第19話 ユウカの職

 そうして特別訓練を間に挟みながら三ヶ月が過ぎた。キョウカもエリナも気がつけばソロでSランクダンジョンを攻略出来るようになっていて、更にはツトムやユウカから振舞われたり、また自分たちでも料理したりして食べた魔物料理の影響か、基本能力値の数値も高くなっていた。


「え〜、それでは僭越ながら俺、コウスケが二人の卒業を祝って乾杯の音頭をとらせて貰います。今日まで二人とも本当に良く食らいついてきた! これで本当に日本の探索者協会の誇る探索者と言えるだけの力をつけたと俺たちは認める!! そんな二人のこれからの活躍を願い、かんぱーいっ!!」


「乾杯!!」


 みんなの声が揃い、そしてキョウカとエリナの二人は涙目になりながらも何とか涙を堪えて嬉しそうな笑顔となっていた。

 目の前には今日の為にツトムとユウカが心を込めて作った料理の数々が並んでいる。それらに舌鼓を打ちつつキョウカとエリナはそれぞれに感謝の言葉を述べた。 


「えっと…… その…… 最悪の出会いで思い上がっていた私たちをここまで鍛え上げて下さって、皆さん本当に有難うございます。これからは皆さんを見習って下のランクの探索者の人たちと協力しながらダンジョンを攻略していきます! そしてツトム先生!! 貴重な料理の数々! そしてその知識! 更にはスキルの獲得まで! 本当に、本当にお世話になりました! まだまだ先生には及びませんがこれからも精進して必ず先生に百点満点中、百二十点をいただけるような料理をこのキョウカは作って見せます!!」


「思えばカレイの煮付けから早くも月日が流れて…… 先生のお陰で魚市場の人たちからは【一級品略奪女】という名誉ある称号まで頂く事が出来ました!! 料理の腕も上がり気づけば先生から百点満点を頂けるようになり…… うっ、ぐすっ…… けれども私はまだまだです! 近い内に必ずやツトム先生やユウカ先生のように真の【解体】が発動出来るようになってみせますっ!!!」


 キョウカもエリナも今回の特別訓練を経て新たな職を得ていた。それは……


【和食料理人】をエリナが。【大衆食堂料理人】をキョウカが得たのだった。ツトムの職である【料理人】はありとあらゆる料理を極める事が出来るものだが、キョウカやエリナはそれぞれが得意とする料理により職がそうなったようである。


「おいおい、ツトムとユウカちゃんとの特別訓練のみが良い思い出みたいになってるじゃないか! 俺たちだってちゃんと訓練してやっただろう? それもツトムよりかは優しかった筈だぞ」


 コウスケがそう言うとアヤカも


「そうよ! ツトムくんなんて最後まで鬼だったじゃない!!」


 と言った。言ってしまった……


「フフフ、アヤカさんはまだ包丁から卒業したばかりですからね。これから目利き、料理と課題がたくさん有りますからね!!」


 ツトムの言葉に遠い目となるアヤカ。


「ハッハッハッ、アヤカは学習せぬの。それがしは遂に白米の炊き方も卒業し、いよいよ肉料理へと進むのだぞ!!」


「ウフフフ、アヤカちゃんはまだまだだねぇ。私も煮物は卒業したし、今度はお寿司の握りを教わるんだよ!」


 テッシンとリカからそう言われ悔しそうにするアヤカ。筋は悪くないのだが性格的に直ぐに飽きてしまうのがアヤカの欠点であった。


 因みにコウスケは既に真の【解体】を覚えている。何故、ツトムはこの四人にまで特別訓練をしているのかというと、これから近い内に結婚するであろう四人へのせめてもの祝福と、珍しい食材に出会う度に呼び出されるのは勘弁して欲しいという思いからであった。


 そしてユウカは職に目覚めていた。ユウカの職は【お袋の味】である。これはどんな料理を作って誰が食べても母の味を連想させる凄い職なのだ。格としてはツトムの料理人よりも格上の職となる。


 この職について一つだけ欠点を上げるとすれば世の母親たちにはこう言っては申し訳ないが、中には料理下手な母親も居る。その料理下手な母親の料理を食べて育った者には…… という欠点があるのだ。しかしそんな料理下手な母親の味も、もしもその母親が既に故人であるならば懐かしい物でもあるのは間違いない。

