第6話 燃料投下

 なんとか生きて帰ってきた。


 だが、回復してくると腹が立ってくる。


 どうして現代の日本で俺があんな目に遭わないといけないのか。


 あんなの、時代錯誤のイジメも甚だしい。鮫島一味をまとめて地獄へ送ってやりたい。


 どうやって? 喧嘩で? ダメだ。間違いなく瞬殺される。鮫島賢司は生物的なレベルで俺とはあまりにも出来が違い過ぎる。やれば鮫と金魚の闘いになるだろう。


 じゃあどうすればいい?


 ほどなくして、名案が浮かぶ。


 クラスカーストの上位にいる奴らはほぼ全員がSNSをやっている。頭痛薬とは違い、半分以上が承認欲求で構成されているような奴らだ。日々「いいね」をもらうことに命を懸けている。そんな奴らの承認願望をあえて利用してやるのだ。


 さっそくスマホで奴らのアカウントを探す。あいつらはネット有名人でもあるので、かなりの人数のフォロワーが付いている。


 鮫島賢司はKJという名義でモデルやタレントもどきの仕事もやっており、人気投票の類に当たる企画があると強制的に星5の高評価をKJへと投票させられる。剛田武君もSNSをやっていたらこんな感じなんだろうか。


 真田樹里亜は「じゅりぴ」のアダ名で全国のJKからギャルモデルとして支持されている。あんなにいけ好かないギャルのくせにフォロワーは3万人もいる。世の中どうかしている。やばぴに改名しろ。


 KJとじゅりぴの親友を公言する明智颯太もネットでは有名人だ。中途半端なイケメンのくせに。たまに有名人と交友関係があるだけで、何の取り柄もない奴までが有名になってしまうことは確かにある。明智はそうやってクソの役にも立たないくせに地位ばかりを押し上げていった。会社なら一番嫌われるタイプだ。


 承認願望モンスターたちに対して、日本で一番かわいいJK候補の岡莉奈はSNSをやっていないようだった。本当に日本で一番かわいいJKがSNSをやっているとは限らない。


 岡莉奈は、まあいい。仮に裏切っていたとしても証拠不十分だ。疑わしきを罰するほど分別は失っていない。俺のターゲットは鮫島賢司、真田樹里亜、明智颯太の三人だ。こいつらはマジで許さない。社会的に殺してやる。


 胸が疼く。蹴られた腹が、再び痛みだした。後遺症とは違う、心的な何かが刺激されている感覚があった。あの瞬間を思い出すだけではらわたがが煮えくり返ってくる。


 ――舐めやがって。思い知らせてやる。


 はじめにSNSのアカウントを複数作成した。アカウント名はアニメのキャラからテキトーに作った。どうせ捨てアカだ。真面目に名前を付ける方がどうかしている。


 ほぼ匿名アカウントを作ると、大して好きでもないアーティストの話題をいくらか呟き、それから何人かのアイドルをフォローする。ロンダリングが終わったら鮫島と真田のアカウントもフォローする。


 フォローすれば向こうにも通知が行くが、フォロワーが3万人超えとなっている奴らなのだから誰が新しくフォローしたのかなんていちいち把握していない。なにせ「いいね」やリプライが大量に付くのだ。視界に入っているかどうかも怪しい。


 奴らの懐へと潜り込んだら、あとは暴露だ。


 KJにしてもじゅりぴにしても中途半端な芸能人みたいなものなので、いちいち告知が多い。大したことが出来るでもないのに、イベントがあるとせっせと宣伝の呟きを流している。そのたびにアホなフォロワーがいくつもの「いいね」を付けていた。どうせ閲覧数を稼ぎたいだけのインプレゾンビだ。


 これを利用しない手はない。俺が流した暴露は、瞬く間にこいつらを火ダルマにするだろう。


 さて、何をバラそうか。今日のことを書き込めば、さすがに俺の仕業とすぐにバレる。その時にはどんな報復をされるのか、想像しただけでも恐ろしくなる。


 それでも、あいつらが嫌われる材料は腐るほどある。発信力というのは諸刃の剣だ。正しい方向に使えばそれだけ効果を見せるが、やり方を間違えると命を奪われることだってある。


 カリスマJKやモデルのイケメンが裏でやっていることをバラされたらどうなるだろうか。その先を想像するとサディスティックな予感でゾクゾクした。


 はじめに鮫島賢司、ターゲットはお前だ。


 KJの呟き。リプライの形で暴露を投稿する。


『僕は鮫島君のクラスメイトです。この前のイケメン高校生日本一の投票で、鮫島君から投票を強制されました。他の生徒も皆同じ行為を強要されています。逆らった僕は殴られて鼻を骨折しました。鮫島君は僕に階段から落ちたと言えと命じてきました』


 リプライしたのは、他のクラスメイトの話だ。


 丹羽君という同じ陰キャの仲間同士。彼は無駄に正義感が強かったが、それがアダとなって鮫島から殴られた。かわいそうだから彼の悲劇をバラすことにした。本当は自分から目を逸らせるための工作だが。


 暴露は危険が伴う。公然と人を断罪した上にボコボコにするような奴らが逆上すれば何をするか分かったものじゃない。この件で何かがあってもせいぜい丹羽君がボコボコにされるだけだろう。その時は丹羽君、安らかに眠れ。君の死は無駄にしない。


 次にターゲットにしたのは「じゅりぴ」こと真田樹里亜だ。じゅりぴのアカウントに飛ぶと、告知のリプライに別の書き込みをする。


『僕はっじゅりぴのクラスメイトです。この前、じゅりぴに「お前チンチン絶対に小さいから見せてみろよ」と言われて、KJと明智颯太君に服を脱がされました。じゅりぴは僕を笑いものにして楽しそうにしていました。それがこの女の正体です』


 なかなか衝撃的な内容だ。事実だとバレればキャリアが終わるだろう。リプライの閲覧数を見ていると徐々に増えていく。


 ギャルモデルの競争は熾烈だ。ギャルが輝いていられる時期は本当に短い。スキャンダルで足を取られている間に真田の一番いい時期は過ぎ去っていく。それを想像すると、やはり胸がスッキリとした。


 閲覧数は画面を更新するごとに増えていく。俺のリプライは確かに他のユーザーへ表示されている。


 ただ、これはリプライをザーッと眺めていても増えていくものなので、特にインフルエンサーというやつのアカウントを相手にしている場合はどれだけの効果をもたらしているのかが怪しい。しばらくしないと効果の有無は分からないだろう。


 とりあえずやれることはやった。大したことをしていなくても有名になれるネット社会では、大したことのない呟きが原因でキャリアがいとも簡単に終わる場合もある。


 俺の放った火種は、果たして燎原の火の如く広がっていくのか。ちょっとその成りゆきを見てみたくなった。


 まあ、時間が経てばすぐに結果は出る。それまでは寝て待つことにしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る