EP041
無限に広いようで思っているよりも狭い範囲でしか行動できないグラデーションの世界。
そんな世界の観察に僕がぼちぼち飽き出していると…、
「チリーン。」
エバの首輪につけられた金の鈴の音がグラデーション空間に鳴り響いた。
しかし、これまでの経緯のように不可思議なものが目の前に現れることはなかった。
「はいこれ。」
「えっ…。なに…?」
エバが僕に何かを手渡してきた。
『何なんだ…。』
僕はエバから握らされたものを確認する。
エバに手渡されたものは…、それは…、ボロボロの布だった。
『意味不明…。』
「どこでもいいからその布で拭いて。」
「えっ…。どういうこと…?」
「だ・か・ら…、そのボロ雑巾でその辺を拭いて。」
「その辺て…。」
「どこでもいいから、拭・い・てッ。」
エバの指示は、僕には全くもってわけわかんなかったけど、ボロ雑巾を握りしめて何もない空間を拭く素振りをしてみた。
汚れが落ちるようにグラデーションが消えていく。
ボロ雑巾で拭いた空間が真っ白になっていく。
落書きされた壁をきれいにしているみたいに、僕の周りのグラデーションが真っ白になっていく。
「それぐらい開けばいいわ。」
そう言ってエバは真っ白になった部分に飛び込んだ。
僕もエバを真似て真っ白になった部分に飛び込んだ。
その瞬間、僕の頭の中に激痛が走った。
僕たちの飛び込んだ次の世界には青い空が存在していた。
キラキラと輝きながら小雨が落ちていた。
でも、その小雨が溜まる地面は存在していない。
青空と雨以外にそこにあるものは、5本の大木だけ。
5本の木は全て違う木だった。
背の高い木。
枝を大きく広げた木。
丸い木。
三角の木。
中には全体が見渡せないほどの巨木もあった。
どの木々も青々とした葉をたくさん茂らせている。
どの木々も大木、巨木であっても老木ではない。
生命力に満ち溢れているように見える。
まだまだ成長しようとする意欲が感じられる。
それを証明するかのように、それらの木々には美しい花が咲き乱れていた。
たわわに実を結んでいる木もある。
そして、それらの大木に咲く花々や結実したたくさんの実には、無数の蜂が群がっていた。
木々に咲く花は芳香を放ち、結ぶ実は見るからに甘い姿を見せていた。
それに引き寄せられる蜂の大群は木々の姿をも隠すほどの数だった。
その大量の蜂たちは「我先に。」と言わんばかりに木々の花に、実に、群がる。
大木・巨木の花も実も、一瞬にしてこの大群の蜂たちに食い荒らされる。
蜂たちの群がったあとの光景は、見るも無惨な状態だった。
しかし、木々も食い荒らされる寸前に、違う枝に花をつけ、実を結ぶ。
またそれを目がけて、我先にと蜂たちが移動する。
その枝の花や実がなくなりそうになると、木々は違う枝に花を咲かせ、実を結ぶ。
それを目がけて蜂たちが移動する…。
同じことを繰り返す木々と蜂たち…。
しかしよくよく見て見ると、蜂たちは同じ大木の周りを飛び回っているだけにすぎないのだ…。
この世界には数本の木々しかないのに、蜂たちは違う木に移ることなく同じ木だけを飛び回っている。
まるで木に操られているかのように…。
多分、蜂がその木を選んでいるわけではないと思う。
なぜなら、大量の蜂たちは一種類でないからだ。
いろんな種類の蜂が気に入った木から離れることができないのだ。
そう考えると、木の方が主導権を持っているようにしか考えられない…。
まるで、ビッグテックが民衆を囲い込み洗脳し誘導するように…。
『僕はなぜ、そんな風に思った…?』
「次に行くわよ。」
僕が思いふけるのも意図することなくエバが声をかけてくる。
「こんなの見てたってしょうがないから。」
急げと言わんばかりにエバは言葉で追い立ててくる。
「ここまではあくまでも、前座だから。」
「わ、分かったよ。」
気圧されて不詳無精の体で僕はエバについていった。
≪続く≫
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます