誰もが個人での強き者を待ち望んでいた

村に入ると、通り掛かった先で偶然に立ち寄った感じを出して歩き回る。

だが村人たちは、誰に何かを聞くわけでもない人物に何の用なのかと不振がって見ているようだった。


『あやつじゃ! あの鍬を担いで遣る気なさそうに歩いている、冴えない小童こわっぱが勇者じゃ』


ヴィゴールの性格に何かを思うことは止めることにした。

直ぐさまこちらに歩いてくる勇者の前へと出ると、驚きつつも安堵したかのような笑顔を浮かべた。


「……何だ? 何か用なのか?」


「ああ、ごめん。俺はリクト。背中を預けられる仲間を探して旅をしている。いや、していた!」


リクトは感極まったかのように、目の前の子供を上から下まで眺める。

すると勇者は気持ち悪そうに顔を顰めた。


「ああ、ごめんごめん。凄い素質を感じられたものだからさ」


「素質? ……俺の?」


『その調子じゃ!』


勇者は何を言われたのか分からないとばかりに呆気に取られた。

そしてヴィゴールからは、応援なのかもしれないが余計な声が頭に響いた。


「勿論だよ。今まで数多くの人を見てきたが、これほどの才能を感じられたことはない。魔術は風と土の適性が高そうだし、剣術も鍛えれば直ぐに達人の域に達すると思う」


「そっ、そうか。よっ、良く分かるな?」


『良いぞぉ、行け行け! 押しまくるのじゃ!』


困惑気味だが満更でもなさそうに照れている。

悪い気はしていなさそうだった。

ここが決め所と、すかさず提案をぶっ込んだ。


「さっきも言ったけど、相棒を探して旅をしていた。それが此処で出会った。――如何かな? 俺とパーティーを組んで、狩猟人組合に登録して活動しないか?」


とっておきの笑顔を向けて手を差し出す。

もちろん作り笑いだが、前の異世界で培われた処世術だった。


「へへっ。そうまで言われちゃ断れないなぁ。俺はライリ。こんな村で燻っていたくないと、登録したいとは思ってたんだぜ」


「ありがとう。ライリって呼んで良いか?」


強めに握ってくる握手に相応の力で返す。

友情の始まりを演出した。

もちろん魔王討伐ならば背中を預けることになるので偽りではない。


「良いぜ! 俺もリクトって呼ぶからよ」


『良くやった。良くやったのじゃぁぁ!』


魔王討伐を成し遂げたように喜んでいるじいがいる。

だが直ぐに疑問も付け加えた。


『だが、本人に動かなかった理由はなさそうじゃな。――ふむ。周囲の邪魔かのう?』


「そうだな。――両親に合せてくれないか。挨拶はしておきたい」


「ああ。俺も家に帰るところだったから構わないぜ。付いてきてくれ!」


前半はヴィゴールに言い、後半はライリに言う。

機嫌の良さそうなライリに付いていきながらヴィゴールと同様に思うのだった。


ここが俺の家だと言って入ったのは一般的な家屋であった。

周囲を見回すと他の家と同じような造りをしている。

経済的には他の村民と同じだろうと判断してリクトも中へと入った。


誰もいなかったが、奥からライリに急かされて二人の大人がやってきた。

両親のようである。


「収穫物を洗っていたものだから、お待たせしたね。どうぞ座ってくれるかな」


使い込まれたテーブルや椅子があり一つに腰を下ろす。

父親はセイムと言い、母親はアリサと言うと挨拶をくれる。

他には上の息子もいて、今は他の若い者と一緒に王都に野菜の納品に行っているそうだった。


更にセイムとアリサは明日の納品用の作物の準備をしていて、ライリは畑の整理をしていたと説明してくれた。


「それでリクトさんって言ったかな。息子のライリとパーティーを組んで、狩猟人組合に登録して活動したいと聞いたんだが?」


「はい、そう思っております。――僕は、単独だと危険ですので仲間を探していました。偶々立ち寄ったロビン村でライリ君を見かけたとき、天啓のように閃くものがありました。魔術の適性は素晴らしく、剣の腕も鍛えれば直ぐに上達しそうに思えます。まさに狩りをするために生まれてきたのではないかと思えるほどです。――危険もあるかもしれません。ですが跳ね返せる力もあると思います。ぜひ狩猟人組合で活動することを認めて貰えないでしょうか」


今回は流石に爺も静かだった。

周囲の反対と言うか邪魔かと言っていたので、一番に濃厚な両親を見極めようとしているのかもしれなかった。


「頼むよ、親父にお袋! 俺はこのままで終わりたくないんだよ。許してくれよ」


「……ライリは魔術を、どの程度まで使えるようになったんだ?」


ライリも必死に両親を説得すると、その顔を見ていたセイムが口を開いた。


「……風と土が二で、火と水が一」


「二属性とも、二番目まで上がったのか?」


不貞腐れたように言うライリだったがセイムが驚いた顔をする。

頷くライリを見ていると更に続けた。


「そうか。今年一五歳になる若さで二属性が二番目まで使えるようになったのか。――リクトさんは如何なのかな?」


「僕は今一六歳です。水属性だけですが、特殊な魔術も含めて全て使えます。それと剣も結構使えると自負しています」


セイムとアリサを見ていたリクトだったが聞かれて正直に答えた。


「そうか。歳も近く、一人は風と土で、もう一人は水。それに剣が使える者に剣の才能がある者、っか」


ライリが祈るような目差しをしていた。

セイムとアリサは互いを見ると頷き、アリサが席を立った。


「ライリにとって、ロビン村は小さいのかもなぁ。リクトさん、息子の才能を見出し評価してくれたことに感謝する。ありがとう。次男で譲る畑もなかったことだし、ライリを頼みたい。――それと、こいつは単純で馬鹿だ。あまりにも聞き分けないようなら、捨ててくれても構わないからな」


