第45話 宴会芸は程々に

 俺は結局沈黙に耐えられず、エルミアに話しかけることにした。

 お互いだんまりでは、空気が詰まってきまりが悪いからな。


「今日はいい天気でしたね、エルミア様」

「……そうね」


「料理、美味しいですね、エルミア様」

「……そうね」


「今日も美しいですね、エルミア様」

「……っ!」


 キッと睨まれてしまった。

 取り付く島もないとはこのことである。

 うーむ、と次の手を考えていると、先にニコレッタの策が発動した。


「ダンテです」

「ノギホンです」

「ロッテンです」

「「「うー、リムボー!」」」


 ニコレッタが企画したのは、武官達による『かくし芸大会』。

 これでエルミアをクスりと笑わせれば、きっと機嫌を直してくれるという寸法だ。


 第一品目は、三馬鹿武官によるリンボーダンス。

 砦攻めでは誰よりも早く突撃していった阿呆達。


「あっつ! あつあつ! うー、ファイアーリムボー!」


 最後は燃えたぎる棒で、ロッテンが炎上して終了。

 一発目にしては、なかなかの盛り上がりを見せた。

 さて、エルミアはどうか――?


 ……うん、表情筋はピクリともしない。


 気を取り直して次だ。


「ヨーゼフです。私が世にも奇妙な、消失奇術をお見せしましょう」


 第二品目は、インテリ系のヒゲモジャ武官による手品。

 ヨーゼフが取り出したるは数枚の銀貨。

 銀貨を自慢のヒゲにいれると、ぱっと手から消えた。

 すごい、一体どうやってるんだろう。

 ヒゲに何枚も銀貨をねじ込んでいくと歓声が湧いた。


「このとおり取り出すことも可能です」


 ヒゲの中から今度は銀貨が出てくる。


「「おお!」」

「どうぞ姫様、本物かどうかお確かめください」


 手品の定番、観客参加イベントか。

 これならエルミアもきっと楽しんで……


「ちょっと触りたくないわ」

「……」


 ……駄目か。

 流石にこれはヨーゼフに同情した。


 それから何人か挑戦したが、惨敗に終わった。

 如何せん、女子ウケしそうなネタが少なく、生焼け状態だったのが敗因だろう。

 ……残るはあと一人。


「チアーズ! ダディンガです! 『筋肉波動流』いきます!」


 やけにテンションの高いガタイの良いテクノカットの中年男が登場した。

 ……大丈夫かこいつ。

 俺は目配せすると、ダディンガは白い歯をキラリと見せてサムズアップ。

 どうやら自信があるようだ。

 俺は不安しかないが……。


「まずは通常の『魔武術』……ハァア、ハッハッ! えい! えいえい!」


 下半身をどっしりと構えて、正拳突きを放つ。

 魔武術と呼ばれる、魔力を使った徒手空拳としゅくうけんのような武道の型だ。

 ダディンガが拳を振るう度、ボンッと空気を打つような音が会場に響く。


「……えいしゃ! えいしゃ! えいしゃ! アァリョォシャー!」


 おお、これは激しい演舞だ。

 回し蹴りからの、裏回し蹴り。

 武器を持たない場合の近接戦では魔武術の技量によって勝敗が決る。

 妙なネタに走らずに、正攻法で来たなダディンガ。

 これなら期待が持てるぞ。


「ここからは筋肉波動流……おいあれもってこい!」


 武官たちが複数人係で運んできたのは、大岩。

 ダディンガの身長よりも大きい。


「まさか筋肉伝道師様の前で、この筋肉波動流を見せられるとはなんという僥倖ぎょうこう


 ダディンガは妙な事を言う。

 そしてすぅっと息を吸って吐くと拳を構える。


「ふん」


 ダディンガの掛け声とともに、上半身の服がパーンと消し飛んだ。

 どうやら筋肉を隆起させただけで、服を破ったらしい。

 なんという某親方感。

 ただ、この時点でエルミアは顔をしかめていた。

 これは雲行きが怪しくなってきたぞ……


「筋肉波動流三ノ型、筋骨烈拳! ふょう!」


 ダディンガは甲高い声で叫ぶと、大岩に拳を叩き込む。


「……ふょう、ふょう、ふょう、ふょう、フョォォドロォオウィィイチ!」


 掛け声とともに何度も何度も打ち付け、終いには岩を粉々に破壊した。

 衛星サテラ級にしてはなかなかの出力ではなかろうか。

 俺の物差しでは上手く測れているか自信はないが。


「「おお!」」


 武官たちからは歓声が上がり、拍手喝采が起こった。

 俺も、同調圧力に負けて拍手をする。


「結局、ただの魔武術と変わらないじゃない……」


 正面のエルミアからは、不満の声を漏れた。

 俺もちょっと思ったけど、そんなこと口に出してはいけません。


「筋肉伝道師様!」


 ダディンガが何故か俺のところにやってきた。

 ん、筋肉伝道師?


「どうでしたか、私の筋肉波動流は?」

「ん? ああ、なかなか良かったんじゃないか?」

「おお! 筋肉伝道師シャルカ様にお褒めの言葉をいただけるとは、このダディンガ、恐悦至極にございます!」


 ん、今聞き捨てならないことを言わなかったか?


「ちょっと待て、誰が筋肉伝道師だって?」

「もちろん、筋肉伝道師は、シャルカ様でございます」

「はあ?」


 エルミアの視線が細められる。

 なんとなくまずい流れだ。


「覚えておられないので? 八年ほど前、武の道に行き詰まった私に、筋肉を鍛えるという道を示してくださったではありませんか」

「いや、知らん」

「いえ! あの時『筋トレは正義』という名言を授けてくださったのは、筋肉伝道師シャルカ様に間違いありません!」


 あー。

 言われてみれば、確かにそんな記憶が……。

 前世では空前の筋トレブームだったことを思い出し、悩める武官を前に、つい言ってしまった気がする。


 エルミアは、ジトッとした目線を俺に向けた。

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