1章 8話
翌朝、嘘のように晴れ渡った空を見て、リディは溜息を零した。
言う気のなかったことまでずいぶん話してしまったと言うのに、後悔がない自分が不思議だ。
アニエから貰った本の表紙を撫でる。
「魔術、か」
世界が一変すると思った。
それなのに簡単に受け入れられてしまった。神についてもそうだ。
「私が私じゃないみたいだな」
自分を定義するのは愚かなことだと言われたこともあるが、自分の予想や範疇を超えることは苦手だ。
独り言を呟きながら、髪に櫛を通していく。
まだ綺麗に編めるわけではないが、他人の手を借りずにいられるのは居心地が良かった。
不恰好な三つ編みを背に垂らして階段を降りる。
雨上がりの朝は静謐で、どこか特別に感じた。
「おはようございます」
ひょいと裏手を覗いてみれば、レミとアニエが驚いたように振り返った。
「え、早いのね」
レミが意外そうに言う。
「昨日は、その、大丈夫だったの?」
言葉を選んでくれていることがわかって、リディはくすりと笑った。
昨晩雨が止んだのはすっかり深夜で、雨と泥に塗れていたリディとハクトは、アニエにこっ酷く叱られたのだった。
レミもおそらくはどこかで起きていたのだろう。
「ありがとうございます、大丈夫ですよ。アニエさん、昨晩はご迷惑おかけしました」
頭を下げれば、アニエが愉快そうに声をあげて笑う。
「酒場の女に頭を下げるお貴族様がいるとはねぇ」
「謝意に身分は関係ないですよ」
「おや、しゃんとしたもんだ」
ばしりと背を叩かれる。
そのくすぐったさを誤魔化すように、リディは首を竦めた。
「何か手伝えることはありますか? やっぱりただ住まいするのも気が引けて」
「へぇ、何ができるんだい?」
「何も」
冗談半分、本気半分で答える。
レミがけらけらと軽やかに笑った。
「本当よ、アニエさん。この子何もできないんだから。髪の編み方なんて私が教えたのよ」
「でも覚えは早いですよ。ほら、もう編めるようになった」
「ほつれてるじゃない!」
「すっかり仲良しなもんだ」
言い合うレミとリディに、アニエは安心したように言ってふっと建物の二階を見上げた。
まだ誰も起きてくる気配はない。
「あの子らもこのくらい簡単にいってくれりゃいいんだけどね」
あの子ら、というのはきっとハクトとカロアンのことだろう。
「全く。男の子ってのは面倒な生き物だ。坊ちゃんみたいに頭で動く奴ばっかりなら良いんだがね」
「あの二人は平気でしょ」
レミが訳知り顔で言う。
「なんだかんだ言い合って、結局お互い大好きじゃない」
「傍目から見りゃわかることだって、本人たちには伝わらないものさ。すれ違い続ければ戻れなくなる」
「大人になれば変わるでしょ? 彼らまだ子どもなだけよ」
未来があると信じて疑わないレミに、アニエは残念そうに首を振った。
日に焼けた黒髪がその顔に影を落とす。
「人ってのはね、いつまでも一緒とは限らないんだよ、レミ」
「二人ともロベッタの人間じゃない。どこに行くって言うの?」
「ロベッタは自由都市だ」
その言葉には強い意志のようなものがあった。
自由都市、理想郷として作り出された誇らしき街が、ロベッタの本当の姿だ。
この小さな街の歴史を思う。
レオラとクリュソの、平和を願った人々の理想郷。
地上に唯一の、王がいない、自由が許された街。
「この街は来るものも拒まなければ、出て行くのだって自由なのさ。言わば通過地点。アンタも、ここに一生いるだなんて思わないことだね」
リディはアニエの横顔を改めて見つめた。
目元に深く刻まれた皺が、彼女の人生における労苦と笑みの多さを物語っている。
一体どれほどの人間が、彼女の前を通り過ぎていったのだろうか。
「貴女は?」
リディは思わずそう問いかけていた。
「え? 何だい?」
「貴女は、ロベッタにずっと?」
