優秀の人たちが集まってるからね」
「……それって兄さんたちよりも強い?」
「ああ……どうなんだろう。師団長……より若干劣る、もしくは同程度の実力はあると思うよ」
「そっか」
「少なくともグレン兄さんなら『俺たちの方が上だ』って言うだろうね」
と、兄さんは笑った。にしてもグレン兄さんか……。そう言えば、しばらく会ってないな。最後に会ったのいつだっけ。元気にしてるかな。
「他には?」
「そうだな……」
深く考え込んだ。そして思い出したかのように顔を上げる。
「ああ、基礎魔法学も座学の中に入ってるんだった」
その瞬間、俺の耳に『魔法学』の単語が留まった。
「え、今……なんて?魔法学……とか言わなかった?」
「そう言ったけど……どうした?」
他人事の様にとぼけたような顔をされた。少々ムカついたが、やはり聞こえたのは『魔法学』で合っていた。
「なんでそんなの忘れてたのさ?!めっちゃ面白そうなのに?!」
異世界を夢みると必ずといっていいほど剣や冒険と同じように憧れるモノがある。それは魔法を使うこと。俺がいた世界にそのような技術など存在しない、摩訶不思議な力。ここの暮らしに慣れてきたが異世界であることに変わりはない。この世界に魔法があることは知っているが、何度やって見ようにもどういった原理なのかさっぱり。できた試しがなかった。もし兄さんが教えてくれるのであれば……きっと俺も使えるようになるはず……!!ならこの機会……逃したくない!
兄さん視点ではきっと俺は目を輝かせているのだろう。それに対して兄さんは苦笑している。
「いやあ、俺ノエル姉と違って魔法上手く使えないじゃん?」
「いやいや、そんなの聞いたことないけど。てか姉さんって魔法上手いんだ」
「あれ、言ってなかったっけ?知ってるもんだと思ってたけど……」
「で、魔法どうやってやるの?」
「普通にできない?こんな風に」
兄さんの指先から指先に小さな火が出てきた。それはゆらめく蝋燭を彷彿とさせる、落ち着きのある光だった。
「すげぇ!!兄さん!!え、どうやってやるの?教えてよ!!」
「え、本当に使ったことない?」
「うん。ないよ。本読んでやってみようと思ったけど何もできなかった」
「んん……一応教えることはできなくはないけど……俺魔法下手だよ?それでもいいならいいけど……」
「兄さん、いや、エクス兄様、お願いします!!」
俺は頭を下げた。身内とはいえ、人にモノを頼むならこうでなくては。アルヴァ十歳、渾身のおねだり。念には念を、兄さんに抱きついてダメ押しの上目遣い。さあ、どうだ?
「…………しゃあぁ!!やってやろうじゃないの!」
「ほ、本当に?!」
「当たり前だろ。アルの頼みなんだ。断るなんてことはしねえさ」
「やったぁ!!ありがとう、兄さん!!」
ちょろい、ちょろすぎるぞこの兄……だけど、これで魔法が使えるようになる!
「じゃあ早速やりましょう!!ほら、いつもの場所行きますよ!兄さん!!」
「おう、こっちは少し準備があるから先に行ってな」
「分かりました!!待ってますからね!!」
俺は魔法を使える高揚感を胸に抱きしめ、急いでいつもの場所に向かっていった。
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