 そんなユウカの職が目覚めてツトムはとても喜んでいた。ツトムにとってお袋の味とはまさにユウカの母親であったキヨミの味であったからだ。


 ユウカが職に目覚めて以来、二人は一週間交代で夕飯を作っていた。


「美味しい、美味しいよユウカ!!」


 ツトムはユウカの作る夕飯をそう言ってバクバク食べ、ユウカも


「う〜ん、ホッペが落ちる〜」


 と言ってツトムの料理をパクパク食べる。二人は本当に幸せであった。


「そうそう、そういえば新しい三重県探索者協会の協会長になった花川さんから聞いたんだが、四国の愛媛県でツトムと同じく職が料理人の中年のオッサンが新しい認定機でDランクからSランクに変わったらしいぞ」


それがしも聞いたぞ。何でもそのオッサンは職が料理人でありながら剣士並に剣が扱えて、魔法もそれなりに使えると聞いたぞ」


「へえ! そんな凄い人も居るんですね。でも料理の腕はどうなんでしょう?」


「俺が聞いた話だと誰かに料理を振る舞ったりした事は無いって話だな。ただ、家族には振る舞ってるらしいって聞いたな」


 コウスケの言葉にツトムは


「いつかお会いしてみたいですね。それで一緒に料理を作ってみたいです」


 と本当に会いたそうに言ったのだった。そうしてキョウカとエリナの特別訓練卒業祝は和やかに談笑して終わり、翌日、二人は東京へと戻っていった。


 それからも週に一度のツトムの料理特別訓練は続き、遂に


「アヤカさん! おめでとうございます! 卒業です!!」


 東京へと戻った二人から遅れること半年、他の三人から遅れること三ヶ月でアヤカも目出度く卒業となった。


「ヤッターッ! ツトムくんがやっと卒業を言ってくれたーっ!!」


 正直に言えばリカは真の【解体】を覚え、テッシンは覚えていなかったり、アヤカも未だにキャベツの千切りはうどん麺ぐらいの細さ(太さ)でしか切れないのだが、料理自体は味付けの失敗も無くなったので、コウスケと相談してこれ以上はムリだろうという話となり、卒業となったのだった……

 因みにこの四人は固定職が強いためか料理関係の職が新たに芽生える事は無かった。


「というわけで皆さん、自分たちである程度の料理は出来るようになりましたよね? なので珍しい食材は僕やユウカを呼ぶ事なく、自分たちで解体、収納をお願いします。その手に入れられた食材を持ってきて下されば、ちゃんと料理しますね!」


 そこで四人はようやくツトムの真意を理解したのだった。『ユウカとの大切な時間を邪魔すんじゃねぇ!』という真意に!!


「くっ、わ、分かった、ツトム。俺たちも自分たちで食材を調達するようにするよ!」


「はいコウスケさん。よろしくお願いします!」


「でもでも、持ってきたらちゃんと料理はしてくれるよね? それに結婚式の料理は?」


「アヤカさん、それは心配しなくても僕とユウカで担当させて貰いますから!」


 そして、テッシンとリカからは


「ツトム、それがしたちの分も頼むぞ」

「そうだよ、ツトムくん、ユウカちゃん。私たちの時もよろしくね」


 そう言われて「勿論です!」と二人は快諾したのだった。


 それから四人はコウスケとアヤカ、テッシンとリカのペアに別れて、コウスケたちは北海道からSSランクダンジョンの攻略に挑み、テッシンたちは沖縄からSSランクダンジョンの攻略に挑む。


 長らく放置されていた日本国内最高難度のSSランクダンジョンは全国に八カ所あり、西から沖縄、長崎、高知、京都、長野、山梨、秋田、北海道の各道府県にある。

 幸いにしてSランク以下のダンジョンはキョウカとエリナが回ってくれていて、更には二人の指導の元にパーティーで攻略出来る者も増えてきたので大丈夫そうである。


 そして我らがツトムはと言うとコウスケを通して内藤首相から依頼されて新しい認定機でランク認定をやり直し、Sランク探索者と認定された。ユウカもAランク探索者になっている。


 なので、三重県近郊(奈良県以外)の関西圏のSランクダンジョンの攻略を頼まれてこれからユウカと二人でやっていく事が決まった。


 気づけば二人とも十七才となっていたのだった……

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る