「はは、私の話かい。そうだねぇ……」
青い瞳が空を仰ぐ。
変わらない、うんざりするほどの快晴。
「ここを離れるには、ちょっとばっかし縁を結びすぎたね。通り過ぎると言ったって、どんな奴にも故郷は必要さ。帰った時に知った顔が一人もいないんじゃ、寂しいってもんだろう」
だから、と言いながらアニエはリディの背をまた叩く。
「アンタもまた来たら、ここに顔出しな」
「私はロベッタの人間じゃ……」
「そんな細かいこと気にしやしないよ。それに、昨日のハクトは良い顔してた。アンタのおかげだよ」
何と言って良いのか分からず、リディは少し俯いてただ頷いた。
自惚れたくはないのに、ここに来てからどうも駄目だ。
ひょいとレミに顔を覗き込まれる。
「リディくんって本当わかんないよね」
「何がですか?」
「強く見えたり弱く見えたり。あ、未だに敬語なこともね」
レミはにこりと笑ってリディの額を指で弾いた。
「友達なんだから敬語はやめてよね。私も使わなきゃいけなくなるじゃない」
「そんな急に……」
リディは苦笑いで首を傾げた。
馴染みのない感覚。縁のなかった友人という関係。
慣れないことばかりだ。
「わかった、頑張るよ」
慣れないけれど、嫌ではない。
むしろあと数日で終わってしまうのが惜しくなるほど、この街では息がしやすかった。
────────────────────────
「何見てんだ?」
昼前、カロアンは窓外を見遣る後ろ姿に声をかけた。
振り返ったハクトは、青空に髪を靡かせながら退屈そうに呟く。
「空」
「何でまた」
「良い天気だと思って。雨は嫌いだから」
眠そうな声で答えて、ハクトはまた窓枠に突っ伏した。
昨夜のことを聞こうとして、やめる。
どうせはぐらかされるだろうし、彼が話したくないことを聞き出す必要もなかった。
「お前は嫌いなものばっかりだな」
「好きでいられるかっての」
「雨と夕陽と夏と、あとは何だっけ?」
「動物と冬と花と神と兵士と、お前が持ち込む厄介事」
「最後の三つは俺だって嫌いだ」
この街、と言わなかったことを意外に思う。
ハクトのことだから嫌っていると思ったのだが。
「お前の嫌いなものも知ってるよ」
珍しいことにハクトの方から雑談が引き延ばされる。
「へぇ、何?」
「オレ」
鮮緑の瞳を覗いても、いつも通り真意は見えなかった。
否、いつもとは少し違う。
拒絶されているのではなくただ読めないだけだ。
カロアンは茶化す気にもなれず、隣の壁に背をもたせかけた。
「お前だって俺のこと嫌いだろ」
「どうだろ」
「面倒な返し方すんなよな」
「嫌いだよ」
零すように笑いながら、ハクトはそう言った。
本当にわからないやつだ。
初夏の空は痛々しいほど青く澄んでいて、それを背にする彼もまた、酷く傷ましく映る。
カロアンは日陰の中で諦めたように笑い返した。
「お互い様だな」
ささやかな嘘を吐く。
あるいは、真実の一欠片。ただそれだけ。
「しばらく雨は降らないんだろ?」
ハクトは微かに頷いた。
ほんの数日でも構わない、この街には平穏が必要だ。
きっと二人にも。
「あっ、おーい!」
窓の下から溌剌とした声が聞こえる。
見るまでもなかったが、少し身を傾ければレミが大きく手を振っていた。側にはアニエと、それからリディもいる。
「ちょうどお昼ご飯だから、二人も一緒に食べましょうよ」
「はいはい」
レミの声に答えつつ、面倒そうにしているだろうとハクトの方をちらと見るも、その綺麗な横顔には何の表情もなかった。
不機嫌でも、虚ろでもない無表情。
恐ろしくはなかったが、やはりどこか痛々しかった。
全く、空を見ていただなんて酷い嘘ではないか。
「行くか、ハクト?」
「……そうする」
大人しく階下へ向かう後ろ姿に、カロアンはただ首を振った。
────────────────────────
