転生したらラヴニカだった件 その⑧
「さあてジョニー! ここらでいっちょ文明に、キツイの一発入れてやろうぜ!」
僕は何がなにやらわからないまま、その手をとるしかなかった。
マジで、なんなんだ?
……マジでこいつ、なんでこんな、アホなんだ?
僕は握りしめた手を頼りに立ち上がり、手をほどき、改めて握手するフリをして――その場を飛び退き、叫ぶ。
「ラルさん!」
瞬間。
百万の雷光がラボの中を駆け回り、グルールの突撃隊連中を残らず貫いた。ドムリ含めて。体からしゅうしゅうと煙を上げながら倒れる音をBGMに、技師の服を脱いだラルさんがいつもの格好になり、ドムリに歩み寄りながらクスクス笑った。
「世の中みんな、こいつぐらい扱いやすかったら、苦労はねえのにな」
白目をむいて泡を吹くドムリの頭をコツン、つま先で蹴っ飛ばしながら、ラルさんはまた笑う。背後の
※※※※※※※※※※※※
「さーてドムリ、景気よく歌ってもらうぜ」
どっかり、ドムリの前に腰を下ろしたラルさんがニヤニヤしながら言った。椅子に縛り付けられ、完全に動きを封じられたドムリはしばらく彼をにらみ付けていたけれど、やがて吐き捨てるように言った。
「へッ、殺すなら殺せよ、イゼット野郎に言うことなんざ何もねえ」
「……俺は拷問なんて趣味じゃないんだがな、今は諸般の事情でかなり頭にきてて、ガキ一人フライにするぐらいならできちまいそうな気分なんだ。スパイクはどこだ」
「ハァ? スパイク? 誰だあぶぶぶぶぶぶッッ!」
ラルさんのガントレットから細い紫電が走り、パチパチと空気中を駆け、椅子の背に固定されたドムリの手の、ちょうど指先を貫き……また戻り、また貫き、数往復。
「オマエらに武器を渡して、計画の手引きをしたヤツだ。トボけるな。オマエがプレインズウォーカーだってことはとっくにバレてんだよ。覚えてるんだろ? 元のラヴニカを。にしても……ったく、グルールの連中が武装して、集団で、新々プラーフを襲撃する、なんざ、落ちるとこまで落ちたもんだな、ええ、ギルドマスターさんよ?」
「ガッ、てめッ、なっ、ぐぎゃッ……くそが、クソがっ、クソが!」
紫電に貫かれながらも、ラルさんの顔にツバを吐くドムリ。ラルさんはひょい、軽く躱す。
「文明をぶっ壊す! それがグルールだ! 第10管区だけじゃねえ、ラヴニカの都市すべてをぶっ潰して、文明を灰にするんだ! それがグルールだ! 俺がグルールだ! 誰にも文句は言わせねえぞ!」
「文明を使ってか」
がしゃん、とドムリの足下に、グルールたちが持っていた武器を放る。
「ああン!? ヘッ、アホな連中が自殺するための武器を作ってくれたんだ、石と弓矢でコンクリの街を壊せってか、はッ、ナメんじゃねえぞ、オマエらは単に、オレたちは原始人でいろ、そうでないなら意味深な占い師をやってろ、文明人さまの邪魔をすんなって、そう言いてえだけだろ、ナメんじゃねえぞイゼット! ザレック! 俺はグルールのギルドマスター、ドムリ=ラーデだ! 俺がいる限り、誰にもグルールはナメさせねえぞ!」
「……そうだな、ドムリ、俺はイゼットだ。オマエとは違ってスマートで都会的な文明人さ。ラヴニカ人のイゼット副長ラル=ザレック、それが俺だ。ニヴ様に代わり、俺はイゼットを統率する。目的を共有し、そのための技術を手に入れ、計画に沿って物事を実行する」
深いため息と共にそう言ったラルさんは、ぱじっ、ぱじじっ、と体の周囲に青白い雷光を漏らしながら、ドムリの目を見据えた。
「オマエが今さっきまでやってたことと、同じだな」
ドムリは何かに気付いたように、ハッ、と息を呑み、しかし憎々しげにラルさんをにらみ付ける。
