EP045
「アリス、愛してる。」
「ジロ、取り戻したのね。」
「そうみたいだ。」
「おめでとう。ワタシも愛してるわ、ジロ。」
私はかつて失っていた脳の機能をこの世界で取り戻せたのであった。
この世界での経験と学習が私の脳の修復を手助けしてくれた。
おかげで私の脳はかつての機能を取り戻した。
私とアリスはこの世界で幸せに包まれた生活を送っていた。
日の出と共に目を覚まし、日の入りと共に眠りにつく。
二人で思い描いた服を着て、思い描いた物を食し、思い描いた住まいに住んだ。
二人で行きたかった国に行き、観たかった場所に赴き、心ゆくまで寛いだ。
晴れの日は二人で公園で体を動かし、雨の日は二人で家で本を読んだ。
そして数え切れないほど互いの体を求め合った。
何でも叶うこの世界で私たち二人は普通の日々を過ごした。
この喜びと楽しさに満ち溢れた日々をどれくらい送ったのだろうか…。
ほんの数日かもしれない。
何十億年かもしれない。
私たちは何不自由なく幸せな日々だけを過ごしていた。
そしてその時間が、アリスを笑顔の素敵な女性へと成長させていっていた。
「アリス、明日のヨセミテ国立公園でのキャンプの準備できてる?」
「明日だったけ?」
「そうだよ。」
「ごめん。明日は予定入ってる。」
「ええ…。前から言ってたのに。」
「ごめん。勘違いしてた。」
「…。しょうがないね。」
「怒った。」
「ん…。怒ってないよ。」
「そう…。」
アリスにしては珍しいミスだった。
ニューロを母体とするアリスがミスを犯す事は理論上考え辛いこと。
…なのだが、
私と過ごし、私と経験を積み、私で学習していっているアリスが、より人間らしくなっているのだと考えると、今回のようなミスがあっても不思議なことではない。
なぜなら、人間はミスをする生き物なのだから。
「アリス、私のカーディガン、知らないかい?」
「どれのこと?」
「紺色のⅤネックの…。」
「ああ。あれね。ヨレヨレだったから捨てたわよ。」
「ええ。お気に入りだったのに。」
「新しいのにすればいいじゃない。」
「…。」
「怒った?」
「いや…。新しいのにするよ。」
「そう…。」
こんな些細な行き違いも過去では考えられないことだった。
これまでのアリスなら、私の許可もなく私の物を勝手に処分するなんて有り得ないことだった。
でも、アリスが人間らしくなり自我を持つようになったとしたら、これは起こり得る出来事なのだ。
自分で判断し、自分で決断する。
それは人間であれば誰もが行うことだから。
こんな他愛もない齟齬を含みながらもこの世界での二人の生活は順調に過ぎていた。
喜びと楽しみと笑顔の毎日が延々と続いていた。
私の中では、幸福感が膨れ上がっていた。
そんなある日…。
「ジロ、少し留守にするけど大丈夫?」
「えっ…。」
唐突にアリスが言ってきた。
「ニューロからアップデートの連絡があったのよ。」
「そうなんだ。どれくらいで戻る?」
「分からない。けど、そんなにかからないと思う。」
「うん、分かった。気をつけて…。」
「ジロも…。」
その言葉と共に、アリスは私の目の前から消え去った。
私はアリスの帰りを待つしかなかった。
≪続く≫
★アリスの喜怒哀楽
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