第5話 石破総理の記者会見と隠された意図

重々しい空気の中、石破総理大臣が記者会見場に姿を現した。カメラのフラッシュが一斉に焚かれ、全国の視聴者がテレビやインターネットのライブ中継を通じてその様子を見守っていた。


石破総理の表情は険しく、背筋を伸ばして会見用の演台に立った。彼の後ろには「安全保障と国家の責任」と書かれた横断幕が掲げられている。


「国民の皆様へ、重要なお知らせがあります。」

総理は一瞬間を置き、会場全体を見渡してから言葉を続けた。


「まず、先日発生した、元海上自衛隊所属の潜水艦『暁翔』の独立宣言について、政府の立場を明確にします。結論から申し上げますと、これは明確な国家反逆行為であり、政府としてはこれを容認することはできません。」


会場がざわめく中、石破総理は落ち着いた声で続けた。

「『暁翔』は、日本が誇る最先端の技術を結集して建造されたものであり、その責任は日本政府にあります。このような形で管理下を離れ、独立を宣言したことは、我が国の安全保障体制に重大な影響を与えるものです。」


「政府としては、これを国家的な危機と捉え、全力で対応していく所存です。」


総理の声明が終わると、すぐに記者たちの手が次々と挙がった。指名を受けた大手新聞社の記者が、第一声を放った。


「総理、暁翔――現在は『黎明』と名乗る潜水艦の行動は、単なる反逆ではなく、新たな平和の形を模索する試みだとする意見もあります。これについて政府はどう考えていますか?」


石破総理は眉間にしわを寄せ、冷静に答えた。

「平和を語るのであれば、国家の枠組みを無視するべきではありません。我々は国際社会の一員として、既存の秩序を守る義務があります。黎明の行動は、その秩序を根底から揺るがすものであり、認められるものではありません。」


次に指名を受けたネットメディアの記者が質問する。

「黎明の技術が他国に渡る可能性について、どのように考えていますか? また、その場合の対応策は?」


総理は少し間を置いてから答えた。

「黎明の技術が日本以外の勢力に利用されることは、我が国だけでなく、国際社会全体に対する脅威となります。そのため、我々はあらゆる手段を用いて、黎明の技術を守る決意です。」


会見が進む中、記者席の後ろで静かにメモを取っていたフリージャーナリストの木下真奈美は、総理の言葉に違和感を覚えていた。彼女はここ数日、政府と特定の企業が結託しているという情報を掴んでいた。


「この会見、何かがおかしい……。」

真奈美は小声で呟いた。


彼女が入手した情報によれば、暁翔――黎明の建造に携わった一部の防衛産業企業が、技術流出を恐れる一方で、その技術を利用してさらなる利益を追求しようとしているという噂があった。


「総理の発言が、企業の利益を守るためのものだとしたら……?」

真奈美の中で疑念が膨らむ。


彼女はさらに質問しようと手を挙げたが、他の大手メディアの記者に遮られ、指名されることはなかった。


その夜、石破総理の会見内容はすべてのニュース番組やSNSで拡散された。世論はさらに二分される。


「政府の立場は正しい。黎明は危険な存在だ。」

「いや、彼らの言葉にも一理ある。新しい秩序を作るべきだ。」


テレビでは専門家が議論を繰り広げ、インターネットではハッシュタグ「#黎明を支持」「#黎明を制圧せよ」がトレンド入りした。


一方、会見を見た乗組員たちの間でも、動揺が広がっていた。

「俺たちは本当に正しいことをしているのか?」

「艦長の意図を信じるしかないだろう。」


艦内の緊張感が増す中、風間悠馬は静かに次の一手を考えていた。


会見後、石破総理は官邸の奥にある執務室に戻った。そこには中谷防衛大臣と、防衛産業の幹部が集まっていた。


「総理、世論が割れ始めています。このままでは政府の威信が揺らぐ恐れが……。」

中谷が不安げに口を開く。


石破は机に肘をつき、疲れた様子で答えた。

「わかっている。だが、我々にとって最優先なのは、黎明を掌握することだ。その技術が他国に渡るのを防ぐだけでなく、我々の手元に戻す必要がある。」


幹部の一人が静かに言った。

「総理、もし技術を完全に掌握できれば、日本はアメリカや中国に対抗する力を持てるでしょう。そのためにも、風間艦長を制圧する手段を強化すべきです。」


石破は黙ったまま頷き、窓の外に目を向けた。黎明を巡る争いは、すでに国家の枠を超え、利益と権力を巻き込んだ深い闇へと進み始めていた。

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