海に沈むジグラート 第47話【扉を開く者】

七海ポルカ

第1話 扉を開く者



 ……ジィナイース……



 誰かが自分を呼んでいる。

 夢の中で、そう思った。

 でも、ふと気づいて、そうかこれはもう自分の名前じゃないんだと思い出した。

 だから、これは自分を呼んでる声じゃない。

 なんだか身体がふわふわする。平衡感覚を失ったようだ。横になって眠っているのに。


 幼い頃、一時期船で生活をしていた。

 いつも地面が揺れているから、陸に降り立つと地面がとても固く、重く感じた。

 でも地面は普通揺れないものなのだ。自分がいる世界の方が違うんだなあとそんなことを、幼い自分は思ったことをよく覚えている。

 祖父の顔。その仲間達の顔。何人かはまだ顔を覚えているが、大部分はうっすらとしか思い出せず、明確な表情は忘れてしまった。

 ネーリが覚えているのは、彼らの笑い声や話した言葉で、それはまだ鮮明に覚えられているものがいくつもあった。


(でもいつか、そういうものも忘れていくんだろうな)


 いつか祖父のことも、忘れていくのだろうか?

 忘れたくなくても……。

 それとも忘れたくないと願えば、本当に大切な記憶だけは、

 ……一つだけは、覚えておけるものなのだろうか。

 ジィナイースという存在。

 母が名付けて、父が名付けてくれた名はすでに死んだ。

 誰もがその名の、本当の意味を忘れていく。

 忘れるというより、名を呼んでも意味がないから諦めていくのだろうと思う。

 自分すら、諦めている。その名で呼ばれることを。

 だから、その名の中に確かにあった運命も、埋もれ行く。

 誰も掘り起こす者もいない。

 地上の秘密になって行くだろう。


 ……ジィナイース……。


 微かに聞こえた声が、女性の声に聞こえた。

 懐かしいような。

 ひどく優しい、女の声だ。

 でもきっと、自分の思い過ごしだろう。

(全然覚えてないけど、お母さんかな?)

 ごめんね、と思う。

(ごめんね。その名前で呼ばれても僕はもう、返事をしてあげられないんだ)

 だから……。



 ……【ネーリ】……。







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