第33話 魔法で消し飛んだやつ
◇◇◇◇
この僕、勇者アクィラは信じられない速さの幻獣に
認識阻害のローブはちぎれとんで、素顔が露出してしまっている。
勇者であるこの僕に、いきなり突進してきて、あんな無様な声を出させた挙げ句、地べたを這いずり回らせるとは、なんて卑劣なやつだ! 許せるわけがない。
瞬間的に、頭が沸騰して僕は怒鳴り散らしてしまう。
「いきなり何をする! このクソ貴族が!」
しかし怒鳴った相手を見てハッ、と気づく。
青白い光の筋を迸らせる化け物に乗った、感情のない金色の瞳で見つめる化け物シャルカだ。
まずいまずいまずい!
思い出すは、先ほどのありえない超火力の大爆発。
無理無理無理!
あんなの食らったら絶対に死んじゃう!
正面から戦ったら絶対に無理だ、絶対に。
どうにかシャルカを騙して切り抜けるしかない。
……それで駄目だったら――
アクィラの脳内はかつてないほどの大博打に、大量の脳汁が溢れ出していた。
◇◇◇◇
俺個人としては特に勇者に恨みはない。
オルテノスが勇者から被害を被ったというような話はまだ聞いていないからだ。
ただ、帝国西方ではそこそこ勇者による被害が出ているようで、やれ強盗だ、やれ殺人だと様々な事件が起こっているという。
なぜオルテノスでは被害が少ないかといえば、おそらくナイアとガチンコに殺し合いをするような、血の気が多くて戦える
俺達を襲えば返り討ちにされると、勇者たちも分かっているのだ。
それに金があって弱いやつと、金はあんまりないけど強いやつだったら、前者を襲うだろうからな。
「いきなり何をする! このクソ貴族が!」
ドリーちゃんに撥ね飛ばされた
黒ローブはちぎれとんで、
二十代半ばといった頃くらいだろうか、中肉中背に茶髪というどこにでもいそうな男だ。
「どうした勇者、さっきまでビビって逃げていたくせに、威勢だけはいいじゃないか」
俺は勇者に呼びかけてみることにする。
「ッ! ……おっと失礼冗談です、冗談。あまりのことに取り乱してしまいました。一旦落ち着いて話しましょう、話せば分かってくれるはずです」
今から取り繕うつもりか?
流石に無理があるだろう。
さっきクソ貴族などと言っていたのに、なんて面の皮が厚いやつだ。
「気味の悪い笑顔を見せるな勇者、俺の命を狙っていたんだろう?」
「いえいえ、そんな訳がないでしょう。私は勇者ではありません、アザラシュ出身の元貴族です。ここへ来たのは私の領地の救援をお願い……」
「ドリーちゃん、やれ」
「ゴォォォォン!」
「ぎゃぁああああ!」
俺はドリーちゃんに、落雷を落としてもらう。
ヘラヘラとした胡散臭い笑みが気持ち悪かったからだ。
「ぐっ……い、いきなり何をするんだ!」
「勝手に話を進めるからだ。まず、お前がどこの誰か名乗れ」
「くッ……あ、アクィラと言います。シュラーゴ家の末裔ですよ。シュラーゴ地方で魔獣災害があったことは知っていますか? 実はいまシュラーゴ地方は貧困に苦しんで……」
「ドリーちゃん」
「ゴォォォォン!」
「ぎゃぁああああ!」
やけに話の主導権を握ろうとするやつだな。
俺は強引に話を打ち切ることにする。
「ぐっ……だ、だからそれをやめろといったんだ!」
さすが、
ちょっと趣向を変えてみるか。
「ならばかつてのシュラーゴ家の爵位を言ってみろ」
「……シュラーゴ家ですか? ……侯爵家ですよ」
「違うな、シュラーゴは伯爵家だ」
貴族の子弟にはどうも見えないのでカマをかけてみることにする。
「……はは、冗談ですよ、伯爵家です、知ってるか試しただけです」
「はい、ダウト。本当は侯爵家で合ってるよ」
「……」
本当は知らんが。
カマをかけて正解だった。
こいつ、さっきから適当なことしか言ってないな。
「……すいません、びっくりして嘘をついちゃっただけなんです。でも、あの僕、本当に勇者じゃありません。本当はバルベディ市長の息子なんです。今、街が勇者に襲われてて助けが必要なんです。お願いしますどうか見逃してください!」
本当にそんな下らない嘘で切り抜けられると思ってるのだろうか。
それとも単に愚かなだけか。
「ほう、ではさっき魔法で消し飛んだやつはどう説明する? 俺の威圧に耐え、その上、北へ
「それは…………チッ、リンクスめ簡単に正体をバラしやがって。これじゃ僕の脱出計画が台無しじゃないか……!」
アクィラは取り繕うことをやめたのか愚痴を言い始めた。
それよりリンクスという名前、どこかで聞いた気がする。
「リンクス……ああそうか、さっき魔法で消し飛んだやつ、あいつが俺の出陣の情報をバルバトに漏らしていたのか」
そう、バルバトが話していた名前と一致している。
確かに、魔力なしの勇者ならば、オルテナトリスの検問や外壁の感知の"魔道具"を自由に通り抜けることも可能か、これは盲点だったな。
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