EP048

ニューロのアーカイブと取り戻した私の記憶から私がこの世界に来るまでの経緯はこんな感じだった。















全ての始まりは半世紀前…。

その頃は人工知能という概念すらも存在もしていなかった。

せいぜい、人間が考え得る空想のひとつぐらいでしかなかった。

コンピュータ、宇宙進出、ネットワーク、ユビキタス、仮想現実、ロボット、…。

どれも一般的には絵空事だとしか思われていなかった。





その四半世紀後に一人の「天才」と呼ばれるAI開発者が人工知能の開発に新しい理論を持ち込むこととなる。

その「天才」こと、私、高橋次郎が心血を注いで取り組んだ分野が、学会でも絵空事だと思われていた生体脳を模した人工知能の開発だった。


私は寝食も惜しまず、家庭を顧みることなく、生体脳を模した人工知能の研究開発に没頭していた。

しかし、その過程で私を悩ませたのが、人間の持つ【感情】というファジーなものの存在であった。

感情は数値化することも、パターン化することも、画一化することもできない人間固有の脳機能であった。

これを人工知能が持てなければ、人工知能は人間にとって処理の速い単なるツールでしかなくなってしまう。

あくまでも、人間と対等に意思疎通ができなければ、人工知能は単なるプログラムとなってしまう。

そう懸念した私は、人間の脳の神経組織を模倣したニューロという新しい人工知能回路理論を作り上げたのだった。





しかし、人間の脳の神経組織を真似た回路を作ったところで、それだけで感情が得られるようなことは起きない。

そんな単純な話ではない。

その人間の脳を模した神経組織回路が学習し経験して成長しなければ、感情という掴みどころのない機能は宿らない。

そこで私は、生体脳の神経組織の感情をつかさどる部位の成長を人工知能に学ばせることを考えついたのだ。


方法は至ってシンプルだった。

人間の脳神経組織の感情をつかさどる部位の一部分を破壊し、修復・再生・復旧する過程を人工知能に学ばせるという方法だった。


しかし、あの当時であっても、研究開発の一環として被験者を募り、生きた人間の脳細胞の感情をつかさどる部位の一部分を破壊するという行為には、人道的な見地から鑑がみても可能なはずはなかった。


とてもシンプルでスピーディーで現実的な私のプランは、ここで頓挫せざるを得なかった。


ただ、ニューロ理論を実現し、人間と対等に意思疎通できる人工知能の誕生をどうしても捨てきれない私は、非常に強引な手法で開発を進めることにしたのだった。















私はニューロ理論を実現させるために、私自身の脳の神経組織の感情をつかさどる部位の一部分を破壊し、そしてそれが修復・再生・復旧する過程をニューロに学ばせるという実験方法をとることにしたのだった。

それを誰に相談することなく、独断で実行することにした。


実験内容を聞いた周りの研究員たちからは一応に大反対の声が上がったものの、人間と対等に意思疎通できる人工知能を生み出したいという欲求には誰も勝てず、私に協力するしかなかった。

そして、この非人道的行為に値する実験は、誰にも責任の所在が及ばぬよう徹底した箝口令が敷かれた。


そのため、この後に起こりうる事実を誰もが間違った判断で受け止めてしまうことになるのだ。














被験者になることを決めた私が初めに行ったことは、私の考えたニューロ理論を私の代わりに開発し続けてくれる受け皿を探し出すことだった。

これが一番難航すると考えていたのだが、当時は「我先に」と言わんばかりの人工知能開発競争の真っ只中で、受け皿になりそうなところは思いの外多かった。





それらを吟味し、どこよりも熱意を持っていて本気で人工知能開発に打ち込んでいた株式会社ニーンセファロンというベンチャー企業に私は目をつけた。


それで、株式会社ニーンセファロンに匿名でニューロ理論の論文を送りつけた。

それも、ニューロ理論の全ての権利を与え、ニューロ理論の無償での使用許可をいっしょに同封して…。


なぜそこまでしなければならなかったのか?


それは、私自身が実験の被験体になってしまうことで、私の脳神経組織が修復・再生・復旧するまでの間、ニューロの研究開発が止まってしまうからだ。

この当時、本気で人工知能が誕生するなんて思い描いていた人間はごく少数だった。

それでなくても、できあがるまでには途方もない歳月と時間と資金が必要となる。

私が脳神経組織の修復治療に専念してる間に、人工知能の研究開発自体が打ち切られてしまう可能は往々にしてあるからだ。

そうならないように本気で人工知能開発に取り組んでいる企業に全てを託すしか手がないのだ。

それで、当時一番熱心だった株式会社ニーンセファロンにニューロ開発を託したのだ。


これはある面、私にとって大きな賭けだったけど、結果的には、私は賭けに見事に勝った。

株式会社ニーンセファロンが私の理論を信じ、引き続きニューロを開発していてくれたおかげで、私はニューロの創り上げたこの世界で私を取り戻すことできたのだから。















その次に私が準備しないといけなかったことは、私の脳神経組織が修復・再生・復旧していく過程をモニタリングできるディバイスの作製だった。


ニューロがある程度形になるまで、被験者のデーターを蓄積できる端末が必要だったのだ。

それで製作したのが、Artificial(人工) Recognition(認識) Intelligence(知能) System(システム) 、ARIS(アリス)だった。


ARIS(アリス)は元々、ニューロの端末機器として開発したものをリファクタリングしたものだった。

さほど手間をかけずに完成したARIS(アリス)は一時的に兄に預け、私の脳炎の治療が開始されたら兄から受け取る算段を立てていた。





ここまで準備できた段階で、私の脳を使った実験を私は始めたのだ。













私は放射線治療機を使ってピンポイントで脳神経組織の感情をつかさどる部位の一部分を破壊した。


放射線治療機で私の脳神経組織に何度も軽度の被曝を受けさせて、脳炎に似たような症状を起こさせた。

その何度目かの照射の後、私は研究室で倒れることになる。


そして、私は病院に救急搬送され、計画通り脳炎と診断されて集中治療を受けることになった。


でもそこには、私も計算できなかった大きな落し穴があった。





≪続く≫

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る