神経質な細い指がグラスの縁をなぞる。
共鳴のようなか細い響きに、アニエは頬を緩めた。
「珍しいね、アンタが他人と食事するなんて。誘ったけれど、来るとは思わなかったよ」
ハクトがすいと目を持ち上げる。
「別に避けてるわけじゃない」
「そうかい」
隣の椅子に腰を下ろす。
午後に入りかけた陽光が、室内を心地よく染め上げていた。
昼食の席はやんやと騒がしかったが、今はすっかり静かだ。レミとリディは奥の席で何か話し込んでいるようで、初めは二人を茶化していたカロアンも今は側の机に突っ伏して寝ている。
何気ない、日常の一幕だ。
何か用かとハクトが眉を上げる。
「この席は良い眺めだからねぇ」
アニエはそれだけ答えて、空いたグラスに水を注いだ。
小さな反響音が午後に揺れる。
ハクトはそれには関心を寄せず、また元の方向に目線を戻した。
その先には三人がいる。
「気になるのかい?」
「……いや。ただわからないなと思って」
「何が?」
「自分」
簡潔な答えだったが、どうも哲学めいているなとアニエは苦笑した。
全く、誰に似たのだか。
「アンタはそういう問答が好きだね。坊っちゃんとは気が合うだろう」
「リディ? あいつは別に問答が好きなんじゃないと思うよ」
グラスを取って、手の中でくるりと回す。
「自分の答えをもう持ってる。対話に意味を見出さない人間だ」
「そんなに強い子かね?」
「そう思う。強い持論があるから、難しい話題を好むんだよ」
「アンタもそうなのかい」
「オレは違う」
ハクトは憂鬱そうに目を伏せた。
歳に不釣り合いな表情に、アニエはやるせなさを覚える。
全くもって哀しい子だった。
「オレは、別に哲学も問答も好きじゃない。ただ答えが欲しいんだ」
「なるほど、アンタらしいね」
「アニエもカロアンも問答は嫌いだろ?」
「そうだねぇ。私たちの生き方はちょっとばっかし生活的だからね。でもまぁ、昔は好きだったよ。私もあの子も」
「へぇ。変わるんだ」
「人は変わるものさ」
「……じゃあオレも、いつかはどうでも良く思えるのか」
まだまだ子どもだ。
アニエはハクトの頭をぐしゃぐしゃと撫でつけた。
「ちょっと、何?」
「アンタも成長したねと思ってさ」
「保護者面しないでくれない?」
「十二そこらのか弱い少年を、誰が保護してやったと思ってるんだい?」
「今はもう保護されなきゃならないほど弱くない」
「言っただろう? 一人で生きていける人間は、一人で生きていっちゃいけないんだ」
アニエの哲学はこれひとつだった。
人生に大切なことなどそう多くない。
一人で生きていけるほど強い人間は時々いるが、そんな奴らは、決して一人にしてはいけないのだ。
糸の切れた凧、根を失った花のようで、それは全く酷い孤独ではないか。
「アンタは一人で生きていけるだろうけど、そうしないのも大切なんだよ」
「オレは最初からずっと一人だ。今更誰かと生きるなんてごめんだ」
「坊っちゃんみたいな人間ともかい?」
少し意地の悪い言葉だったかもしれない。
ハクトは顔を歪ませて、吐き捨てるように言った。
「人を測ろうとするなよ。アンタのそう言うところが嫌いなんだ」
「悪かったよ、不躾だったね」
「あいつはあいつだし、オレはオレだ。似てても違くても、同じ人生を生きる訳が無い」
「それじゃあアンタは、ずっと人生を一人で生きていくのかい、ハクト?」
ふっと降りた微かな沈黙。
ハクトは鮮緑の瞳で、アニエを真っ直ぐに映した。
「アニエだってそうだろ」
冷ややかな声だった。
「結局孤独じゃないか。この街じゃみんなそうだ」
自分は一人ではないと、そう言えれば何か違っただろうか。
アニエは諦めの溜息をそっと飲み干した。
人生は長い。
何を得ても、結局は失ってしまうのだ。
「アンタは悲観的だね」
それだけの言葉でやっと誤魔化す。