「だ……だからなんだってんだ。ヘッ、原始人が自分たちの武器を使ったのが、そんなにお気に障ったってか? チンパンジーはバナナ食っとけってか? ナメんじゃねえぜイゼット。俺には覚悟があるんだよ、テメエらの文明をぶっ壊すためなら、なんだってやってやるって覚悟がな、せいぜいビビって小便漏らしとけ」
そこまで聞くとラルさんは肩をすくめ、背後を振り返った。
「だ、そうだぜ」
ずずん……と大きな音が響いて、彼が歩いてくる。
並の巨人よりもずっと大きな体躯。突き出た二本の角は、人なら五人ぐらいまとめて貫けそうな長さと鋭さ。そして目を引く単眼と、それよりも目を引く、巨大な体躯よりも巨大な、粗雑な作りの石斧。
「腹音鳴らし……ッ……!」
かつて打ち倒したはずのギルドマスターが、再び、ドムリの前に立っている。ラルさんが呼んだのだ。
「ドムリ」
歴史の始まりからそこにいるような、深く、嗄れた声。アイツ喋れる設定だっけ、と僕は驚いたけど、次元改変によるものなのだろうか。
「オマエは自由を求め、不自由を身に纏った。青空を求め、地下の暗闇に降りていった。旧き道のために、新たな道を歩いた」
腹音鳴らしがドムリの前に立つ。ラルさんがパチンッ、と指を鳴らすと彼の拘束が解ける。意外そうな顔をしてたドムリだけど、ラルさんが彼の杖を放ってやると、不敵に笑った。
「……またボコられに来たのかよ、おじいちゃん?」
ドムリは立ち上がると、両手をぐるぐると回してみせる。
「ドムリ」
腹音鳴らしが石斧を振りかぶる。
「オマエは文明を壊し、新たな文明を作った」
「だからなんだってんだよ!」
「オマエはグルールではない!」
ドムリが吠え、石斧が振り下ろされ、力と力が激突し……。
「よし行くぞ」
ザレックさんに肩を叩かれ、僕らはその場を後にした。
「見てかなくていいんですか?」
彼の後を追い、ニヴィックスの通路を駆けながら僕は言う。けど、ラルさんは肩をすくめ鼻で笑った。
「アホの原始人同士の石斧バトル見てるぐらいならアゾリウスのディナーショーにでも行ってた方がマシってもんだ。必要な情報は精神魔道士があらかたあさった。最後のは俺なりのギルド外交ってやつさ。それにな、よそ様の家の躾の問題にクチバシ突っ込むのはよくないぜ」
走りながらもくすくす笑うラルさん。なんか、意外と楽しい人なんだな……。
「それで、スパイクはどこに?」
「予想通りというかなんというか……」
階段を駆け上がり、屋上に出る。そこにはナウシカのメーヴェを百倍禍々しくメカメカしくしたみたいな、ジ・イゼット、みたいな飛行機――飛空挺――機械式グライダー? みたいなのが置いてあって、ゴーグルをかけたゴブリンがノンキに、鼻歌交じりで磨いている。
「あれ、ラルの旦那? お出かけで――あれぇぇぇぇぇぇ!」
ゴブリンを押しのけるとラルは、僕の手をひっつかみグライダーに飛び乗る。僕はあちこち辺りを見回してみるけれど、操縦席らしきものはどこにもない。3メートルぐらいの翼の真ん中に、アメリカ人に見せたら大喜びしそうなどでかいエンジンがついていて、その上にかろうじて、足を入れて止めるスペースや持ち手があるだけだ。ラルさんは何も言わずにそこに足を入れ、懐から出したゴーグルをつけ、ガントレットから青い稲妻をエンジンにぶち当て、ブロロロロンッッ、と野太い音が響く。
「ラルさん、あの、これ、僕、どこ」
「しっかり捕まってろよウガジン!」
返答を得る前に機械が宙に浮き、僕は慌ててラルさんの背中にしがみついた。
「飛ばすぞ!」
冗談みたいな加速で屋上から飛び立つイゼットのグライダーの上、ラルさんの背中、僕は、さっきのゴブリンみたいな声を我慢するので精一杯だった。
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