第91話 濃厚な愛 ※

 はい、ちょっと緊急で動画回してるんですけれども、今、ルーナ王女の部屋の前に来ております。

 先ほどお手紙をいただきましてね、内容は「会って話したい、私の部屋に来て」という簡素なものでした。

 禁じられた相手との一夜限りの密会。

 あわよくば、美味しくいただきたいと思います。


 ……などと脳内で緊張を緩和しつつ、俺は金貨を両手に挟んで神頼みする。


(どうかルーナとセックスできますように)


 俺は小さく気合を入れて、ルーナの部屋にノックし、入室した。


 部屋は薄暗かった。

 窓から差し込む月明かりに、魔導ランプが一つ。

 アロマのような香がむんむんと焚かれ、少しだけ意識を狂わせる。

 雰囲気づくりと言うのもあるが、この世界で言えば香の類は、体臭を隠すための用途で用いられていいる。


「夜分遅くに、お呼び立てして申し訳ありません、シャルカ様」


 ルーナは、薄い生地のネグリジェを身にまとっていた。

 下は白のショーツ姿で椅子に座っている。

 普通の貴族令嬢なら、この姿で男を寝室に呼ぶことはしない。

 故にその意図は明らかで、俺は下半身に血が集まっていくのを感じる。

 もちろん指摘したりするのは、野暮だろう。


「いや、構わない」

「好きなところにおかけになって」


 ルーナの部屋にはテーブルも椅子も用意されていた。

 俺はその一つ、ルーナの正面に座る。

 どうやら茶を入れていたらしく、カップに注いでくれた。

 中々良い茶葉を使っている。


「今日はお互い大変な一日だったな」

「ええ、本当に……」


 今日は色々あった。

 停戦協議が暗礁に乗り上げかけ、お昼にルーナの身の上話を聞き、その後にお祖父様が乱入し、最後には勇者たちの襲撃があった。


「シャルカ様がいなかったら、どうなっていたことか……」

「ああ。俺はルーナ殿が無事で本当に良かった」


 ルーナは照れくさかったのか、下半身をモジモジしていた。


「どうかしたかルーナ殿」

「……いえ、なんでもありません」

「……それにしても、この部屋はいい香りだな」

「まぁ! そうでしょうか? 気に入ってもらえてよかったです。実は、私が作った香なんですよ」


 ルーナは嬉しそうにくすくすと笑った。

 ハーブやラベンダーの上品な香り。

 香や香水を作るのは、貴族令嬢のたしなみのようなもの。

 話の取っ掛かりとして、そのあたりを褒めるのがマナーだ。

 そのおかげかルーナもリラックスして話を始める。


「……そしたらルアナ姉様が言ったの。ルーナは、その石ころを集める癖さえなければ、ちゃんとしたお姫様なのにって。ひどいでしょう?」

「なかなか辛辣な姫だったのだな、ルアナ姫は」


 ルーナはきっと話をすることに飢えていたのだろう。

 王宮ではあまり良い扱いをされていなかったのだろうし、自分のことをたくさん知って欲しいというのはこの年代の少女特有の素朴な願望だろう。


 ただ、少し無理に会話を引き延ばそうとしているようにも見えた。

 なんとなく気もそぞろで、本題に入るのを避けている感じがする。

 それに少女の話を延々と聞いてられるほど、時間が残されているわけではない。


「それでルーナ殿、話というのは?」

「……申し訳ございません。私ったらつい、こんなにおしゃべりしてしまって……」


 ルーナは再びモジモジし始める。

 やがて意を決したように言葉を紡ぎ出した。 


「……シャルカ様は、治りきらない傷があるとしたら、何だと思いますか?」

「なんだろうな……」


 基本的には、星級は治癒魔法で治らない怪我はない。

 たまにホシロス候のように目に傷のある星級もいるが、何故かはわからない、おそらくはファッションだろう。

 ルーナが言っているのはおそらくは貴族偏愛、心的外傷トラウマの話だろう。

 貴族が偏愛をこじらせた場合の末路は悲惨なものだ。


「……私はずっと世界が灰色に見えていました。私があの時、心に負った傷は……もう一生治らないのだと。でも、そうじゃなかった……」

「……」

「今は、こんなにも世界がきれいに見える。外を照らす月の光も、私の大好きなお花畑も、そして目の前にいるシャルカ様も。あなたが私に取り戻させてくださったの。誰も信じられない世界で、シャルカ様だけが私を救ってくれた」


 そこまで心の拠り所になっていたとは驚きである。


「だから今は、別の傷を負うのが怖い。これが勘違いだったら、私の独りよがりだったら、きっとその傷はもう二度と治ることはないでしょう。……私は再び失うのがなにより怖いのです……」

「一体何が怖いんだ、ルーナ?」



「それは……シャルカ様――あなたと結ばれないこと」



 それは逆説的に、ルーナからの告白であった。

 


「それに対する答えは今からする。その上で聞くが、ルーナは俺に何をしてほしい?」


 俺は椅子から立ち上がった。

 そしてルーナの手前に立ち、手を差し伸べる。

 ルーナもまた俺の手をとり、立ち上がった。


「……シャルカ様とは、きっとしばらく会うことができなくなってしまいます。だから、その」

「……」


 ルーナは俯き、それから再び俺の目を見据える。

 その顔は耳まで真っ赤に染まっていた。

 



