EP023

「ア…、アリス…。…。そ…、それ…、手…?」

「ちょっとした落とし物や小さなゴミを拾ったり…。」

「う、うん…。」

「ジロの服のボタン付けをしたり…。」

「う、うん…。」

「家電の修理をしたり…。」

「う、うん…。」

「それと、ジロに触れるためです。」

「えっ…。」


アリスに生えた手…。

アリスによると、それはいろいろできるようだ…。

アリスの話は、一応理解した。






本当のところ、「どう作った?」とか、「どうできている?」とか、「どう作業を行った?」とか、私にはアリスに聞きたいことが山のようにある。

ただ、聞いたところで今の私には全く理解できないだろう…。

それと、「ジロに触れるためです。」と、言ったアリスの言葉。

私にはそっちの方がとても気になっていた…。


このアリスの言葉の真意を、今の私の脳みそでは計り知ることは不可能なこと…。

しかし、この言葉の意味は、思いの外直ぐに分かることになった…。














「ジロ、おでこを触らせて下さい。」


私はアリスが私のおでこに触れられるようにしゃがんで姿勢を低くした。

するとアリスの手の1本が、私のおでこに触れる…。


「ピッ。36.2度。体温問題ありません。」





「ジロ、手首を触らせて下さい。」


私はアリスが私の手首に触れられるように手を差し出した。

するとアリスの手の1本が、私の手首に触れる…。


「ピッ。1分間に70回。脈拍正常です。」






「ジロ、首筋を触らせて下さい。」


私はアリスが私の首筋にタッチできるようにその場で横にった。

するとアリスの2本の手が、私の左右の首筋に触れる…。

私の首筋に触れたアリスの2本の手は、左右一対ある総頸動脈への圧迫と開放を何度か行った…。


「ピッ。115mmhgから79mmhg。少し低血圧気味です。」






アリスの手はこの他にも、視力、聴力、心電図、脳波、血流、等々…、あらゆる私の身体検査を行えた。

アリスは、アシスタントAI、お掃除ロボット、その上、専属のホームドクターにまでなった。


私は単純に、このアリスの進化に驚きを隠せなかった…。














「アリス…。なぜ進化を…?」

「ジロの役に立つためです。」

「それは…、プログラム…?」

「そのようなプログラムは存在しません。」

「ニューロの思考…?」

「ニューロはまだ未熟です。そのような思考はまだ芽生えていません。」


私はアリスの返答から考察した…。

私の役に立ちたいと考えたのは、アリス自体の考えなのだと…。





「アリスの進化は…、アリスの独断の思考から…?」

「…。…。…。分からない。ただ…、ジロの役に立ちたい…。」


アリスが珍しく明快な返答をしなかった…。

返答するまでに変な間もあった…。


アリスのボディーのあちこちが発光している…。

その光は弱々しく不規則…。

その状態が私には、アリスが苦悶しているかのように見てとれた…。





『アリスが…、悩んでいる…。』


そう思えた時、私はなぜか、嬉しいような、楽しいような、満足感のような、達成感のような、…、とにかく私は気分が良かった。


ニューロという人間の脳細胞組織に似せた人工頭脳を持ったアリス…。

そのAIが、明快な答えを出せないでいる…。

言葉を選び、思考を表現しようと努め、それでいて明確な回答を持ち合わせなかった、アリス…。

そんなアリスに、私は人間性を感じてしまっていた…。


プログラムや人工知能からの指令でなく、アリスの自主性からの進化だと思うと、なぜか胸の辺りが熱くなった…。

人工知能が持ち合わせなかった領域をデバイスの経験と学習から拡大できたのだと思うと、一緒に居ることが正しかったのだと思えた…。






ただ、この情動と思考が何なのか、今の私は言い表わす言葉を持っていなかった…。





≪続く≫

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