「親父、それは酷いよぅ」


口を尖らせるライリを横目に、リクトからも礼を言う。

すると爺からの念話が届いた。


『どう言うことじゃ? 誰が邪魔をしておった? リクトよ、後でさりげなく理由を探っておけ。それとまずは、王都へと行くのじゃ』


部屋を出ていたアリサが大きな荷物を抱えて戻ってきた。


「四属性とも使えるので、親の贔屓目なしに才能があると思っていた。若いうちの苦労は後々の宝になる。三番目の魔術も使えるようになるかもしれないしき使ってやってほしい。――これは大した物ではないが持って行ってくれ」


パンや干し肉に乾燥野菜それに乾燥木の実だった。

だが裕福には見えない村の生活でこれだけの物を貰うと困窮しかねない。

そうかと言って王都までの食料があるのも魅力的ではあった。


「それでしたら五分の一ほど購入させて下さい。後はライリ君に剣術の手解きをしながら獲物を狩りますので、大丈夫です」


内ポケットから出すふりをしながらゴッドストレージから金貨五枚を出した。

その途端にセイムとアリサは目を見開いた。


「こっ、こんなには、貰えないぞっ!」


『ああっ、言うとらんかったな。パン一つで銅貨二枚の、干し肉一握りほどで銅貨五枚じゃな。銅貨一〇枚で銀貨一枚の、銀貨一〇枚で金貨一枚。更に上には金貨一〇枚で白金貨一枚の価値になる。お主の出した額じゃと、五分の一どころか二倍から三倍の量が買えるかのう』