「どうか――忘れられない経験を、私にください」




 俺は、魔導ランプの明かりを消す。

 そしてそのままルーナをベッドに押し倒し――――キスをした。



 ◇◇◇◇



 長いキスだった。

 唇の先から唾液が糸を引くような濃厚なやつ。

 ルーナの荒い鼻息が、強く俺の顔に吹き付ける。

 相当興奮しているのだろう。


 俺はまだ、ステラ級女性と交わった経験はない。

 魔力を介したセックスがどういうものか、俺はまだ知らない。

 そしてそれはルーナも同じ。

 まずは五感と第六感とも言える魔力をフルに活用して、触れ合いながら探り探りに「気持ち良い」を発見し合って楽しむ。


 星級同士のセックスは、オーソドックスなそれよりも、感情が同調しやすく一体感が生まれやすいという。

 キスという粘膜接触一つをとっても、接触箇所からのシームレスな感情のやり取りが発生し、お互いの感度を高め合う。

 ルーナの「しゅきしゅき」が俺の脳内を快楽物質で埋め尽くしてゆく。


 そしてルーナもまた目がとろんと、陶酔しきった表情をしていて目の毒だ。

 暑い夏の夜のことであるから、ルーナの体は火照り、体表は湿り気を帯びていた。

 汗の匂いが、鼻腔を刺激する。


 月が雲間から顔を出せば、部屋のベッドで二人。

 黒髪の少年が、金髪の美しい少女を――組み伏せている姿を暴き出す。


 ふと窓の外を見れば、フリージアゴールドの琥珀色の花々が咲き誇っていた。

 フリージアゴールドの花言葉は「濃厚な愛」「生命の輝き」だという。

 なんとも象徴的なことだ。



 ――俺の手はすでに、ルーナのネグリジェの中に伸びていたのだった。



 ◇◇◇◇



 窓の外には、明け方の白み始めた空が見える。

 チュンチュンと雀のような鳥の鳴き声が聞こえた。

 どうやら俺は、ルーナを一晩中抱き潰してしまったらしい。


 結局、八回ほどルーナといたした。

 これでしばらく会うこともないのだしと思い、俺は記憶の海馬に残るように、念入りに楽しんだ。

 詳細は省くが、ルーナは、セックスの神が作り給うたのではないかと思うほどに、性に愛された王女だった。


「ルーナ、そろそろ戻らないと」

「むほ?」


 俺は、ルーナの太ももの間に頭をうずめながら言う。

 ルーナは俺の下半身側、ブランケットの中で何やらもぞもぞと動いている。

 やがてブランケットにテントの支柱が立つと、顔を出した。


「それじゃ、もう一回できますよね?」


 ルーナは小悪魔のように笑った。


「やれやれ……あと一回な」


(これじゃ、無限ループだな……)


 それからさらに三回、ルーナに搾り取られた。

 部屋の中は、様々な液体で大変なことになっている。


(これ今日だけで、何日分だ?)


 ステラ級の肉体と言っても限度はあるだろうよ……


 流石に時刻もやばいので、強引に戻ることにする。

 帰り際、ルーナに「行かないで」と言われ、一瞬の気の迷いが生まれたが、振り切るようにルーナの部屋を退室した。


 それと流石に共犯者が必要になり、俺はニコレッタを買収した。

 湯浴みと着替えを手伝ってもらい、なんとか支度を終える。

 ニコレッタは無表情だったが、何があったかは当然、察したことだろう。

 一応口止めはしたが、「できれば言わないでくれ」と言うに留めた。

 無理強いするのは、コンプライアンス的にオルテノスのためにはならない。



 ◇◇◇◇



 あれから目を覚ました父と相談し、停戦にサインする運びとなった。

 停戦条件は、ロンシャント以南のエルホロ川西部一帯の割譲と、五年の停戦期間。

 ルーナとニコラス、父と俺との間で『正の印』による正式な書面を交わした。


 停戦を破った方は、もう一方に多額の賠償金を支払うという契約。

 当主と次代を失ったホシロスはしばらくは、思い切った行動には出られなくなるし、オルテノス侵攻へは二の足を踏むようになるだろう。

 それにルーナには何か秘策があるようだし、どう転んでもオルテノスにとっては利があると判断した。


「それでは、シャルカ様、またお会いできる日を楽しみにしております」

「ああ、ルーナ殿も達者で」

「……」


 別れ際、ルーナは自分の下腹部を愛おしそうにさすった。


「どうした?」

「……いえ、何でもありません」


 暫くの間、ルーナと視線を交わし合い、そして別れる。

 名残惜しさは一入ひとしおであった。

 正直、今からでもハグをしてキスをして、めちゃくちゃに犯したかった。

 それほどにルーナという少女は魅力的すぎたのだ。


 それでもお互い立場がある身であるから、表面に出すことはない。

 これからは別々の道に進むことにはなるが、この道は近い将来、必ずどこかで混ざり合うだろう。

 そんな確信に似た思いを抱きながら、バングウォールに帰還したのだった。



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 ノクターンノベルズにて「第91話 本当に濃厚な愛 ※」を公開中。

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