第7話 燎原の火

 深夜になると、SNSのアカウントを再度確認する。本当は30秒ごとにでもチェックしたかったが、あえて楽しみは夜まで取っておこうと思った。


 今頃スキャンダルで二人のアカウントは大炎上している頃だろうか。この時ばかりは陰キャをなぶりものにして遊ぶ奴らの心理が理解出来た気がした。


「さて、奴らも火ダルマに……」


 スマホでSNSを開いた俺はフリーズする。


 殺害予告が届いていた――いや、違う。そんなのじゃない。


 どういうわけか、KJもじゅりぴも平常運転でSNSを投稿し続けていた。


「なぜだ……」


 割と衝撃的な内容のリプライをしたはずだが、どうしてかこの二人には何の影響も与えられていない。


 そんなバカな。なぜだ。


 俺は窮地に陥った少年漫画の敵キャラよろしく動揺する。


 暴露を行ったアカウントに切り替えると、その謎は解けた。


「ブロック、だと……?」


 俺の暴露用アカウントは、KJとじゅりぴからブロックされていた。画面に浮かぶ「ブロックされています」の表示。この状態だと、メッセージを送った方にはこちらの発言が見えなくなる。


 第三者にもブロックをされたアカウントのリプライは表示されなくなる。だからネット有名人はあえて誹謗中傷を繰り返すアカウントはブロックして、誰にも見えないようにすることがままある。


 何も複雑なことはない。俺の暴露はブロックという手法で揉み消された。起ったことはそれだけだ。


 代わりにKJやじゅりぴのフォロワーから鬼のように攻撃的なメッセージやダイレクトメッセージが届いていた。ブロックされる前に暴露のメッセージを見た奴だろう。


「KJに嫉妬?www どうせ陰キャの童貞なんだろwwwwww」

「あんたじゅりぴの嘘書いてんじゃないよ。通報しとくからね」

「明日からお前のクラスって大変だろうなwwwwwwwwww」

「死ねカス」

「お前みたいな奴が誹謗中傷するから傷付く人が消えないんだぞ。分かってるのか?」

「お前ぜってーじゅりぴのストーカーだろマジキモい」


 おそらくエミネムとフリースタイルで対決してもここまで盛大にはディスられないだろう。それだけの罵詈雑言があった。


 さすがにここまで来ると現実感がないというか、こちら側へ突進してくるピラニアたちの水槽を眺めている気分だった。


 とはいえ、このアカウントは使えなくなった。ブロックされたら意味がない。また別のアカウントを作った。


 もう一度二人のアカウントに暴露を投稿する。音速でブロックされた。


「クソが」


 さすがというか、自身を脅かす評判については対処が早い。だからこそ裏ではあれだけクズでもネット有名人として名を馳せることが出来ているのだろう。


 どうやらこの方法はうまくいきそうにない。


 俺をボコった最悪な奴らを社会的に抹殺する計画は失敗に終わった。書き込んだのは丹羽君のイジメについてだが、俺が書いたことぐらいには気付いているだろう。あいつらがそこまでバカだとも思えない。


 岡さんに連絡を取ってみようか。いや、ダメだ。彼女は鮫島一味と繋がっている。俺がLINEメッセージでも送れば、それは全て知られていると思った方がいい。


 どうすれば奴らを罰することが出来るのだろう?


 しばらく考えたが、手詰まりになった。なにせ彼らは3万人のフォロワーがいるのだ。言い換えれば、何かあればそれだけの数の味方がいるわけだ。勝てるはずがない。


 考えるのがバカバカしくなった。寝よう。冗談じゃない。悪魔め。


 鮫島たちを呪いながら、俺は眠りに就いた。

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