「……ええっと。ライリ君がいなくなるので最初にうちは大変でしょうから、その分も含めています」


受け取れない、受け取ってと、意味の無い攻防を続けたが何とか受け取って貰えた。


ライリはそれを見ながらニヤけていた。

だが苦笑いの類いではなく、どちらかと言えば見下したかのような表情だった。

まるでリクトより俺の方が上だとでも言いたげな笑みであった。



ライリは剣を持っていない。

農家の息子で剣を所持している者がどれだけいるのか。

リクトは短剣を使うことにして長剣は貸すことにする。

王都に着いたら購入するつもりであった。


「まずは王都に行こうか。狩猟人組合に登録して装備を整えてから、活動開始だな」


「ああ、良いぜ! 俺の名前を広く知らしめるのは、王都からってことだな。それじゃ、剣の扱い方を教えてくれよ」


剣筋を立てるように、叩くのではなく引くように動かすと指導する。

言葉で教えて、実際に剣を振らせて悪い点を直しながら歩いていった。


暗くなってくると、街道から少し離れた草むらにテントを張る。

ライリに枯れ枝を拾わせ、リクトは鍋が使えるようにセッティングした。


「“集まり煌めく水の力”」


「おお! 水属性の一番目の魔術か?」


「そうだな。ライリも使えるだろうけど、野営するときは便利なもんだぞ」


掌の上に水の玉を発生させる初歩の魔術だが、料理に使えて身体を拭くときの布を濡らしたりと重宝する。


鍋に水を入れたらヴィゴールから貰った塩と胡椒を入れて火に掛ける。

煮だってきたら、干し肉と乾燥野菜をぶち込んだ。


料理に拘っていたら魔王討伐など出来なかった。

短時間で食えるのと栄養を取れれば良いの精神で生きてきたのだ。


ライリにも不満はないようで何も言わない。

それどころか野営をする狩猟人はこんなもんだよなと、渡したパンと具沢山スープを機嫌よくむさぼっていた。


翌日は日の出とともに行動したいので早めに就寝することにする。

だが寝る前に、テントの周りに溝を掘ることにした。


「そうしておくと、もし雨が降ったとしてもテント内に入り込まなくてすむんだよね」


「おお、なるほどな。年上の知恵袋ってやつか。“意思を持つ土の力”」


土属性の一番目の魔術により、テント周りの土が自ら動いて排水溝のようになる。

ライリは知識だけは自分より上だと感心するのだった。


翌日からは、剣と魔術を組み合わせた回避し辛い有効的な戦い方を教えた。

土属性は戦闘に向かないがライリは風属性も使える。

これは戦闘向きであるのだ。


中距離からの風によって牽制して隙を作り出し、剣で仕留める。

また剣で戦っているとき、他の敵に死角から風で攻撃する。

剣での攻撃で一旦距離を置くとき、隙を見せないように風をぶちこんでも良い。

異なることを同時に行うので、頭で考えるのではなく繰り返して身体に覚え込ませた。


「だいぶ滑らかに動けるようになってきたし、そろそろ実戦といこうか?」


「おお、任せろ! 何だって真っ二つにしてやるからよ」


街道から外れて森に分け入った。

周囲を警戒しながら歩くように伝える。

帰りの方向が分かるように木の幹に傷を付けながら更に奧へと入っていった。


暫くすると殺気を捉えた。

散策でもしているかのような緊張感のないライリを呼び止める。

殺気の元を辿れば、飛び掛かる瞬間を狙っていた大型の山猫が木の上にいた。


ライリがあのまま進んでいれば不意打ちを食らっていたかもしれない。

山猫は正面から襲うことに切り替えたのか、少し離れた前方にと降り立った。


『グワァァァッ』


「おお? 遣る気まんまんだなぁ。俺に任せておけ!」


山猫の威嚇に一般人なら怯えるものだがライリには見られなかった。

ヴィゴールの説明にはなかったが胆力もあるのだろうと思う。

もっとも少人数で魔王がいる場所まで乗り込むのなら、並大抵ではない度胸は必要であった。


「ああ、任せた。狩猟人組合に登録する前の、最初の実績だな」


「でかい男になる俺の、最初の獲物だぜ! “回転し放たれる風の力”」


呪文を唱えると同時に、風属性の二番目の魔術である風の刃が山猫に向かって放たれる。

その瞬間にライリは地面を踏み込んでいた。


魔術は不可視と言うわけではない。

得体の知れないものを捉えた山猫は斜め前へと飛んで回避すると、しなやかに地面を蹴って飛び掛かってくる。


だがそこにライリの剣が滑り込んだ。

剣筋がしっかりと立っていて力も乗り、叩くのではなく斬ることを意識した動きであった。


『ザシュ』


『ドッ、ドドン』


肉を断ち切る音がすると、今際の鳴き声も上げられなかった山猫が二つに別れて地面に激突した。


「へへっ、どんなもんだい?」


「うん、良い感じだね。後はそれを身体に刻み込ませて、次の段階は避けられても続けて動けるようにする練習だな」


「おおよ! どんどん教えてくれよ!」


テントに泊まりながら練習を継続していく。

ヴィゴールの言っていた通り剣との相性が良いのか次々と吸収していった。


王都が見えてくるとライリが急に聞き出す。

自分なりに色々と考えていたのかもしれない。


「そう言やリクトは旅してたって言ってたけど、ずっと一人で動いていたのか?」


「いや、前までは四人だったな」


前の異世界でのパーティーを思い出して人数だけ伝える。


「全部、男か?」


「男二人の、女二人だった」


「ふぅぅん。そうなのか。……俺たちも、仲間に後二人は欲しいところだな」


ライリの考えていることは分かった。

分かりやすいのである。

なぜ解散したのか。

一組は一緒になったとしても、もう一人の女は如何したのかと。


だが前の異世界のことなど話せる訳もない。

ニヤけている顔を見ながら「そうだな」と言って話しを終わらせる。

そしてヴィゴールに言われていた理由を、さりげなく聞けるタイミングだと口を開いた。


「ところでライリは、狩猟人組合に登録したいと思った、何かの切っ掛けでもあったのか?」


「切っ掛け?」


『そうじゃ! 何故儂の神託を無視しておったのじゃ?』


念話は届かないだろうが、今まで静かだった爺が出てきてムキになる。

リクトはサラッと聞き流して頷いた。


「別にないなぁ。――強いて言えば、格好いいからかな?」


「……何時の間にか胸騒ぎを覚えるようになって、狩猟人組合に登録をしなければならないと感じたとか。何かをしなければならない夢を見たとか、そう言うのはないのか?」


「うぅぅん、――ないなぁ」


「……神様に、お祈りはしてる?」


「まったく? リクトは信じてるのかよ! そんなもん居るわけねえだろ?」


疑問だった勇者が動かなかった理由は、どうやら信仰心がなくて神託が届かなかったようだった。


『ハアァァァァァァ。なっ、何たることじゃぁぁぁ』


 ヴィゴールの鬱陶しい溜め息が、リクトの頭に響き渡った。



王都デニアの教会では大騒ぎとなっていた。

勇者の誕生と共にその者の特徴と、神剣が眠る場所の二つが神託として、教会で最高位となるウィル司教に下されたのだ。


長年にわたって、神から言葉を頂戴できないものかと望んではいた。

だが初めて下された神託、それも突然ウィル司教に下されたとして教会中が騒然となったのだ。


右に左にと走り回る者たち。

あちらこちらで感極まって思いの丈を述べる者たち。

隠れながら何故急に神託が下されたのかと思いをぶつける者たち。


だが全ての者に共通していることは、人類悲願の魔王討伐こそが残虐非道な魔人からの解放であると、神に感謝を捧げていることだった。


国王にも報告がなされる。

領主以上の上級貴族にも話しが通っていった。

誰もが個人での強き者を、待ち望んでいたのだ。

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