第19話 バルバトの勘違い

 貴族というものに恋愛は存在しない、とされている。

 親から婚約者が決められ、それに従うことが当たり前だからだ。

 しかしこれには大いなる矛盾が生じている。


 貴族は、生まれながらにステラ級という莫大な魔力を持って生まれるので、「同じステラ級なのに、なんで勝手に決められなあかんねん」という素朴な思想を少なからず抱いているからだ。

 良く言えば快活で大胆不敵、悪く言えば傲岸不遜ごうがんふそん


 そういった思想から貴族は偏執へんしつ的に、誰か一人を愛するような思考になりやすい。

 バルバトが婚約者とどのような関係だったのかはわからないが、婚約者に逃げられるというのは尋常ではない。

 偏執的な愛に生きたバルバトのショックは相当なものだったのだろう。

 同情するつもりはないが、幼女趣味に目覚めたのは、自分に逆らうことのない存在を求めたからなのではないだろうか、と思う。


 バルバトのようなスキャンダルは、貴族社会ではそこかしこに転がっている。

 惚れた腫れたは当座の内、という言葉は貴族には当てはまらないのである。



 ◇◇◇◇



「殺す殺す殺す殺す殺す……」


 バルバトは呪詛を吐きながら、体内で爆発的な速度で魔力を練り上げていくが、バルバトは明確な弱点を露出している。


(さて、どうするかな)


 俺はこのままバルバトを瞬殺していいものかどうか、決めかねていた。

 南方に見えたもう一人のステラ級がどうしても気になっているからである。

 こちらを観察する意図があったのだとしたら、あまり手の内は見せたくない。

 しかし、考えても敵が待ってくれるはずもなく。


(クソっ、考えてる時間もないか)


 そうこうしているうちに、バルバトの髪はエメラルドグリーンに照り輝き始めた。

 ステラ級のブチギレ戦闘モードの時は、魔法使用時に体毛が魔法の属性の色に変色する。

 バルバトは、今まさに右手を前に出し魔法を放とうとしていた。


御名代様みなしろさま、一体どうなさったのですか?!」


 想定と違う動きをしている俺を不信に思ったのか、ゲトラードが声をかけてきた。


「……ゲトラード、少し作戦を変更する。悪いが俺を信じて指示に従ってくれ」

「……ふむ、何か考えがあるのですな。わかりました、御名代様みなしろさまを信じますぞ」

「ああ、助かる!……皆、風魔法がくる! 魔力の"盾"で散らすぞ!」


 やはり傍にゲトラードがいてくれてよかった。

 俺はすぐに全体に指示を出す。

 武官たちは魔力を練り始め、ぞれぞれが手に持っている銃剣に魔力を流し始めた。

 銃剣の先の刃が光り、先端から魔力の薄い膜が張られていく。

 "盾"とは、その名の通り魔法を受け流すための薄い盾を作り出す技術だ。

 かく言う俺も、パイプに魔力を流して"盾"を張る。


「消えろ、オルテノスのゴミども」


 バルバトの右手から放たれたのは、見えない風の刃による斬撃。

 広範囲魔法が地面や木々に多大な破壊を撒き散らしながら、迫ってくる。

 

(これは、普通のステラ級の火力だな)


 バルバトの魔法を見て、俺はバルバトが自分との存在ではないと判断する。

 これで俺がバルバトに敗北する唯一の可能性が消えた。


 魔力の"盾"越しに初めて見る、実戦でのステラ級の魔法。

 轟音をたてながら地面までえぐる様は、まるで爆撃のようであった。


「フハハハッ! 死ね死ね死ね死ねェ!」


 バルバトは馬鹿の一つ覚えのように風魔法を放ち続けている。

 直撃すれば俺でも多少のダメージは負っていただろうが、魔力で受け流してしまえば問題ない。


「皆、今しばらく耐え続けろ! そう長くは続かんはずだ」

「「オ”オ”オ”オ”!」」


 少しだけ心配だったのは武官達だったが、"魔纏ドーピング"状態の今は、問題なく受け流しが出来ているので損耗は少なそうだ。

 しばらくしてバルバトの攻撃が止んだ。


「動くな、追撃を警戒しておけ!」


 土煙が立ち込めて視界が閉ざされているので、武官たちに警戒を促す。

 俺は"魔力感知"でバルバトを捕捉していたが、何もしてこない。

 しばらくして土煙は収まった。


「ハァ? 俺の風魔法を全て受け流しただとォ?!……いや、そうか、テメェ、"魔法障壁"を張ったなァ!」

「あ?」


 姿を見せたバルバトは、俺達の損耗の少なさに驚愕したようが、なにか思いついたのか今度は得意げに話し出す。

 俺はバルバトの言っている意味がわからず首をかしげる。

 "魔法障壁"とは、魔法攻撃を完全に打ち消す透明な障壁を張る魔法だ。

 防御性能は抜群だが、如何せん魔力消費量が非常に多いので俺は使っていない。

 魔力量的には問題ないのだが、魔力の使用は極力ケチる方なので普段も使わない。


「フハハハァ! たまにいるんだァ。テメェのように部下を思いすぎるあまり、魔法を無駄遣いして、魔力欠乏になっちまう阿呆がなァ!」

「……」


 バルバトは一体何を言っているんだ。

 俺の魔力は満ち満ちているし、どちらかといえば部下に厳しい対処をさせたのだが。


「俺が残してきた一万を壊滅させたことは褒めてやるぜェ。だがテメェの"魔纏"は魔力を込めすぎちまったみてェだなァ。魔力操作もおぼつかねェうちに戦場に出てきたのがテメェの運の尽きだ」

「……あー」


 なるほど、どうやらバルバトは俺の異常な"魔纏"をみて、魔力操作が下手くそなガキと判断したようだ。

 なぜそう都合よく物事を捉えようとするのか理解に苦しむが、勘違いしてくれる分には問題ない。

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