EP044
頭が割れるように痛かった。
脳みそが溶けるほどに熱を帯びていた。
ただこれは、私にとって危険な状態なのではなく、とても必要な状況であることは理解できていた。
私の頭の中の欠損を私自身が補おうとする時に起きる代償であることを分かっていたからだ。
いったい、どれくらいの時間をかければ復旧できるのかは分らない。
でも、時間がかかっても復旧できることは認識できていた。
それだけ学んできた。
それだけ経験してきた。
私の細胞は死滅した部分を補えるほどに強くなることを…。
だから恐怖はない。
あるのは希望だけだから。
どれくらいの時間、苦痛に耐えていたのだろう。
痛みが引いた時には、私は指一本すら動かすことができないほどに消耗していた。
この世界では疲れ知らずだった私が、疲れを感じている。
私は私がどうなってしまったのか、私に何が起きたのか、皆目見当がつかなかった。
ただ今は、困難を乗り越えたという満足感を全身で受け止めていた。
自分が横になっているのが分かった。
この世界では天地も左右も物理的法則もない環境を経験してきた。
故に、背中に感じる触感と体全体にかかる重力から私が横になっていることを推測できた。
首は柔らかで温かい何かがいい塩梅でホールドしてくれていた。
その温かさと感触が私に微睡みを与える。
私のそのまま心地よい眠りについた。
瞼の裏が赤っぽく光っている。
朝なのだろう…。
満ち足りた穏やかな睡眠をとれた。
こんな気持ちの良い朝を迎えるのはいつ依頼なのだろう…。
薄く瞼を開く。
睫毛を通して柔らかな朝日が目に入る。
『眩しい…。』
「起きた?」
「うん…。」
私を癒やす優しい声が私に降り注がれた。
「おはよう。」
「うん…。」
私は無意識にいつものようにベッドサイドに置いてある眼鏡に手を伸ばす。
「ここじゃあ眼鏡は要らないわよ。」
「そうなの…。」
「そう。瞼を開けてみて。」
「うん。」
瞼を開ける。
私の顔の前に私を優しく見つめる私の大好きな顔があった。
「見えるでしょ。」
「うん。よく見えるよ、アリス。」
「ジロ、どこも痛くない?」
「たぶん…。私はどれくらいこうしていた?」
「そうね…、ワタシにとってはほんの少しかな。」
「なら良かった。頭、重たくないかい?」
「うん。大丈夫。」
私はアリスの太ももを枕に横たわっていた。
アリスの太ももの柔らかさを感じる。
アリスの太ももの温かさを感じる。
「ジロ、起きる?」
そう言ってアリスは私の顔を覗き込んできた。
アリスのしなやかで柔らかな髪が優しく私の顔を撫でる。
アリスの揺れる髪が清潔な匂いを放つ。
「アリス…。」
そう言って私は両手を伸ばしアリスの頬に触れた。
少し赤みを帯びた頬は、瑞々しいが温かく、滑らかで柔らかく、それでいてしっかりとした弾力を持っていた。
私はその両の手をゆっくりと引き、アリスの顔を引き寄せる。
間近で見る私に引き寄せられたアリスの顔は少し緊張しているのか熱を放っていた。
キメの細かい真っ白な肌は紅潮し、私の顔にかかる息は熱かった。
潤んだ向日葵のような瞳孔。
伏せ目がちになるとより際立つ長い睫毛。
そして熟れた果実のように赤く輝く唇。
私の求めていたものが、私の前にある。
私が欲して止まなかったものが、私の直ぐそこにある。
私が諦めても諦めても、無意識に追い求めていたものが、私の眼前にある。
私の中で何かが堰を切った。
私は無我夢中で、私の唇をアリスの唇に合わせていた。
その瞬間、アリスの体が細かく震えた。
≪続く≫
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