第31話 生雷魔法

「幻獣、幻獣だと? シャルカが乗っていたのは黒い馬だったろう! 一体どこから幻獣など出てきたと言うんだ!」

「でもあれはどう考えても馬じゃない」

「くそ、このままだと追いつかれる……!」

「どうするの? アクィラ」


 アクィラは先程のバルバトとシャルカの戦闘を遠くから眺めていたが、シャルカの戦闘力の高さは血の気が凍るほどだった。

 正面から戦ってはおそらく勝てない相手。


(僕だけでも、生き延びないと……!)


 だからこの情報を持ち帰り、連合の総力を持ってシャルカを討伐しなければならないと考えていた。

 アクィラは一つこの場を切り抜けるアイデアが浮かんだ。


「リンクス、このままだと僕ら二人共シャルカに殺られる。だから二手に別れよう。僕はアザラシュへ、リンクスはこのまま引き返してオルテナトリスに向かうんだ」

「え、でもそれじゃ私が……」

「仕方がないだろ! こうなった以上どちらかが生き残って情報を伝えるしかないんだ! 分かってくれ!」

「……分かった」


 アクィラが考えた作戦は、リンクスを囮にする作戦。

 リンクスが頷いたのを見て、アクィラは口角を三日月状に釣り上げる。


(ククク……ごめんねリンクス、僕のために死んでくれ)


 アクィラは人生最大の博打に脳汁を溢れさせ、不気味な笑顔に顔を歪めながら、よだれを垂れながしていた。



 ◇◇◇◇

 


 魔法の習得は『漠然としたイメージ』と『何度も試してみる』ということが大切。

 そう教えてくれたのは兄弟子のユークレーンだった。

 ユークレーン自身はお祖父様から直接魔法を習ったらしい。

 お祖父様が才能を見出し、弟子にするというのは珍しいことで、俺の母の実家のネーヴィリムでは大層盛り上がった。


 ユークレーンから魔法を教わるうちに、魔法の開発に興味を示すようになった。

 当初から「魔力」という物の存在に疑問を持っていた俺は、色々と汎用的な魔法を習得していく内に「魔力って、量子の一種なんじゃね?」と思うようになった。

 "威圧"は波の性質であるし、"ミーティアレイ"なんかはエネルギーの集合体でもあるからまさしく、魔力とは粒子と波の性質をあわせ持った量子そのものである。

 ちなみにこれを発見したことで生まれたのが"威圧玉"だったりする。

 着弾前と後で粒子と波の性質が交互に現れるように設計したのは、我ながら天才かもしれない。


 次に発見したのは、金貨のような貴金属に魔力を込められるという"魔力伝導と充填"の性質。

 金属に魔力を溜められるとは何事かと考えた時、「あれ、魔力って電気と似てるんじゃね?」と発想を飛ばして、魔力には「陰」と「陽」の二種類が存在する事がわかった。

 前世における「電気」と同じかどうかははなはだ疑問だが、そこから応用を重ねて、ついに俺の最初のオリジナル魔法"雷魔法"が誕生したわけだ。


 ところで俺は一つ、魔法習得の実験として、弟にスパルタ教育を施して"雷魔法"を習得させようとした事がある。

 しかしこれは思いの外難航した。

 なぜなら電気という『漠然としたイメージ』が弟の頭の中になかったからだ。

 故に電気というものをイメージできるまで"雷魔法"を弟の体に『直接覚え込ませ』、『何度も試させる』ことでようやく習得に至った。

 この実験でわかったことは、俺にはやはり前世の知識があるから、そこからイメージ出来る魔法の習得は早いということ。

 この結果により、俺のオリジナル魔法開発に拍車がかかったことは言うまでもないだろう。


「さて、いくぞドリーちゃん! もう少しで会敵するからな」

「ゴォォオン!」


 ドリーちゃんは俺に声をかけられたのが嬉しかったのか、一ついななく。

 すると激しい爆破音とともに周囲に落雷を落とし、破壊を撒き散らした。


「……」


 俺は現在、頭部から生えた二本の角が生え、青白い電気を迸らせるドリーちゃん、名付けて"ライトニングドリーちゃん"にまたがり、ステラ級Aの元へ向かっていた。

 いやな、ドリーちゃんがこんな成れ果ての姿になってしまったのには、ちゃんとした理由があるんだ。

 俺は最初に開発した"雷魔法"は、は、だれもが想像する通りの一般的な"雷魔法"だったんだよ。それというのは――


 一つ、普通に電撃を放つ攻撃魔法としての雷魔法。

 二つ、自分や他人の神経系を強化する付与魔法としての雷魔法。


 しかし六年前、魔力が増大したとある事件をきっかけに、なぜか俺の"雷魔法"は驚くべき変貌を遂げてしまった。

 特に二つ目の方、通常なら神経系の強化だけだったところを、その生き物のポテンシャルを上げられるようになったらしい。


(ある意味、生物の進化だよな、これ)


 ライトニングドリーちゃんを見て思う。

 俺の"雷魔法"は神経どころか、遺伝子にまで作用するようになってしまったというわけである。

 これはもはや"雷魔法"とは別物である。


 生体に作用する雷ということで、俺は新たに"生雷せいらい魔法"と名付けた。

 なぜドリーちゃんがこのような姿になったかはまだわからない。

 もしかしたら「ドリーちゃんよ、足がはやくな〜れ」と思って魔法を使ったから、俺の意志を反映してライトニングドリーちゃんになった、という可能性も無いこともない。

 この魔法自体、未だわからないことだらけなのだ。


 ちなみに人間にはまだ怖くて試したことはない。

 いきなり「おで、人間、皆殺し」とか言い出さないとも限らないからな。

 今のところは、身近な虫や獣や植物で検証していくつもりだ。

 もちろん、生態系に影響を及ぼさない範囲で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る