ハクトは冷笑するように鼻を鳴らした。
「悲しいばかりの街だからね」
ハクトはロベッタそのものだった。
自由で強く、そして緩やかに病んでいく衰退の存在。未来はない。
美しくも傷ましい在り方ではないか。
或いは。傷ましくも、美しい。
午後の陽光の優しさでさえも、この痛みの前には意味をなさなかった。
────────────────────────
「『私はあなたの瞳を覗き、その光の色で悟る。私の愛の存在を、あなたの瞳の内に見るのだ』」
木板の上に炭を走らせながら、リディは微かな声で呟いた。
「何、それ?」
きょとんとしてレミが尋ねてくる。
リディは聞こえていたことに少しの照れを隠すように微笑んだ。
「レオラの古い詩だよ。好きな詩なんだ」
炭で書きつけた文字をなぞる。
「なんて、わかりやすい単語や文法でできているし、文字の勉強にはちょうど良いかなと思って」
リディは今、約束の一環としてレミに文字を教えていた。
といってもレミがリディのいる数日で完璧に使いこなせるようになるのは難しいだろう。だからこれは遊びの延長線だった。
文字をじっと見つめながらレミは言う。
「その詩、どう言う意味なの?」
「意味は人それぞれだよ。愛には色々あるから」
「そうじゃなくて、リディくんはどう思うのって聞いてるのよ。あなたがなぜ好きなのか、興味あるわ」
「難しいな」
自分の解を求められるのは苦手だ。それが抽象的なものであれば尚更。
誤魔化してしまっても良いのだが、とレミの顔を伺って、すぐに思い直す。彼女は儀礼的な質問などする人ではなかった。
知りたいと聞かれているのに、それを誤魔化すのは失礼だ。
どう言葉にするべきだろうか。
「明るい言葉が並ぶのに、どこか寂しいから好き、なのかな」
曖昧な言葉だけが並ぶ。
「寂しい?」
「うん。自分でも知らなかった愛が相手には見えていて、通じ合って、今この瞬間は幸せな詩だと思う。でも結局人はずっと一緒にはいられないし、その瞳を見ることがなくなれば、愛も忘れてしまうんじゃないかなって、私は思った」
「うーん、その読み方は少しひねくれてると思うわ」
「はは、私もそう思う」
レミの正直な感想に笑みをこぼす。
確かに、ただ読めば愛の詩で、それだけで良いのだ。しかしリディにとって、長い間他人を避けている彼にとって、瞳に映らない不在の期間が愛を消し去るのならば、それは希望だった。
誰も自分を愛さないなら、誰も傷ついていないだろう。
誰も自分を愛さなくなったのなら、もう自分は自由だった。
少し、寂しくはあるが。
「ひねくれてるけど、そういうのが好きなんだ」
「リディくんは好きな人とか、いるの?」
「急だなぁ」
「だって、想う相手がいそうな口ぶりじゃない」
「そう?」
心当たりはないけど、と首を傾げる。
まともに恋愛でもしていたら、こんなことにはなっていなかっただろうか。
考えかけて、自分で苦笑する。
恋愛ができるだけの社交性があったなら、そもそも追い詰められることもなかっただろうに。
レミの言うような想う相手は、肉親がせいぜいだった。
「恋でもしたら詩の読み方も変わるかな」
思いつきで言ってみれば、そうだよとレミが笑う。
「愛も恋も、自分を別人にしちゃうもの」
「覚えがあるの?」
「ううん。恋なんてまだ知らないわ、少女だもの」
そう言いつつも、レミの金の瞳はハクトを映していた。
「本気じゃないわ」
そうなのだろうか。
冗談のような恋が、そんな顔をさせるものなのか。
諦めと、寂しさと、分解すらできないようなその感情の中央にあるものが恋ならば。
こんなふうに人を愛せれば良いのにとさえ思う。
「ねぇ、憧れと恋って別物よね」
肯定してくれという声が言外に響く。
しかしリディは首を横に振った。
「わからない。でも、分ける必要もないと思うよ」
「知りたいと思うのは恋かしら」
