第34話 滅魔道士
魔力なしの勇者が、オルテナトリス城に潜り込めたというのは由々しき事態だ。
やはり、斥候能力に長けた勇者は厄介だ……今後は対策が必要か。
「ククク、アハハハ! なーんだ、そっちもバレちゃってたんだ? なら、もういいや。そうだよ、リンクスが君の情報を流していたんだ」
「おや、猿芝居はもういいのか、勇者」
「良いも何もこれ以上取り繕ったってしょうがないでしょ。じゃあそっちも教えてよ、どうして僕の場所がわかったの?」
そんな重要なことを本当に教えると思ってるんだろうか。
まるで子供のまま大人になったようなやつだな。
「そんなこと、勇者に教えるわけ無いだろ」
「はぁ、貴族ってこれだから嫌いなんだよね。自分勝手で、搾取することしか考えてない。教えてくれないって言うなら……ここで死んでよ!」
アクィラはそう言うといきなり、俺に何本もナイフを投げてきた。
そんなもので俺を仕留められるとでも……、と思ったが少し警戒する。
「そのナイフ、毒か」
俺は、パイプを振り回して一本一本叩き落としていく。
「ククク御名答〜、さぁ、まだまだいくよ〜」
一体何本持っていたのか、更に連続で
投げた本数は数十本に達するだろうが、流石にそろそろ尽きるはずだ。
こんな事をしていてもジリ貧になるだけだろうに。
「無駄だぞ、そんな小細工は俺には通用しない」
「アハハハ、貴族はね、みんなそう言って死んでいくんだよ」
「?」
アクィラはナイフを投げながら、魔力を練り始めた。
魔法の発動の気配を感じるが、特に何も起こらない。
ただアクィラの言動に違和感を感じて、魔力感知を行う。
すると、背後から急速に魔力反応が迫ってくるのを感じた。
「ッ!」
膝を曲げて、体勢を低くしながらパイプを振り回す。
背後からとんできた投げナイフを弾いた音がした。
「わお、すごい反応だねぇ!」
「ナイフに魔力……? まさか遠隔でナイフを操ったのか?」
「ククク、まさか僕の"
「傀儡魔法だと?」
聞いたことがない魔法だ。
だが名前からして対象の小物に魔力を付与して自由自在に操作する魔法ってところか。
つか、これ俺が発見した"魔力伝導"の応用じゃね?
興味深いが、先取りされたようで滅茶苦茶悔しいんだが。
「ああ。この傀儡魔法は僕の代名詞と言っても過言ではない、そう僕こそ、連合が誇る序列十一位、"傀儡の勇者アクィラ"。 この傀儡魔法で幾人もの貴族を葬ってきた勇者の中でも最強のルーキーさ」
「連合……ああ"勇者連合"か」
連合または勇者連合。
父からは勇者達で構成された武装テロ集団だと聞いている。
アトラ大陸各地でテロ活動を行っているはた迷惑な連中で、そのトップに君臨するのは、十二人の強力な力を持つ勇者達。
なるほど、その一人が目の前の男だったというわけか。
「そうさ、残念だけどもう君の負けは決まったようなものだ、種まきは済んでいるからね」
「何?」
俺の周囲から無数の魔力の反応が現れた。
投擲された投げナイフが俺の周囲を完全に包囲するように浮き上がり、その刃がこちらを向いた。
「ククク、例え相手が君のような滅魔道士だろうと、この数は防げないでしょ!」
「……ッ!」
確かにこれなら逃げ場はない。
大量の毒ナイフを投げてばらまくのがアクィラの目的だったということか。
「このナイフに塗られた毒はね、魔獣の体液を混ぜ込んであるんだ。例え
嫌な感じはするが、正直、アクィラが言うほど危険には感じない。
感覚としか言いようがないが、俺には毒の耐性があるような気がしているのだ。
それと、アクィラから"滅魔道士"という言葉が出てきたのが引っかかる。
「アクィラだったか? 連合はなぜ俺を監視するように言ったんだ?」
「ククク、いいよ、冥土の土産に教えてあげよう。僕が監視にあたったのは厳密には君じゃない。オルテノスに新たに誕生した可能性のある滅魔道士の存在を確認するためさ」
「ん? 妙な言い回しだな。滅魔道士とやらが何かは知らんが、なぜ誕生したと断言しない?」
アクィラは俺の言葉に、信じられないとでも言うようにキョトンとした顔を見せる。
「ええ? 君、滅魔道士を知らない? プフッ、アッハハハハハ! これは傑作だ! 知らない内に滅魔道士になってるって、さすがに面白すぎる冗談だよ」
「?」
唐突に笑い声をあげたアクィラに、俺は首を傾げる。
「まぁいいか、滅魔道士っていうのはね、
「……」
滅魔道士が何か、アクィラはあっさりと教えてくれた。
魔獣を滅ぼす存在、故に滅魔道士ということか。
つまり俺は魔獣を倒して滅魔道士とやらになったことになる。
だが、それはおかしな話だ。
―――俺は、今まで一度も魔獣など倒したことがないのだから。
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