第22話 邪なる気配

 そこからツトムたちの快進撃が始まった。何せ出てくる魔物のことごとくが食材候補ばかりなのである。

 気がつけばセイジ、レイだけでなくユウカも混ざって解体で無双劇が始まっていたのだった。


 たまに熟練度の違いなのか、セイジやレイでは解体出来ない個体もユウカかそれでもダメな場合にはツトムが出れば一瞬であった。


 そんな事を続けていたら何やらダンジョンに漂う気配が『こんな筈じゃなかったのに……』という雰囲気をかもし出し始めた。


「おいおい、ツトムくん。何かダンジョンからまるで『もう勘弁して下さい』っていう雰囲気が出てないか?」


 セイジが更に深読みしてツトムにそう言うと


「私も感じるわ。まるで『もう駒がいないのでお引き取りを』っていう感じを受けるの。どうかしらツトムくん?」


 レイもそう述べて、更にユウカも


「ツトム、ダンジョンさんが『これで許して下さい』って宝箱を出したわよ」


 とある一点を指さして言う。見ると確かに宝箱がいつの間にか鎮座ちんざしている。


「ホントだ!? でも誘いに乗ったらダメだよユウカ。僕たちよりも下のランクの探索者の安全の為にも攻略しておかないと」


 ツトムが正論を言うと宝箱がもう一つ出てきた。


「でもツトム、もう一つ出てきたよ」


 ユウカが言えばツトムは


「攻略してから帰りに開ければ良いんだから。さ、先を急ごう。もうダンジョンに入ってから六時間になるから、そろそろ今夜のテント場所を探して確保しないと」


 と頑なに攻略をしようとする。何故ならばツトムは異世界向こうで同じ手を使ってきたダンジョンを知っていたからだ。

 そのダンジョンは邪神の眷属がダンジョンボス兼コアをしていて、今回と同じように快進撃を続けるツトムたちを同じように宝箱で誘い攻略されるのを防ごうとしてきたのだ。

 その時はツトムもまだ知らなかったので宝箱を開けて中に入っていたご宝刀と言って良い包丁を手に入れてホクホク顔で攻略せずに戻ってしまった……


 後でツトムよりも下のランクの冒険者がそのダンジョンに入り、大怪我をしたと聞くまではその危険性に気がつけなかったのだ。


 慌ててツトムはアヤカと共にそのダンジョンで怪我をした冒険者の元に行き、謝罪してアヤカに怪我を直ぐに治して貰い、今度こそはとアヤカと共にそのダンジョンを攻略したのである。


 異世界向こうでの経験からツトムはこのダンジョンの攻略を絶対にすると決めていた。


「ツトムくんがそう言うなら何か訳があるんだろう。良し! 分かった、このまま宝箱は無視してボス部屋に向かおう!!」


 セイジがそう言って締めくくり、ボス部屋を目指す事になった。ツトムは内心でホッとし、なおかつダンジョンを攻略し終えたならば内藤に電話をしてツトムの秘密をセイジとレイに話す許可を貰うつもりになっていた。


 そして本当に配下の魔物が居なくなったのか、魔物に遭遇する事なくボス部屋までたどり着いたツトムたち。

 しかし部屋には入らずにボス部屋の前でテントを張り休息を取る事にした。


「大丈夫かな? 夜中に襲われるなんて事はないか?」


 セイジがそう言うがツトムは


「心配ありません。僕の知合いから強力な結界を創る魔道具を貰ってますから。例え魔神と言えども破るのに二時間は掛かる結界を張ります」


 そう言って魔道具を取り出して設置した。


 ボス部屋内にいるボスはツトムのその言葉を聞いて歯噛みしていたが、ツトムたちは知らない事である。


 こうして夕飯をツトムとセイジが途中で手に入れた食材を使って作る。辺り一面にとても美味しそうな匂いが溢れかえった。


 ボス部屋まで届いた匂いはボスが思わず部屋から出ようとして、ダンジョンルール違反だとコアから電撃を食らっていた。どうやらこのダンジョンではボスとコアは別物のようだ。ツトムたちはそれを知る由もないが。


「いただきま~す!」


 四人の声がハモり、一斉に食べだす。ツトムはセイジの料理を、セイジはツトムの料理を口にする。二人とも目を見開いて驚いている。


「うっまっ!? 何だ、コレ! こんなステーキは食べたことが無いぞ! ツトムくん、コレは闘志カウの肉だよな? どうしてこんなにも柔らかいんだ?」


「すっごく美味しい!? 何ですかこの暴走火喰鳥の唐揚げはっ!! ピリ辛の味付けに噛めば肉汁が溢れ出し弾力がありつつも噛み切れる柔らかさ! セイジさん、どうやってこの味を?」


