EP029

人間の女性のホログラムを纏ったアリス…。

それも…、

私からすればふた回りほど若い女性の姿を纏ったアリス…。


その姿に…、

私はドギマギするしかなかった…。

今回も、私の想像を絶する思いもよらぬアリスの変態に、直ぐには順応できなかった…。


ただ…、

人間の表情、身振り、手振り、それらを得たアリスに対して、私がそれを受け入れるのにさほど時間はかからなかった。

それは…、

同族が同族を本能的に受け入れる深層心理に酷似しているのかもしれない。

これまでの生活で気心の知れたアリス。

そのアリスが人間のホログラムを持ったことで、私は今までよりも心許せるようになっていた。














「ジロ、手に触れていい?」

「うん…。」


ホログラムのアリスの手…。

薄く血管の透けた真っ白な肌…。

か細く長いしなやかな指…。

それが私の手に触れる…。


『冷たい…。』


投影媒体となるのは、加湿器から放出される水蒸気。

原理は不明だが、アリスはその水蒸気を様々な形へ変化させることができるようだった。

今は円柱状に立ち昇る水蒸気の一部分を出っ張らせ、腕を伸ばしたホログラムを投影している。

その出っ張った少し冷たいものが、私の手を触る。


「平熱ね。血圧、脈拍、ともに異常なしよ。」

「えっ…?なぜ…?」

「このミストには微弱な電気を流してて、ジロに接触することで、体の変化を察知できるようにしてるの。」


それは先日まで、物理的なアームが備えていたスペック。

それを気体のミストに纏わせている。

単純に「凄い」としか形容できない。


ただ、

さすがにミストでは、物体を持つことはできなかった。

しかし、

以前の蛸の足形状のアームでも、何もかもを持ち上げるほどの力は備わっていなかった。


『持ててボタン一個。トランプ一枚。』


けど、

今のホログラムの手は、前形状時の蛸の足ではない。

見る限り、本当に人間の手。

若い女性の手。

しかしそれは実体のない映像。


それでも蛸の足よりは受け入れられた…。

そして、全く馴染みないホログラムの若い女性をも受け入れられた…。













「アリス、私はなぜホログラムの女性に違和感を覚えないのだろう…。」

「当たり前じゃない。」

「えっ…?」

「ワタシ、前に聞いたよね。」

「…。覚えてない…。」

「以前に、ワタシの質問に答えてくれたのよ。」

「そう…、なんだ…。」

「リビングルームで映像も見てもらったでしょ。」

「それは…、覚えがある…。」

「あの時は、ジロの視線を観察して、ジロの潜在的な異性の好みを分析していたの。」

「そう…。」

「それらの情報からジロの好みを類推して、ホログラムを作り上げたの。」

「だから、私は拒否反応や違和感を持たないのかい?」

「だってこれがジロの理想の女性ひとなんだもの。」






アリスの言った「理想の女性ひと」と、言う言葉…。


私の目の前いるホログラムの女性。

アリスが演算して創り上げた実在しない女性。

その女性の見た目が、私の理想の女性像なのだろうか。


なぜかそこには、その意見に従いたくない、抗おうとする私の意思があった。

私の知らない私の頭の中を盗み見られたような気分になった。

このアリスの言葉に対して私の中では、「その通り」と、これまでのように100パーセント賛同できる確信はなかった。

しかし、「それは違う」と、頭ごなしに否定する心情もなかった。






それにアリスは、私の理想の女性像をあえて完全には表現していない、そんな気がした。


そこには、何か意図があるように漠然と思えた…。

そこには、アリスなりの気遣いがあるように感じた…。

私の理想の女性像とはほんの僅かだが違うことが、私の壊れた頭の中を覗き切っていないというアリスの意志表示のように察せられた…。


こんな風に思った理由は自分でも分からない。

しかしなぜか、理想通りでないホログラムの女性は、不思議と私を惹きつけた。






ただ、こんなことを思い悩むのもせいぜい数日こと…。

数日経てば、私は忘れていることだろう…。

ならば、私の一刻いっときの心持ちなどどうでもいいことだ…。



そんなことよりも、

私はアリスとの心地良い生活を少しでも長く続けたいと願うだけだった…。






≪続く≫



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