第30話 告白

 レイラが胸に飛び込んでくる。

 初めて、直接触れることができる。

 そう思うと同時に、かなり怖がっている自分を自覚した。

 念のために結界を付けておくべきか?

 いや。


 「レイラ」


 俺は恐怖を振り切り、レイラには結界が無効になるようにした。


 「レクト様っ. . . . . .」


 そして初めて、直接レイラを抱きしめた。

 温かい。

 人の温もりを初めて感じた瞬間だった。


 「お、おい、レクト? いったいどうなって. . . . . .」


 隣から、狼狽えたような声が聞こえる。

 廊下の奥の方からは、知らない男子生徒がこちらに走ってくるのが見えた。

 式の途中、レイラの近くにいた魔力だ。


 ここはあまり良くないな。

 俺はレイラと共に学園の屋上に転移する。


 「レクト様. . . . . .レクト様. . . . . .」


 「レイラ」


 腕の中のレイラはずっと俺の名前を呼ぶだけで、まともに話せそうな状況じゃない。

 かくいう俺も、似たような状況。

 今はレイラとの再会に浸りたい。

 言葉は必要なかった。



 ♢ ♢ ♢



 その後1時間ぐらい、涙を流すレイラを抱きしめていた。

 レイラは俺の胸に顔を押し付けて、たまに嗚咽を漏らしていた。


 「レクト様、ずっと、ずっとお会いしたかったです」


 声は震えているが、かなり落ち着いたようだ。

 普通に話せる状態になっている。

 もちろん、今もレイラは腕の中だ。


 「あぁ。俺も会いたかった」


 腕の中から見上げるレイラを見ると、不覚にも胸の奥が揺れる。

 2年前でも飛びぬけて可愛かったのに、美しさにさらに磨きがかかっていた。


 「悪かった、レイラ。いきなり離れてしまって」


 「いえ。仕方がないことだとわかっています。私が耐えられなかったのが悪いんです」


 「そんなことはない。もともと俺が気を付けていれば大丈夫だったんだ」


 あれは完全に俺が悪い。

 レイラの状況を考えればわかることだった。

 あのときは精神状態がそこまで影響することは知らなかったが、そんなものは言い訳にしかならない。

 現に傷つけてしまったのだから。


 しかしレイラは俺を見て、首を横に振る。


 「レクト様は悪くないです。私をちゃんと気遣っていくださいましたし. . . . . . ですが」


 レイラはそこで言葉を切った。

 そして頬を染めながら、か細い声で話す。


 「寂しかったんですから. . . . . . もう、離れないでください」


 「. . . . . . あぁ。今度こそ約束する。もう絶対にレイラのそばを離れない」


 「絶対ですよ. . . . . .?」


 「. . . . . . 絶対だ」


 腕の中から上目遣いでそんなことを言われたら、固まってしまう。

 その上、2年来、いや、生まれてこの方感じなかった温もりと仄かに香る甘い匂い。

 思考が鈍るのも仕方がない。

 慣れるのに時間がかかるだろう。


 「あ. . . . . .」


 何もしないと理性がヤバそうだったので、左手で頭を撫でる。

 すると、目を細めていたレイラは何かに気づいたように顔をあげた。


 「レクト様も、そこに嵌めていらしたんですね」


 レイラがじっと見ているのは俺の左手薬指にある指輪。

 俺の魔力を封じる魔道具で、レイラにも同じものを送っている。

 当初は簡単なアクセサリーを考えていたのだが、デニスの助言を参考に指輪にしたのだ。

 そしてレイラが指摘した意味、それは左手薬指にはめていることだろう。


 「あー、えっと、これはだな. . . . . .」


 どうするか。

 今朝まで、ここにつけるかどうか悩んだなんて言いにくい。

 2年も会ってなかったのに、重く見られるかもしれない。

 その上、もしレイラが俺を嫌っている場合も考えてしまう。

 魔力を変質させた時点で大丈夫だとわかってはいるが、それでも心配だ。


 「わ、私は、嬉しいです」


 そう言って見せてくれたレイラの左手薬指には、俺と同じように指輪がはまっていた。


 今の言葉。

 恥ずかしそうにしながらも、はっきり嬉しいと言った。

 心からそう思っていることが窺える。

 それにレイラも同じ場所に嵌めている。

 手紙には魔道具としての説明しか書いてなかったのに。

 つまり。

 そう捉えてもいいということだろう。

 魔眼を使いたくもなったが、それはダメだ。

 ここは能力に頼らず、自分で言いたい。


 「レイラ」


 「はい」


 俺が真剣な顔になったのを察し、しかし内容をわかっているからか、レイラは顔を赤らめつつ表情を改めた


 「傷つけて、2年も待たせてしまったが」


 この状況でこれほど緊張するものなのか。

 今までで1番かもしれない。

 なぜか喉もひどく乾いている。

 声が震えてないのが不思議なぐらいだ。


 「俺は、レイラの側にいたい。俺と婚約してくれないか?」


 「はいっ。喜んで!」


 レイラはこれ以上なく顔を赤らめながら、とても嬉しそうな声でそう言った。

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