 二人が二人ともお互いの料理を絶賛し、その料理方法を知りたがる。ユウカとレイは我関せずと目の前の料理をパクパク食べている。


「本当に美味しいわねぇユウカちゃん。このステーキもだけどうちの人の唐揚げもイケるでしょ?」


「はい! 唐揚げはツトムのが一番だと思ってましたけど、セイジさんの作ったこの唐揚げも最高に美味しいです!」


 女性二人が和気あいあいとしかし確実に目の前の料理を減らしているあいだ、男二人は料理談義に花を咲かせていた。


 そして、話が一段落してふとテーブルを見てみると……


「ぬあっ!? な、無いぞ!?」

「えっ!? ステーキは三百グラムを八枚焼いてましたよね?」


 男二人の驚きにシレッと返事をするレイ。


「あら? まだ食べるんだったの? 話に花を咲かせていたからもう食べないのかと思ってユウカちゃんと二人で美味しく頂いたわよ」


 ユウカも申し訳なさそうに言う。


「ごめんなさい。余りにも美味しかったからお箸が止まらなくて、気がつけば無くなってたの……」

 

 料理人冥利に尽きる言葉ではあったが、それぞれ一口ずつしか食べて無かったので腹が減っている。なのでツトムとセイジは今度は反対にツトムが唐揚げを作り、セイジがステーキを焼いて自分たちの食事を確保しようとした。


 しかし……


「うっまっ!? 何だこの唐揚げ!!」

「すっごく美味しい!? 何ですかこのステーキは!!」


 歴史は繰り返す。またもや話に花を咲かせている間に新たな料理もユウカとレイのお腹におさまったのであった……

 

「くッ、ツトムくん。次はお互いに話を控えようじゃないか」

「そうですね、さすがに僕もお腹が空きました」


 それからようやく男二人は食事を新たに作り今度こそ食べる事が出来たのであった。


 それから食事の片付けを終えて、二つのテントが張られ、テントはそれぞれのペアに別れて寝る事となった。


「私たちのテントは防音が付いてるけど、ツトムくんたちの方はどうなの?」


「もしも結界を攻撃された時に気づかないとマズイので防音は付いてはいますが起動はさせないつもりです」


「あら? それじゃ私たちもそうするわ」


 そして、それぞれのテントに別れて就寝する予定であったが…… ツトムとユウカはお互いに顔を真っ赤にして寝られない夜を過ごす事となった。


「あー、凄いわセイジ! まるで若い頃に戻ったみたいじゃない!! あんっ!」


 漏れ聞こえる夫婦のアレの声に悩まされ、声が聞こえなくなってもその余韻にお互いがドギマギして寝られなかったのだった……


 翌朝、結局は二時間ほどしか寝られなかったツトムとユウカであったがそこは若さで乗り切る事にした。

 朝、同時に目覚めて目が合った時はまた顔が赤くなったが、ユウカから「おはようツトム」と言ってくれたので「おはようユウカ」と少し照れながらも普通に返事が出来たツトム。


 しかし、朝からレイにぶっ込まれた。


「ねえ、ツトムくん、聞こえたと思うけど、二人はどうだったの? 随分と静かだったけど?」


「バカ、レイ! そんな事を聞くなっ!! セクハラ認定されるぞ!!」


 セイジが直ぐにそう言ってレイを止めてくれたので答えずに済んでホッとした二人だった。


 朝食は軽くお茶漬けにして、いよいよ


「さあ、準備は良いか?」


「はい、僕は大丈夫です!」

「私もオーケーよ!」

「私も大丈夫です!!」


 みんなの返事を聞いてセイジがボス部屋の扉を開けた。そこには巨大なスッポンがいた。


「まさか!? 邪神?」


 思わずツトムがそう叫ぶとボスから返事があった。


「愚かな矮小なる人間どもよ、我が情を受けずにここまで来るとはな…… そこの人間は我を邪神様と勘違いしたようだが、我はあの方の足元にも及ばぬ眷属の端くれだ! 勘違いもはなはだしいが無知なる人間の申す事だ、勘弁してやろうではないか! さあ、部屋に入らずに立ち去るが良い! 今すぐ去るならばお前たちを攻撃せずにいてやろう!」


 その言葉をアッサリと無視して四人は部屋に入った。


「愚かな…… 我が忠告を聞かぬとはな……」 


 そんな邪神の眷属にツトムは問いかける。


「邪神の眷属だと言ったね? でも邪神はコウスケさんたちによって倒された筈だよ。ならば眷属である君も滅んでいる筈なのにどうしてここに居るんだい?」


「グワーッハッハッ!! まさか貴様らは本当に邪神様が人間ごときに倒されたと思っておるのか? これは愉快だっ!! あの場で倒されたのは邪神様の本体ではない! この時があろうと邪神様は既に地球へと飛んでおられたのだっ!! なので矮小なる人間四人が倒したのは邪神様の影でしかない! それでもかなり苦労しておったようだがな。 冥土の土産に貴様に教えてやろう!! 邪神様の偉大なるお考えをなっ!!」


 そうして邪神の眷属は邪神の計画を話し始めた……

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