第37話 バングウォール砦へ

 アクィラは自分のことを「十二勇傑」とか名乗っていた。

 ヤツが序列十一位ってことは、その上に後十人はいるということ。

 それに、指導者とかいう存在もほのめかしていた。


「……全く、先が思いやられるな」


 傀儡魔法という俺の知らない魔法を使う辺り、連合でも実力者であったのは間違いない。

 バルバトのように純粋に戦闘センスに優れているわけではないが、毒という絡め手で確実に仕留めにくるのは勇者らしい暗闘っぷりだ。

 ただ傀儡魔法を封じてからは大した抵抗はなかった。

 俺以外の貴族には無類の強さを発揮してきたのだろうが、切り札が無効化されれば脆いものだ。

 逆に言えばここで仕留められてよかったといえる。


 アクィラを消滅させた時、ビィィンと空気が鳴った。

 空気の中にアクィラの魔力がとけて、空高く消えていったような気配がした。


 この世界には「朽ちてからうして星は星へと還る」という言葉がある。

 前者の「星」はおそらくステラ級の事を指し、後者の「星」は、無常的な意味なら「この星」、あるいは「大地」という意味だろうか、宗教的に考えたら輪廻転生のようなものとして新たな「ステラ級」という意味にもとれる。

 ステラ級の死体は膨大な魔力を持っているから、なかなか腐敗が進まず、しばらくは綺麗なままを維持するという。

 誰が発した言葉かはわからないが、ステラ級の普遍的な死について端的に表したウィットに富んだ示唆なのだろう。


 そういえばバルバトの死体はどうしようか、ゲトラード達なら勝手にさらし首にしたりするかも知れないな。

 正直、死体を貶めたりするのはあまり好みではない。

 死者を弔うということを美徳としていた価値観から、死者を冒涜するという正反対の行為にはどうしても忌避きひ感を感じてしまう。

 とはいえアクィラのように、死体も残さずに消し飛ばすのも問題がある。


「首の一つくらいは残しておくべきだったか」


 消し飛ばしてしまった今となっては、その死亡を証明する手段がない。

 俺がアクィラを殺ったと言ったとて証明できなければ、「それはどこの誰やねん」と言われてしまうだけだ。

 ふとアクィラが投擲した毒投げナイフが目に入った。


「これ持って帰るか、一応星具のようだしな」


 星具は特殊な希少金属で作られた武器。

 加工は専門の業者にしか出来ないため、入手手段は限られている。

 今回は討伐の証明にもなるし、売ればそこそこの金になるから戦利品として回収するのは必須だ。

 ただ数十本となると持ち帰るのは一苦労だし、毒も塗られている。

 少し頭を捻った結果、いい方法を思いついた。


(干し柿みたいに、紐で結んで引っ張って帰るか)


 貴族らしい行為とは言えないが、誰が見ているわけでもない。


「なんか、結べる紐ねーかな、紐、紐……あ」


 ドリーちゃんの長い尻尾の毛が目についた。

 ちょいと拝借して紐の代わりにさせてもらおう。


「ドリーちゃん、ちょっと尻尾の毛をもらうよ」

「ゴォォン?」


 ぶちり。

 俺は当然ハサミなど持っていないので、ドリーちゃんの尻尾の毛束をむしり取る。


「ゴォォォォオン!」


 ドリーちゃんは烈火のごとく怒った。

 毛をいきなり抜いたのは流石にまずかったらしい。

 ドリーちゃんは野生を取り戻したかのごとく暴れ出す。


「どうどう、ごめんってドリーちゃ……ぶへぇ!」


 俺は後ろ脚で蹴飛ばされ、空を舞った。



 ◇◇◇◇



 あれから、ドリーちゃんに機嫌を直してもらうのは大変だった。

 尻尾の毛を治癒魔法で回復させ、犬のトリミングサロン並に、魔力でマッサージすることで、ようやく許してもらうことが出来た。

 愛馬に対しても礼儀は大事なのだ。


「ひひぃん」

「悪かったって、あんなことはもう二度としないよ」


 現在、俺は当初の予定通りバングウォールに向かっている。

 ドリーちゃんには元の姿に戻ってもらった。

 流石にライトニングドリーちゃんのままでは悪目立ちが過ぎるからな。


「お、見えてきたな、バングウォール砦だ」


 バングウォール砦はオルテナトリスから東に百五十キロほどの距離にあるナイア王国領内の砦だ。

 ナイア王国の西端を流れるエルホロ川の西側に位置し、オルテノスへの備えとして古くから存在し、難攻不落で知られていた。


「御名代様! ご無事で何よりです!」


 俺の姿を確認したゲトラードがこちらに近づいてくる。


「ああ、ゲトラードたちも上手く包囲できているようだな」

「ええ、やはり砦内にステラ級は居ないようです。それより御名代様、その大量ナイフは一体……?」

「戦利品だ、気にするな」

「……ということは仕留められたのですな、ステラ級を」


 ゲトラードの目が細められる。

 その正体が気になって仕方がないようだ。


「ああ、だが話は後だ。今は砦を攻略に集中したい。ゲトラード何か案はあるか?」


 俺には砦の攻略した経験などないので、ゲトラードに全て任せるつもりだ。


「御名代様には二つほどお願いしたいことが。一つは、全員に魔纏の付与を。強化を受けた我々が一斉に砦内に侵入し、内部の制圧を行います。そしてもう一つは――」

「当然、開幕の一撃だろう?」


 俺の言葉に、ゲトラードはニヤリと笑い、無言でうなずいた。

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