「恋すれば、知りたいとも思うんじゃないかな」
「届かなくても手を伸ばしたくなるのは、それで苦しくなるのは恋?」
振り向いたレミの頬の横で、黒髪が揺れる。
自分でも意外に思うほど自然に、答えが口からこぼれた。
「レミさんが、そう呼びたいなら」
レミはくしゃりと、満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ恋じゃないわね」
髪を耳にかけようと上げた左腕で、金色の腕輪が音をたてる。
カランと澄んだ、夏空のような音。
リディは思いつくままに言葉を口にした。
「レミさんは綺麗だね」
「あら、口説かないでよ」
「そういうのじゃなくってさ」
「わかってるわよ」
笑い声が昼間の空気に染み込む。
「レミさんは高潔なひとだから。そういう気高さが羨ましいよ」
「あら、高潔だなんて酒場の女には似合わない言葉ね」
「そんなことでは人の貴賤は決まらないさ。あなたの芯の通った優しさと、誇り高く世界を生き抜こうという姿勢が好きだよ」
上手い言い方ではなかったかもしれない。
もう少し人付き合いに慣れていたら、思っていることを言葉にできたのだろうか。
失った六年間を惜しく思う。もっとも、それがなければ今に至ることもなかったのだろうが。
レミがふっと頬を緩ませる。
「リディくん、人たらしってよく言われない?」
「そういうつもりじゃないって」
「つもりがないから、余計性質が悪いんだよなぁ」
「距離感を間違えていたら言って」
「いやぁ、君の良いところだと思うよ」
レミに指で頬をつつかれる。
「だからハクトくんとも仲良くなれるんだろうなぁ」
「仲、良いのかな?」
「そうでしょ。本人に聞いてみる?」
「それは……どっちにしろ否定されそうだな」
嫌そうに顔を顰めるハクトが容易に想像できる。
そうねとレミは笑って、代わりのように隣の机に突っ伏しているカロアンの肩を叩いた。
「何だよ」
不機嫌そうにカロアンが顔をあげる。
寝ているかと思ったのだが。
「おはよう」
「そんなに深く寝てねぇよ」
「ねぇ、最近のハクト君ってちょっと変わったよね?」
「それ聞くために起こしたのか?」
呆れて笑うカロアンに、そうよとレミは頷く。
「あなたに聞くのが一番じゃない」
「俺もあいつのことはわかんねぇよ」
そう言いながら、ハクトの方を見遣る。
その灰色の目はどこか優しくて、良い二人だなとリディは思う。
もっとも、ハクトもカロアンもそれに気がついているのかは微妙なところだが。瞳を覗いて愛を知れるのは、第三者だけなのかもしれない。
あるいは目を合わせていないのか。
「変わったか、まぁそう思うよ。特に今日はな」
「ね。私もハクト君が来ると思わなかった」
「それがこいつが原因なのかは知らねぇけどな」
ぱしりと頭を叩かれる。
「あら、聞いてたの?」
「深くは寝てないって言ったろ」
リディは不思議な気持ちでカロアンを見た。
昨夜のことで彼には決定的に嫌われたかと思っていたが、むしろ今日の方がいくらか温かく感じる。
何故か。わかるはずがない。
人のことを解するのは苦手だ。何せ他人を知らなすぎる。
「でもまぁ、そうなんだろうな」
そう言ってカロアンは、リディの髪をぐしゃぐしゃと撫でつけた。
「……私は、君に嫌われてると思ってた」
思わず口に出せば二人は虚を突かれたようにリディを見る。
一拍の間が空いて、レミが笑い出した。
カロアンは溜息を吐いて首を振る。
「リディくん、そういうところよ」
「これだから嫌いなんだよ」
「どういうこと?」
二人から答えはなかったが、悪くないと思える。
悪くない。きっと。
終わってしまう今を、心底惜しく思った。
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