第11話 さすがは御名代様です

 表情の薄い女武官が持ってきたのは予想外の凶報だった。


「バルバトは撤退したわけじゃないんだよな?」

「はい、おそらくナイア軍は北方のロンシャント砦に向かったのかと」

「クソっ、最初から狙いはお祖父様だったのか!」

「はい、おそらくは」


 最悪だ、完全に敵の狙いを読み違えていた。

 俺達がナイア王国軍と接敵した時、こちらが犠牲者を出さずにあっさりと逃げ切れたのは、よくよく考えればおかしい。

 やけに追撃の魔法が飛んで来ないなと思っていたが、最初から俺達はこの丘に誘い込まれていたってことか。


「やってくれるな、バルバト」

「ッ!」


 思ったより低い声が出てしまった。

 少し魔力が漏れ出て、表情の薄い女武官を威圧してしまったかもしれない。


「つまり、丘の下にいる一万は囮ということだな?」

「は、はい」

「?どうした、顔が赤いぞ」

「い、いえ。なんでもありません」

「そうか、ならいいんだが」


 表情の薄い女武官が急に顔を赤らめだしたから驚いた。

 いや本当に、ゆでダコみたいになって、熱でもあるのかと心配したのだ。

 ただ女武官が人間らしい顔もできると分かって、俺は少し安心した。


(さて、こうなるとバルバトという王子がどのような人間なのかが少し気になるな)


 俺を出し抜くとはなかなかに、切れ者の可能性がある。

 ここでちょっくらプロファイリングでもしてやろうじゃないか。


「バルバトについて教えてくれ、どんなやつなんだ?」

「よろしいのですか? バルバトは現在も北方に向かって高速で移動中ですが」

「問題ない、知っていることを話せ」

「はっ、承知いたしました」


 表情の薄い女武官はすこし戸惑っているものの、知っている情報を話させたら次のようになった。


 バルバト・フォン・ナイア 二十六歳 ナイア王国第二王子。

 兄が一人、弟が二人、妹が一人。パートナーなし。

 直情的かつ粗野な性格・ナイア王国内の評判は最悪・幼い娘を取って食うペド野郎・遊び人・自分の妹すら手に掛ける下種げす・多額の借金あり・魔法は風系統を得意としている。


 俺がプロファイリングするまでもなく丸裸になったんやが。

 どうやら表情の薄い女武官はかなり優秀な武官のようだ。

 多少、表現がきつい部分があったので丸めたが、それでもバルバトは控えめに言ってクズだった。

 話を聞く限り、バルバトの人物像から今のナイアの動きが出来るとは思えない。

 何者かの指示があった可能性が出てくるな。


「あの、本当にこのようなことをしていて大丈夫なのでしょうか?」

「ああ、お前のおかげでいろいろ分かったぞ、助かった」

「は、はいっ!」


(あん?なんだこの女武官の反応)


 頑なに表情は変えないが、なんとなく主に褒められて喜ぶ犬のように見えてきた。

 じっと見つめていると、女武官の顔はどんどん赤くなってくる。


(これはひょっとするとひょっとするのか?)


 ……いや、アホな考えはやめよう、今はバルバトに集中しなければ。

 俺が感じた違和感は一旦頭の隅においておく。

 

 天幕を出て、武官たちと状況のすり合わせをすることにした。

 外で色々と部下に指示を出しているゲトラードを見つけたので、呼び止める。


「ゲトラード、北方に向かった連中は今どのあたりだ?」

「すでに地平線の彼方ですな。既に五十ケルは先にいるでしょう」


 ゲトラードが見ているその先には土煙が上がっているのが見えた。

 バルバトの軍の構成は歩兵と騎兵の混成部隊、おそらく最短で二、三時間ほどあればたどり着いてしまうな。

 そして丘の下には一万の大軍が行く手を阻むように立ちふさがっている。


「そうか、なら今から馬を走らせても追いつけそうにないな」

御名代様みなしろさま、どうなさいますか?」


 ゲトラードが俺に決断を迫ってくる。その目は鬼気迫っていた。

 気がつけば、先ほど天幕にいた武官たちは皆俺のもとに集まっていた。

 さっきまでのやれやれ感はもうどこにもなく、真剣な表情で俺の指示を待っている。

 ポケットの中の金貨の手触りを確かめ、俺は覚悟を決める。


「バルバトを直接狙う」


 バルバトをお祖父様のところへは行かせない。

 俺がここで仕留めると言ったのだから、必ず仕留める。


「ば、バルバトを直接?一体どうやって!」

「この距離では、長距離爆撃魔法を使っても不可能です!」

「万が一届いても、”魔纏まてん”で高速移動をしていますし、当たりっこありません!」


 武官たちがけたたましく騒ぎ立てた。おそらく武官たちは一万の兵を突破してからお祖父様のいる戦場へ向かおうと考えているのだろうがそれでは遅い。


「騎兵突撃の準備をしておけ、俺はこれからやることがある」


 騒ぐ武官達の言葉を一蹴し、俺は目を瞑り、魔力を練り始める。


御名代様みなしろさま、一体何を……」

「騒ぐな、御名代様みなしろさまは何かをされるおつもりだ」

「まさか、この距離からですか! あ、ありえません」


 俺は右手を前にかざし、自分の魔力を波の形に変化させることに集中する。

 今から行うのは、貴族たちが普段、魔術師を探知するために行っている”魔力感知”というソナーのような技術、それの応用である"感知魔法"だ。


「ゲトラード殿、御名代様みなしろさまは一体何をされているのですか?」

「いや、わしにも分からん。”魔力感知”のように見えるが、それにしては使用している魔力量の規模が桁違いだ。だが、御名代様みなしろさまは全てにおいて規格外、オルテノス家歴代の中でもおそらく最強の魔力量。御名代様みなしろさまが何をしたとしてもわしは驚かんよ」

「さ、さすがは御名代様みなしろさまです!」


 んん、気が散る。

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