第9話 実力で黙らせるしかないか

 俺はバルバトをると決めたが、ここで一つ問題がある

 それは、控えめに言って俺が武官たちから人望がないことだ。


 今回の初陣自体が父のプロデュースなので、ここにいる武官たちは全員父がピックアップした者たちだ。

 そういうわけで俺と武官たちの間にコンセンサスはなく、武官たちの方がなんならやりずらさすら感じているかもしれない。

 彼らは例えるなら、社長の息子の成人式に付き合いで参加してくれと頼まれて、物見遊山ものみゆさんのつもりで来てみたはいいものの、なぜか窮地に陥ってしまっているという、踏んだり蹴ったりな人たちなのだ。

 

 しかし、そんな彼らを今から死地に向かわせないと行けないのだから指揮官とは辛いものである。

 考え事をしていたら、俺は無意識にポケットの中の金貨に触れてしまっていた。


(よし、やるか)


 俺は目の前の武官たちに視線を向けて、尻にぐっと力を入れる。


「皆聞け! 我々はこれよりバルバト率いるナイア軍を撃破し、その後お祖父様の救援に向かう!」


 武官たちの間に緊張が走り、表情が暗くなるのが視えた。

 よわい十二の子供、それもあまりいい噂を聞かない貴族のボンが自分たちの生き死にを決めようとしているのだから当然だろう。


「劣勢なのは承知の上だ。しかし我らオルテノスが、ここでナイアに臆した臆病者となるわけにはいかない。これよりナイア軍に対して騎兵突撃を行う。皆、準備にかかれ」


 俺はできるだけ勇ましく声をあげたつもりだが、反応がかんばしくない。

 やはり、お祖父様のようにはいかないな。

 武官たちがやれやれと準備を始める中、一人の老武官が、表情の読み取れない顔で俺の前に出てくる。


御名代様みなしろさま、バルバトを撃破するなどとあまり豪気なことをおっしゃいますな」


 俺に反対意見を表明したこの老武官の名前は、ゲトラード。

 俺のお目付け役で派遣された衛星サテラ級の武官であり、オルテノス領内の市街地を管理する騎士でもある。


「騎士ゲトラード、オルテノスの"守り手"である俺が決めたことだ、従え」


 長年にわたってお祖父様をサポートしてきた実績もさることながら、外政においては父の名代を勤めることも出来る程の御仁だ。

 故にゲトラードの意見は、父であるオルテノス侯爵の言葉にも匹敵する。

 この場では俺が上位者であるとはいえ、その意見は無視できない。


御名代様みなしろさま、お館様やかたさまのご指示をお忘れですか。お館様は、国境付近で集結している衛星サテラ以下で構成された軍を撃破せよと申されたのです。ステラ級と交戦しろなどとは一言も申されておりません」


「そうはいっても、あの集団を放っておくわけにはいかないだろう」


 ステラ級とは、その身に強力な魔力を宿す魔術師の総称である。

 ステラ級の魔術師の肉体は、ただの刃では貫けぬほど強靭であるため、魔力を持たない人間である星屑ダスト、ある程度魔力を持った人間である衛星サテラでは戦いにすらならない。

 故に、バルバトと対峙出来るのはこの場において俺しかいないのだ。


「こうやってにらみ合いに終止しておけばよいのです。初陣でステラ級同士の殺し合いなどあまりに危険すぎます」


「しかし包囲されれば元も子もない。ここで奴らの出鼻をくじかねば、大勢死ぬぞ」


「その時はやむを得ませぬ、我らがバルバトを引き付けます故、御名代様みなしろさまはその間にオルテナトリスにお逃げください」


 なかなか頑固な爺さんだ。

 このまま舌戦で押し切られれば、オルテノスの長男としては弱気に映ってしまう。

 やはり貴族らしく実力で黙らせるしかないか。


「ゲトラードよ、それは俺の魔力を見ても同じことが言えるのか?」


 俺は、体の奥底にある虚空につながる扉を開くような感覚で、体中に魔力をたぎらせた。

 一般的に”魔力を練る”という言葉で表現されるこの行為は、魔法を使用するための準備段階に当たるが、他人に対して魔力を知覚しやすくするという反作用が存在する。


「は?」


 ゲトラードは混乱した様子で首を傾げた。

 俺の魔力がえてしまったのだろう。


 人に魔力が宿っているかどうかという0、1の判断自体は、魔力を持っている者同士ならばもともと漠然とわかる。

 しかしそれだけでは魔力の性質、あるいは魔力量を判断することは難しい。

 故に、”魔力を練る”ことによって初めて、当人の体に流れる魔力が見え、どういった魔力の性質か、あるいはどれほどの出力が出せるのか、を知覚することができるのだ。


 ——ただ、中には規格外の者も存在する。


 周囲の空気がピタッと運動を止めたかのように、周囲の音がやんだ。

 やがて、空気が引き裂かれるような耳をつんざく音が鳴り響き、周囲にあるテーブルや天幕、陶器などの周囲にある物体全てが小刻みにカタカタと震え始めた。

 

 それはさながら、唐突に地震に見舞われたかのような現象であった。


 俺がおこなったのは、わざと制御を狂わせて漏出ろうしゅつさせるということだけ。

 あまりに強力な魔力は、うまく制御できないと周囲の物体を振動させてしまう。

 他のステラ級でも魔力を漏出するのは可能だが、このような現象には至らない。


(物体といえば、も同じ物体なんだよなぁ)


 俺の魔力にあてられた武官たちは、悪寒を内側からでなく体の外から当てられたかのように、不自然な震え方をし始める。

 最初は何が起こっているのかわからず、徐々に平衡感覚を失っていく。

 最後はだんだんと頭が体の振動と恐怖を結びつけ始めるのだ。


 そして一人、また一人と振動に耐えられなくなったものから膝をついていった。

 俺はここまでやるつもりはなかったので、即座に魔力を練ることをやめた。


「すまん、ちとにやりすぎたわ」


 武官たちが俺を見る目は完全に化け物を見るような目だった。

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